ざふとのためにっ!〜赤服四人娘奮闘記〜

vol.1「運命の王子様?」

 「畜生ッ!ストライクのパイロットめぇ!」
今日もヴェサリウスの一室、早速キレ気味の
銀髪おかっぱ猫目美人(包帯付)はイザりん。
 「ha〜ご執心ねえ。お肌によくないわよぉ?」
ソファーでファッション誌片手に髪をかきあげ、
戦艦にあるまじきフェロモンを振りまいているの褐色セクシーはディアりん。
 「…イザりんはこの間からずぅっとあんな感じなんですよ。
 周りのボク達にまで当り散らすし…言っちゃなんですけど、自業自得なのに…
 アスりんも、そう思いませんか?
 ……アスりん?」
隣にこっそり話を振りつつ、その顔色を伺っている、
クリクリお目々の緑髪ロリ娘(天然ミラージュコロイド搭載型)はニコりん。
 (キラ…)※この後、脳内で桜の下のシーンの回想五分間
話しかけられているのにも気づかず、ややトリップ気味の
キスしたくなる唇のアンニュイ美人がアスりん。
 「五月蝿い腰抜けぇ!貴様に、顔を傷つけられた私の屈辱がわかるか!
 お母様に、なんて申し訳したら…」
早速ディアりんに噛み付くイザりん。
 「……自分が悪いんですよ(ボソッ)」
黒い顔で、誰にも聞こえないような小声で、呟くニコりん。
イザりんの大声に、ようやく「こっち」に戻ってきたアスりん。
ふと横を見て、ようやくニコりんの存在に気づく。
 「bu〜そんなの、さっさと治しちゃえば済むことじゃん」
 「馬鹿か!あいつを…ストライクを倒さずにそんなことをしたら、私の屈辱はどうなる?」
 「unbelievable!こだわるわねぇ〜」
 「フン!私はこういう性格だからな!」
呆れ顔のディアりんに、得意顔のイザりん。
 「……あれじゃ絶対、嫁の貰い手なんてありませんよ(ボソッ)」
ニコりんの黒い横顔を見てちょっと驚くアスりんだが、
頭の半分は常に幼馴染のことを考えているのであまり気にはしない。
 「haha、ま、いいけどね〜♪でも、その内夢にまでストライクが出てくるわよ〜?」
 「あ?当然、毎晩夢に見ているぞ!私のデュエルが、憎きストライクを
 八つ裂きにする夢をな!」
 「……絶対、イザりんの前世は蛇かなんかですよ(ボソッ)」
 「…Aー、あんた、そこまでいくと最早『恋』よ?」
 「…は?なに馬鹿言ってる?」
 「だって、そうじゃん。年頃の乙女が毎晩見る夢の相手なんて、
 『愛しの王子様♥』に決まってるじゃない」
 (そ、そうか…私が毎晩キラの夢を見るのはやっぱり…)
再び、トリップ入りするアスりん。
 「…アスりん?」
もはや、ニコりんは再びミラージュコロイドの中だ。
 「き、貴様!私を愚弄するつもりかぁ?」
 「ま、落ち着きなさいyo?それに、こんな話もあるのよ?
 古代ギリシャ聖域の女戦士は、顔に傷を付けた相手を殺すか、
 …愛するかしなきゃいけないって伝説」
 「な?私はそんな伝説など知らんぞ!適当なことを言うと…」
 「…wait!だって、あんたの専攻は北欧とアジアでしょ?
 ギリシャ神話は、そこまで詳しいわけじゃないでしょ」
 「う…確かに」
ようやく、トリップから戻ってきたアスりんはこの話に興味を持ったらしく、
隣のニコりんに小声で問いただす。
 「…ディアりんって、ギリシャ神話なんて詳しかったんだ?」
 「ああ、あれはこの前ディアりんが読んでた『聖闘…なんとか』って漫画の
 受け売りですよ。…しかも、嘘が半分以上混じってますし」
 「え、それって…」
 「まあまあ、面白そうですし、黙って見てましょうよ、アスりん」
ちょっと黒いニコりんは、アスりんと会話が成立した喜びもあって生き生きしている。
 「やっぱり、ストライクはあんたの『運命の王子様』なのよ。hyu-hyu-♪」
 「そ、それは駄目よ!」
 「ア、アスりん?」
 「what?」
突如、勢いよく話に割り込んできたアスりんに、その場の時間が止まる。
 「…フン!そこの腰抜けの言っている通りだ!
 なにが、『運命の王子様』だ!私は、あいつを…ストライクを討つ!」
 「そ、それも駄目!」
 「アス…りん?」
 「わ、私にどうしろっていうんだ!この腰抜けぇ!」
 (だ、だってキラは私の…)
 「ahaha!最ッ高!」
 「不愉快だ!私はもう部屋に戻る!」
カンカンのイザりんは、さっさと部屋に戻ってしまった。
ちなみにその晩イザりんは、
「白馬に乗ったストライクに追い回される夢」にうなされ、
より復讐を固く誓うことになった。
vol.2「アスりんの憂鬱」

