故事成語のお話

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完璧(かんぺき) 意味:完全で欠けたところがないこと。
怒髪天を衝く(どはつてんをつく) 意味:猛烈に怒っている形容。あまりの怒りに毛髪が天をつくほどの勢いで逆立つこと。

戦国時代の事。趙は惠文王(けいぶんおう)のとき、楚の和氏の璧(かしのへき)を手に入れた。
秦の昭王(しょうおう)がこれを聞いて、趙王に十五の城市と交換したい、と申し入れた。 趙王は、大将軍廉頗(れんぱ)をはじめ各大臣と相談した。 秦に璧を与えても、秦の城市は恐らく手に入らず、ただ騙されるだけであろう。 また与えなければ、秦の兵が攻めてくる心配がある。方針はなかなか決まらない。 秦に返答を持たせる使いを探したが、それもまだ見つからなかった。 宦官の長官である繆賢(びゅうけん)が

「私の家臣の藺相如(りんしょうじょ)なら使者としてお役に立てます」

と申し出た。

(中略)

そこで趙王は藺相如を召しだし、尋ねた。

「秦王が、十五の城市と和氏の璧の交換を申し入れてきたが、どうしたらよかろう」

藺相如は答えた。

「秦は強く、趙は弱い。承知しないわけにはいきますまい」

「しかし、秦が私の璧だけをとり、城市を与えなければどうする」

趙王がこう尋ねると、藺相如は答えた。

「秦が城市の交換を条件にだして璧を求めているのに、趙が応じなければ、非は趙にあることになります。 趙が璧を与えたのに秦が城市を与えなければ、非は秦にあることになります。 二つの策を比べてみた場合、非を秦に負わせたほうがよいでしょう」

「では、誰を使者としてたてたらよかろう」

趙王が尋ねると、藺相如は、

「王がどうしても適当な人物がいないということであれば、私が璧をお預かりして使いに赴きましょう。 もし、城市が趙のものとなれば、璧は秦においてまいります。城市が手に入らなければ、璧はそのまま趙に持ち帰りましょう」

と答えた。

そこで、趙王は藺相如に璧を託して秦へ使わした。

秦王は藺相如を章台と呼ばれる正式ではない宮殿で引見した。 相如が璧を秦王に奉じると、秦王は大変喜びで、侍女や近侍の者たちに回して見させた。 皆すばらしいと声を揃え秦王を褒め称えた。相如は秦王に城市を交換する気がないのを見て取り、前に進み出て言った。

「璧には傷がございます。大王にお教えしましょう」

秦王が璧を渡すと、相如はこれを持って後ずさりして柱の側に立つと、 逆立てた髪の毛で冠が押しあがるほど怒りをあらわにして、秦王に言った。

「大王は、璧を得ようと、使者を立て趙王に書簡を寄せられました。 趙王は群臣を集め協議をなさいましたが、皆口々に秦は貪欲で、強国であることを頼み、 口先だけの約束で璧を騙し取ろうとしている、代わりの城市は恐らく手に入るまいと申しました。 協議では秦に璧を与えるべきではないというのが大勢を占めました。 しかしながら、私は庶民の間でさえ互いに騙すことはないのに、まして大国がそのようなことをするはずがない。 また、璧一つのことで大国秦の機嫌を損ねてはならない、と主張しました。 そこで、趙王は五日間斎戒し、私に璧を奉じさせ、書簡を貴国の宮廷に届けさせたのです。 これも、大国の威厳を恐れ、敬意を表すためであります。 ところが、私がこちらに参れば、大王は大勢の中で私を引見されました。 これは礼に外れた傲慢な態度と言わざるを得ません。 璧を手にするや、侍女に渡し、お付の家来となぐさみものになさいました。 大王には城市を以って交換なさる気が無いとお見受けいたしましたので、 私は璧をまた取り戻したのでございます。 大王が私を強いて追い詰められるのであれば、このまま璧と一緒にこの頭を柱に打ち付け共に砕きたいと存じます」

そう言って、相如は柱をにらみつけると璧を持って、そのまま打ち付けようとした。 秦王は璧を砕かれてはまずいと思い、あわてて謝ると、役人を呼んで地図を持ってこさせ、 十五の城市を指し示して、これより先を趙に与えようと言った。 相如は秦王が趙に城市を与えると言っているのは口先だけのことで、 実際には得ることはできないだろうと考え、秦王に向かって言った。

「和氏の璧は天下に聞こえた名宝でありますが、趙王は秦を恐れて、献呈しないわけには参りませんでした。 趙王は璧を送るとき五日間斎戒いたしました。 大王におかれても、五日間斎戒なされ、宮廷で九賓の礼(きゅうひんのれい)を行われるべきでございます。 そうしてはじめて私は璧を奉りましょう」

秦王は無理に奪うこともできないと判断し、これを受け入れると五日間斎戒し、その間相如を広成(こうせい)の宿舎に泊らせた。 相如は、秦王は斎戒をしても約束を破り、城市を与えぬであろうと考え、 自分の従者を粗末な服に着がえさせると、璧を隠し持たせ、ひそかに間道を通って趙まで帰らせた。
秦王は5日間斎戒し、九賓の礼を宮廷で執り行い、趙の使者である藺相如を引見した。 相如はその場に着くと秦王に向かって言った。

「秦は繆公(ぼくこう)から二十人以上の君主が位につかれたが、約束を固く守られた方は誰一人としておられません。 私は秦王に欺かれて、趙の誓いに背くことになるのを恐れました。 それゆえ、璧はひそかに家臣に趙へ持ち帰らせました。 ただでさえ、秦は強く、趙は弱いのです。 大王が使者を一人お遣わしになれば、趙はすぐに璧を奉じてはせ参じましょう。 今、その強大な秦をもってして、先に15の城市を趙に割譲なされば、 どうして、趙は璧を抱え込んで、違約の罪を犯しましょうか。 私は大王を欺いた罪で誅殺される覚悟はできております。 どうぞ釜ゆでの刑に処してください。 大王におかれては大臣方とこれをよくよくご相談ください」

秦王は群臣たちと顔を見合わせて驚いた。 側近の中には相如を引き立てて行こうとする者もあったが、秦王は言った。

「今相如を殺しても、璧を得ることはできぬ。 しかも、秦と趙のよしみも絶つことになる。 むしろ手厚くもてなして、趙に帰らせるほうがよい。 趙王とて、璧一つのことで秦を欺きはすまい」

結局、宮廷で藺相如を謁見すると、儀式を終えて帰国させた。 相如が帰国すると、趙王は、諸侯に恥辱を受ける事のなかった賢者であるとして、 相如を上大夫に任命した。

とうとう秦は趙へ城市を与えることなく、趙も秦へ璧を与えることもなかった。

【史記・廉頗藺相如列伝】


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