A級 16W(差動7W)    2A3 PPアンプの製作                     2013.05.05   Katou@刈谷
2A3 PP.jpg 2A3PP鳥瞰.jpg
2A3はSYLVANIA製2枚プレート

パワーFETモジュール装着
2A3代替パワーFETモジュール装着時
  
<製作の経緯>
   ・’11年冬、お寺大会の自慢会に出品された「45シングル」を聞いて、久しぶりに直熱古典球も良いかな、と思ったのが始まりです。
    手元に40年以上昔に買った2A3が何本か有ります。
   高校時代に浅野 勇氏の「魅惑の真空管アンプ」に魅了され神戸の「サンセイエンタープライズ」から購入した球です。
    当時WE300B,50,DA30STC4300A等が遥かに安価で販売されておりPX25AD1WE349A等 を入手しました。
   ネット通販や銀行振込みなど無い時代ですから、無線と実験誌の広告を見て往復はがきで問合せし、現金書留で送金しました。
   名古屋でバスを乗り継ぎ「ツゲ電機」を捜し歩いて801Aを買ったこともあります。
   タマの入手は(特に地方では)現在より遥かに困難でしたから、現物を手に取ったときの喜びはひとしおでした。

  ・球は買いましたがトランスを買う余裕は無く、何時かはTANGO,サンスイLUXと組んで格好良いのを作ろうと夢見ていました。
   大学生になると半導体DCアンプに凝り、古典球では良い音が出せないと思う様になり大半の球を売却してしまいました。
   幸いWE349A2A3は今も手元に残っており、若き日の夢を実現すべく直熱古典球の2A3でアンプを製作することにしました。
   
  悪への誘い「魅 惑の真空管アンプ」 
    左:オリジナル         右:復刻版(広告無し)
浅野 勇氏著「魅惑の真空管アンプ」
  記事中「魅惑の真空管を語る」大座談会にて
  故 浅野 勇氏 2A3が1935年にでたでしょ、あれに皆飛び
           ついたんですよ、
あまりいい球じゃないですね
  故 伊藤 喜多男氏 私はA3でいい音出したことはない・・
               A3はどうしてもいい音しなかった 


    各社2A3
2A3のバリエーション
    左  : シルバニア 2枚独立プレート   造り◎
    中左: カナダマルコーニ H型プレート   造り○
    中右: RCA JAN−CRC H型プレート 造り雑
    右  : エレクトロハ−モニクス ロシア製ミニ300B ◎
         音質はエレハモを除き大同小異
    エレハモは300B似の1枚プレートで300Bの音がする
        これは安価で良い球だと思う

<構想>
     ・2A3真性 鈍球です。 最初期の1枚プレートは素晴らしい様ですがH型プレートは鈍い音で知られています。
   45が持つ繊細で透明な音は望めませんが、多少の馬力は持ち味 です。 300Bは馬力と量感を兼ね備えた名球です。
     そこで回路等の工夫で2A3の鈍さをを打ち消し音もパワーも300Bシングルに勝るとも劣らないアンプを目標としました。

    ・シングルでは300Bに太刀打ち出来 ないのでプッシュプルとし出力10W以上を目指します。

    ・私は1台で複数球を楽しむ汎用アンプ派ですが、本機は2A3専用アンプとし、最良のチューニングを追求します。

     ・貴重な2A3を壊さないようボンネット付きで、なるべくコンパクトかつ格好良いアンプとします。
   手元のリード「MK-350」シャーシ(W350×D200mm)を活用することにします。 ボンネット付きですが比較的安価です。

<主要部品・レイアウト検討>
  @主要部品             
    ・出力トランスはLUXの「OY15-6」を用い ます。 このOPTは同社の真空管プリメイン「SQ38FD」後期 型からの取外し品と思います。
   ネット通販で購入した中古品で二次巻き線は8Ωのみ、一次はP1-B-B2のみで接続銘板も資料も無いことから格安でした。

     ・電源トランスはTANGOの2A3専用トランス「MS360」を用います。 秋葉原のアポロ電子で新古品を衝動買いしました。

     ・ チョークコイルはLUXの 「4605」でこれもネット通販で入手した中古です。同社の「MQ60」等からの取外し品でしょうか、
   小型でコンパクトな本機にぴったりです。

     ・ブロックケミコンはJJ500V100μF×2を用います。 このケミコンは比較的高電圧となる電圧増幅段の電源に用います。

     ・シャーシは既述の通りリードの「MK-350」で 送料無料の通販ショップから買っておいたものです。

   Aレイアウト・意匠
  ・主役の2A3を最前面に4本一直線に配置し引き立てるレイアウトとします。 熱干渉防止と見た目のバランスから85mm間隔としました。
  ・2A3は背が 高くボンネット内に収まらないので10mm程沈めて取り付けます。 放熱穴付きサブプレートをヤフオクで入手しました。
   「ソケットプレート」 の名称で販売されています。

