ハラペコ慎太郎の巻

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 科学研究室内 ×
   
桑原と今泉の二人が机に向かって座っている。
桑原はなにやら資料をまとめ終えたようである。
そして次の仕事に手を付け始める。
今泉 「桑原君はお腹すかない?」
桑原 「あ、僕はさっき食べたから」
今泉 「僕なんてお昼から何も食べてないんだもん、も〜ぺこぺこ〜」
桑原 「大変だったんだねー」
今泉 「天津丼とカレーとシュークリーム5個食べたっきり〜」
桑原 「食べ過ぎですよそれ!」
驚き呆れながらも、相手をする桑原。
今泉 「もう消化しちゃたよなんかな〜い?」
桑原 「確か夜勤用のカップ麺が」
冷蔵庫の上の箱を見に行く桑原。
桑原 「あ、一つだけ残ってた、ハイ」
カップスターを今泉に差し出す桑原。
今泉 「いいの?わーカップスターだー。これ見ると踊りたくならない?」
桑原 「!なんで?」
と、少し驚く桑原。
今泉 「ハ、フ、ホ、」
と言いながら奇妙な踊りを始める今泉。
桑原 「(顔をしかめ)ハ、フ、ホ、は、分かるけど別に踊りたくはならないなぁ・・・」
カップスターの歌を歌いながらお湯を注いでウキウキする今泉。
ドアをノックする音。
桑原 「どうぞ」
入室してくる芳賀刑事。
桑原 「あ、芳賀さん。資料なら今出来上がったところです」
芳賀 「悪いね、急がせちゃって。今日中に片を付けたいものだから」
今泉はまるで二人羽織のように、イスに座る桑原の背中に張り付く。
桑原の手首を掴み、羽ばたくような動きをさせていている。
その目は芳賀に完全に挑んでいる。
桑原 「何をしたいの!!」
今泉から手を振り解く桑原。
芳賀 「(無視して)今泉さん夜食?いいなー。僕も食べる暇がなくてさー」
今泉 「残念でした〜これが最後のひとつなんだよね〜」
子供のように「ね〜」で体を斜めに傾ける今泉。
少しうんざりする桑原。
桑原 「(芳賀に向かって申し訳なさそうに)ごめんね〜・・・」
芳賀 「いいよいいよ、もうじきかたも付くし」
立ち去ろうとする芳賀。
桑原 「あっ、ちょっと待ってて、僕が前に買ったのが残ってるかも」
と、あのダンボールの中ををあさる桑原。
桑原 「あったー。良かったらこれ」
芳賀 「桑原君は?」
桑原 「僕はもう済ませたから」
芳賀 「じゃっ、遠慮なく」
今泉 「ちょっと待てー!」
突然立ち上がり、絶叫する今泉。
桑原 「な何?!」
びくつく桑原。
今泉はなぜか興奮気味である。
今泉 「どーして俺のはカップスターで、あいつのはスーパーカップなんだー!!」
桑原 「しょーがないでしょう!今思い出したんだから!」
芳賀 「何なら取り換えてもいいよ」
イスに戻りいじけてカップを囲うように、そっぽを向く今泉。
しかし、カップスターが気になるのかちらちら見る。
明らかに意地を張っている様子の今泉。
桑原 「せっかくだから換えてもらえばいいじゃない」
芳賀 「それもう出来るんでしょ?僕も余り時間無いから・・・」
今泉 「まっそこまで言うんなら取り換えてあげてももいいけど」
うれしさを隠す今泉。
「やれやれ」と顔を見合わせる桑原と芳賀。
カップスターとスーパーカップを取替え、ウキウキとお湯を注ぐ今泉。
カップスターを食べ始める芳賀。
芳賀 「こういうの久しぶりに食べると美味しいよね」
と、桑原に話しかける芳賀。
今泉 「俺のなんて1・5倍だもんね〜」
相手にしない芳賀。
桑原 「譲ってもらっておいて、そーゆー言ゆーか?」
申し訳なさそうに芳賀のほうを見る桑原。
芳賀も口を端を上げフッと笑いながら桑原を見る。
会話を始める桑原と芳賀。
その二人が少し気になる今泉。
芳賀 「他の人には断られちゃって資料上がらないかと思ったよ」
桑原 「僕でよかったらいつでもいってよ」
芳賀 「助かるよ」
食べ終わって片付けようとする芳賀。
それを制する桑原。
桑原 「後は僕がやるから」
芳賀 「わるいね、今日はごちそうさま。無理言って夜勤までさせちゃって」
桑原 「気にしないでよ〜」
芳賀 「(ヒソヒソと)だってそのせいであれの面倒まで」
と、顎で今泉を指す芳賀。
桑原 「まっいつものことだし」
苦笑いする桑原。
まだカップ麺に夢中である今泉。
芳賀 「お礼に今度食事御馳走するよ」
桑原 「いいよ〜そんな気使わないでよ〜」
芳賀 「桑原君のおかげで今日中に済むんだし、いつも感謝してるよ」
桑原 「嬉しいなー、そー言ってもらえるだけで十分だよ」
芳賀 「そんなこと言わずに、今度是非」
今泉 「うおぉぉぉぉぉー!!!」
突然絶叫する今泉。
桑原 「今度はなんなの!!?」
びくつく桑原に、呆れる芳賀。
今泉 「く、桑原君を誘うのは俺を倒してからにしろぉー!!」
芳賀 「アンタは娘を持つ父親か?!今どきそんな父親すらいないよ!」
今泉 「桑原君は俺の物だー!」
桑原 「物ってなによ!物って!」
今泉 「じゃー・・者」
桑原 「分かんないよ口で言っても!」
うんざりして厭になってくる桑原。
芳賀 この人何言ってんの?(フッと笑う)じゃ桑原君、今度連絡するから」
左手で桑原の肩を抱き寄せ、ぽんぽんとその肩を叩く芳賀。
芳賀 「じゃ!また!」
とドアを開けて出て行く芳賀。
ドアの前まで走る今泉。
今泉 「待てーチキショ〜」
ドアの前でじだんだを踏む今泉。
あきれ果てて、うんざり気味の桑原。
桑原 「今泉さ〜ん、ラーメンのびちゃいますよ〜」
今泉 「あ、そうだった」
慌ててイスに戻る今泉。
今泉 「いっただきま〜す(ズルズル〜)」
(しばらくして)
今泉 「結構薄味だねぇ(ズルズル〜)」
桑原 「そう?僕はその味好きですけど、まー好みなんて人それぞれですからね」
食べ続ける今泉。
仕事を再開する桑原。
スープを飲み始める今泉。
今泉 「あっ」
桑原 「なに?どうしたの?」
容器の中を見つめている今泉。
桑原もその容器の中を覗き込む。
桑原 「あ・・・・・・・」
その容器の中には、後入れスープの袋がある。
桑原 「これ入れなきゃそりゃ味薄いよ」
今泉 「(慌てて)今から入れちゃえ」
桑原 「少ないのに入れたらしょっぱいよ〜あ〜あ〜」
後入れスープの袋を開け入れ、食べる今泉。
今泉 「・・・・・・・・・・・・」
桑原 「・・・だから言わんこっちゃ無い」
うつむく今泉。
何か悲しくなって、泣けてくる。
桑原 「欲張らないでカップスター食べとけばよかったね」
今泉 「・・・・・」
思いっきり桑原の腰に抱きつく今泉。
とーっても厭そうな、あきれたような表情でため息をつき、ぽんぽんと今泉の肩をたたいてやる桑原。
そして二人はドアの外に出て行こうとする。
今泉 「み、水〜」
桑原 「はい、はい、」



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