  ・2A3のIpとバランスを調整するボリューム及びチェック端子をチャンネル毎に2A3中央に配置します。上面から調整でき非常に便利です。

  ・後部は左から出力トランス、チョークコイル・ケミコン、電源トランスを配置します。 後部に重量物が集中するため、内部にアルミアングル
   を適宜配置し補強します。アルミ1.5mm厚シャーシですが十分な強度となります。

  ・出力トランス下の補強部材には入力レベルとNFのボリュームを取付け、ツマミとシャフトで連結します。NFボリュームは後述する初段回路
   基板と一体化し低レベル信号配線の短縮を図ります。

  ・前段管は出力管とトランスの間に4本一列に配置します。シャーシの四隅を黒色塗装し前後面に飾りのアルミバーを接着、LUX風にします。             

粗組み確認
     「粗組み状態」
     シャーシ上面にIpバランス・Ip調整VRを回す穴
     
及び、Ipバランス、Ip確認ジャック端子を設置。
補強部材配置
     「サブプ レート、補強部材取付け状況」
     入力とNFBのボリュームはシャフトで遠隔操 作。
       トランス間を繋ぐ部材が剛性を高めます。

<回路設計>
  @出力段          
    ・2A3の強い個性「鈍い中低音」を緩和し持ち味の「美しい高域」を生かすため、カソード定電流回路を用いたA級動作とします。

   ・OPTが6KΩですのでEp=310V Ip=48mAを基準としました。 赤線がプッシュプルのロードラインで予想出力は約13Wです。
           <2A3のIp/Ep特性図
        ロードライン
    ・カソードパスコンをスイッチでON/OFFし、非差動/差動切替え式とします。

  Aカソフォロ段
     ・電圧増幅管の負荷を低減し低歪領域で余裕を持って2A3をドライブするためカソフォロ段を設けます。ヒーター・カソード間耐圧
   を考慮し手元のTV球から12BH7Aを選択しました。

  B電圧増幅段
     ・2A3は電圧増幅管の音質により音が大きく左右されます。 馬力感と豊かな量感を引き出すべく電圧増幅段には豪放で量感豊か
       な球を選定します。鈍い2A3に量感の無い球、例えば12AU712AX7を持ってくると特に中低域で鈍さが一層際立ちます。
       馬力と量感を合せ持つ球を持ってくることで鈍さが緩和され、直熱管特有の高域の透明感が引立ち2A3の良さを引き出せます。
   候補は相互コンダクタンスが大きく内部抵抗が低い6BQ7、6R-HH2、6N1P、6DJ8568770447119等です。

   ・出力管が要求する駆動電圧はP-Pで約120V、低歪での出力管駆動とカソフォロ段ロスを考慮し出力200V以上を目標とします。
   そこで電源電圧は400V弱とし比較的高電圧運用可能な568770447119の中から先ずは5687を選択します。

  C初段
  ・2A3が要求する駆動電圧は60/√2≒42Vrms、負帰還量6dB、入力電圧1Vrms@最大出力、カソフォロロス6%とすると全体
   で90倍程増幅が必要です。電圧増幅管が5687なら増幅率は8倍程度でしょうから初段は12倍位増幅する必要があります。

  ・電圧増幅段と直結にしたいので、ドライバー段の電圧利用効率が高くなる半導体を用い位相反転を兼ねた差動で検討します。
    手元の2SK30Aを選別してみるとGRランクからIdss≒3mAが2ペアが得られました。データシートから1.5mA程度流すと
       相互コンダクタンスは2.2mS程度と推定されます。 負荷抵抗は歪と周波数特性の両立から12KΩとし差動ですから約13倍
   増幅が見込めます。  NFB量は最大約6dBに設定しボリュームによる0〜6dBの可変式とします。

   D電源部
  ・出力段電源は280V巻き線をブリッジ整流後、極普通にチョークコイルによるπ型フィルターとします。 古典球ですから本当は
   整流管を使いたいところですが音質とレギュレーションを重視しファーストリカバリーダイオードで整流します。 チョークコイルに
   替えに半導体フィルターを用いれば更に高性能かつ安価ですが見た目重視でチョークコイルを用います。
   出力段は定電流ですので定電圧化までは必要ないと考えました。

  ・カソフォロ段の+電源(213V)は出力段電源から分技しMOS FETによる定電圧回路を経由して供給します。+側の定電圧化
    は2A3の強力ドライブが期待できます。−電源はトランスの80V巻き線を倍圧整流し5Hのチョークコイルによるπ型フィルター
     経由で−180Vを得ます。

  ・電圧増幅段電源はトランスの330V巻き線をブリッジ整流しMOS FETによる定電圧回路経由て370Vを得ます。流石2A3用に
      作られたトランス、330V巻線は便利です。

  ・初段+電源はトランスの6.3V巻き線を6倍圧整流しバイポーラによる定電圧回路で約35Vを作ります。
   −電源は+電源と同じ6.3V巻き線を半波整流後バイポーラによる定電圧回路で約−5Vを作ります。

  ・電源投入直後のカソフォロ管カソード電圧は−180Vになります。(定常時は−45V)  ヒーター・カソード間耐圧は100Vですから
      危険です。 そこで2A3のB電源・カソフォロ管の±電源をリレーにより約25秒遅延投入する回路を組み込むことにしました。

   全回路図 (クリックにて拡大)
全回路図

<組立て>
内部状況
     「内部」    (クリックで拡大)
      半導体回路は5つの基板に分散し空きスペースに
      配置しています。
初段基板
    「初段基板」
     初段差動回路と±電源、NFBボリュームを1枚に集約
     基板はNFBボリューム(青)が支えています。
ドライバー段定電流・バランスユニット
    「電圧増幅段基板」
     −72V電源、電圧増幅段の定電流回路と電流調整VR、
     電圧増幅管のバランスVR、ドライバー段グリッド電圧
     設定VRを1枚に集約。

出力段定電流・380V、-170V電源
    「出力段定電流基板と380V・-170V電源基板」
     (取付け前の写真)
     基板は放熱板から出ているピンとパワーTRの足で支え
     放熱板を接着剤でシャーシに貼り付けます。

遅延リレーユニット
    「遅延リレーユニット基板」
     (取付け前の写真)
     リレー上部の平面を接着剤でシャーシに貼り付けました。
     内部写真中央の基板です。 (裏面上になります)

出力段電流調整・バランスVR
    「その他基板」  (配線前の写真)
     出力段
Ip調整VRとバランス調整VRの取付け状況
     基板の表に7mm角の半固定VRを取付け、シャーシ穴
     を通じて上面から調整します。

<完成後のトラブル>
   ・本機はまともに音が出るまでトラブル続きで苦労しました。 特に発振は原因が分からず特定まで2ヶ月要しました。

  <発振>
   ・配線完了後電源を投入し音出しすると両チャンネル共発振している。
   オシロで各ラインの波形を観測するとそこらじゅうに波形が飛び交っており何処が元かさっぱり分からない。
   発振波形          そこら中に謎の波形が・・・??
   ある時片CHの球を全て取外して音出ししてみると発振しない。そこで外した球を順に戻してみると電圧増幅管で発振と分かった。
    試しに電圧増幅管のグリッドにフェライトビーズを挿入したが収まらない。散々やって、これは電圧増幅段用電源回路の発振しか
   ないとの結論に至り回路図を睨めっこしていると定電圧電源回路のドレイン側・ソース側ケミコンが1本のブロックコン(100μF*2)
   になっていることが気になった。 そこでソース側を100μFの単独ケミコンに変更したところ見事に収まりました。苦労しました〜〜
   発振波形         犯人はブロックコン!!
  <バランス不良>
    ・右CH電圧増幅段のIpバランスが取れません、初段差動回路の2つの2SK30Aドレイン電圧に差があります。
   2SK30AはIdss≒3mAのペアを選別して用いましたが、取外して確認すると1本が1.7mAでした。Idss計測時のメモミスです。
   3mAの物に変更し再組込みしバランスが取れました。 尚、2本の2SK30Aは貼り合せ熱結合しています。 また一方のソースと
   ドレインを逆に用いることで基板配線を容易化しています。
   2SK30Aペア              今度は大丈夫かな?

  <ノイズ>
   ・2SK30A交換後に音を聞いてみると今度は右CHからザーとノイズが出ている。入力ボリュームを絞り切るとノイズが出ない。まさか
   と思いボリュームMAXで初段入力側2SK30Aのゲート電圧を計ると1.2Vある。 ゲート漏れ電流です。 バランス不良2SK30A
   交換時の熱ストレスで劣化したのでしょうか、ババ物を引いたのでしょうか・・ 昔の2SK30はゲート漏れが少ない物を選別しました
   が最新のTMタイプでは初めての経験です。  入力側ボリュームは100KΩなので僅かな漏れ電流でも高い電圧が発生し、電流が
   スライダーを経由するのでノイズが発生すると思われます。 一方NFB側ボリュームは1KΩでかつスライダーを通らず接地するので
   2SK30Aを入力側とNFB側で入替えれば漏れ電流の影響は無視できる程度に減少出来ると考え、入替えてみた結果解決しました。
          初段回路  上下の2SK30Aを入替え          使えるものは使おう!

<完成後の調整>
  ・先ず2A3のハムバランスVRを雑音最小点にセットします。 このVRは殆ど効きません、固定抵抗で十分でした。

  ・次に5687の電流設定用20KΩVRで2管合計のIpを11mAに設定し、カソード側の100Ωでバランスを取ります。更に出力管の
   Ipバランスを取り、各管とも48mAに設定します。最後に2A3のハムバランスVR中点が約15Vになる様カソフォロ管グリッド電圧
   調整用10KΩVRを調整します。ところがこの回路定数では約20Vまでしか調整できませんでした。直列の20KΩを増やせば調整
   可能ですが、実用上問題は無く、交換作業が面倒なのでこれで良しとします。

  ・スピーカーとCDプレーヤーを接続し試聴します。 始めはNFBボリュームを「0」とし無帰還に設定。 2A3としては高水準だと思うが
   強い個性「鈍さ」が残っており物足らない。 NFB量を増やしていくと多少締まってくるが満足出来るレベルではない。 電圧増幅管を
     5687
7044に変更すると少し良くなる。さらに70447119に変更し及第点レベルとなりました。この変更により増幅率が向上、
      NFB量は最大約10dBとなりました。

  ・NFBを掛けると高域が耳に付きます。 NFB量を最大(約10dB)にしてオシロで10KHZの矩形波を観測すると強いリンキングが発生
     しており、微分補正を行うことにします.。帰還抵抗12kΩに47pFを2個パラに入れたところ少し不満は残りますがまあまの波形となり、
  聴感もスッキリしました。
              微分補正前                                       微分補正後
  10Khzリンキング波形              10Khzリンキング波形 補正後
                           (上波形:Lチャンネル  下波形:Rチャンネル)
  ・暫くBGMで聴いているとまだ超高域が硬く感じます。そこで積分補正を行ってみます。OPTの二次巻線が8Ωのみなので抵抗は10Ω
   に固定し、聞きながらコンデンサの値を増減しました。結果、0.047μFで硬さ感を解消できました。

  ・様々なジャンルを聞いていると何だか直熱三極管の柔らかさが足りない様に思えてきました。試しにと思いB巻き線を280Vから240V
     に変更したところぐっと円やかになり、これぞ「直火三極管の音」が得られました。  この変更によりB電圧は332Vから287Vに低下し、
     最終的に2A3の動作点は265V 52mAとなりました。(回路図は260V巻き線に接続ですが、総合特性は240V巻き線接続時です)

<試聴(視聴)>
  ・私はJAZZ好きですからJAZZメインで聞きます。 本機に用いたOY15-6は明るめで抜けた音でした。 古くからのOYが持つ品格漂う
      いぶし銀の様な音とは少し異なります。 SQ38FDのOYも年代と共に近代化されたのでしょうか。

  ・2A3の鈍さはほぼ払拭されスイッチON後30分程経過すると滑らかさが増し直熱管本来の味が際立って来ます。手前味噌ですが、古い
      構成の300Bシングルであれば凌駕するアンプだと思います。

  ・ではこのアンプの音が最高かと言うとそうでもありません。
    個人の感想ですが、音は6CA7KT88等の近代管プッシュプルの方が総合的に上だと思います。  WE-300Bより6C-A10
      8045Gです。 遥かに安価で非オーディオ球の5998A6AH4でさえ上を行く音です。ですが近代管は見た目の楽しさに欠けます。

  ・古典球はグラマラスな容器とメカニカルな電極構造が美しくまるで工芸品です。正直、「タマはカッコが第一」です。本機は2A3の中
      では電極の形が良い(私の好み)SILVANIA製の2枚プレートを最前面に4本ズラリと並べており、大きなST16型バルブの中で薄っすら
      オレンジ色に光る4×2条のフィラメントと相まって見ても楽しめるアンプだと思います。音もハイレゾの現代ソースを全く問題なくこなす
      速度と柔らかさを兼ね備えておりレベルは十分高いと感じます。

    ・本機の出力管ドライブ能力はPtoPで約220V有り、300Bクラスでも余裕で駆動可能です。 出力管を300BやKT88に変更しB電圧を
      上げれば音も性能も更に向上しますが、若き日の夢は「カッコ良い真空管とトランスを用いたアンプ」ですので、これで完成とします。

<総合特性>         SILVANIA製2枚プレート2A3使用、電源トランスB電源巻き線240Vタップ時の特性です
入出力特性(L/R NFB=0)
入出力特性(L/R NFB=10dB)
周波数特性(L)
周波数特性(R)
歪率(L)
 歪率(R)




        残留雑音 L:0.42mV  R:0.32mV
          DF : L/R共約12@NFB約10dB





       <使用計測機器>
         オシレータ:KENWOOD AG−203
          電圧計 :KENWOOD VT−165
          歪率計 :SHIBADEN CR−9B
          オシロスコープ:菊水   DSS5040
歪率(R 差動時)

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