 「キラ…」
アスりんの一日は、想い人、キラ・ヤマトの回想で始まる。
週に三十分の回想という(放送上の)矛盾のみを条件に存在する乙女心!
だが、その純な想いは徹底的に報われない。
そもそも、彼女が軍に志願したのは、母を失ったユニウス・セブンの悲劇以上に、
どこかで戦禍に巻き込まれているかもしれない幼馴染の少年を
自分の手で救い出すチャンスがあるかもしれないという、
ほとんどゼロに近い可能性(妄想といってもよい)にかけた動機だったのだ。
 (私が、キラを守ってあげなきゃ…あの子、泣き虫で、ぼうっとしてるから)
が、神は彼女に奇跡をプレゼントする。
彼女にとって、最もバツの悪い形で。
 「…アス、りん?」
 「……!? キ、キラ?」
突然の再会は、ナイフを振りかざしてのものだった。
しかも、キラは連合兵とおぼしき女を庇うように、目の前に立っている。
 (な、なんでこんなところにキラが?後ろの女性は?
 …じゃなくて、なにか言わなきゃ?)
だが、足元を跳ねる銃弾に久々の対面は打ち切られる。
その後、キラが連合のGに乗り、ザフトに敵対行動を取ることに、
アスりんは苦悩し、もどかしさは募る。
 「アスりん、目にクマができてますよ!… 大丈夫ですか?(ニコりん)」
 「あらあら、寝不足はお肌のenemyよ〜?気をつけなさいよ?(ディアりん)」
 「フン!自己管理もできないような奴など足手まといだ!
 …さっさと医務室で睡眠薬でももらってこい!(イザりん)」
…どうやら、悩みすぎて寝不足になってしまったらしい。
仕方ないので、クルーゼ隊長には正直に報告することにする。
 「…つまり、]−105・ストライクに乗っているのは、私の友人…コーディネーターなのです」
 「フム、そうか、ただのナチュラルに君達4人が遅れを取るはずはないと思ってはいたが
 …まさか、君の愛しの君があれに乗っているとは数奇なことだな」
 「い、いえ! そんなんじゃ…」
 「違うのかね? 君がその少年を語る口調は、恋人を想う乙女のものだったが?」
 「…キラは、大切な…友人です…」
考えたこともなかった。
自分のキラへの思いは、「保護者」としての責任感によるものだと信じてきた。
が、こうして上官に面と向かって指摘されてみると
自分がどう思っているのか、どうしたいのか、全くわからなかった。
 「そうか、だが足付きとあの機体が我々の作戦の脅威である以上、排除せざるをえないな」
 「!!」
 「…しかし、それは君の望むところではないだろう?」
 「はい…あの子はお人よしだから、友達とかなんとか…いい様に利用されて…
 だから、私に説得するチャンスを…!」
 「…いいだろう。だが、聞き入れられない時は…」
 「その時は?」
 「君が、彼を討ちたまえ」
 「!?」
 「さもなくば、君がその友人に討たれることになる」
 (キラが私を……殺す?)
その後もアスりんの苦悩は一層深まることになる。

 「アスりん、どうやらストライクのパイロットは君をご指名のようだぞ」
 「え?」
どうやら、人質となっている要人の引渡しらしいが、
よりにもよってその要人が。
 「ラクス?…ラクス・クライン?」
アスりんの良き友人でありながら、最も苦手な相手の一人。
プラント最高評議会議長の娘であり
コーディネーターとしても『特別性』。
プラントの歌姫として君臨する彼女は、
アスりんがコンプレックスを抱く唯一の同性。
 「お久しぶりですね、アスりん」
自らが贈った桃色のペットロボと共に、
囚われの歌姫がイージスのコックピットへ飛び込んでくる。
…が、今はそんなことよりキラだ。
 「キラ!あなたも…!」
 「ごめん、僕は…行けない!」
 「キラ!?どうして」
 「どうして?…君だってどうしてさ?戦争なんて嫌だって、君だって言ってたじゃないか!」
 「!!!」
それは、キラのため…
が、この場ではそれは言えない。
 「いい加減にしなさい! あなたはコーディネーターなのよ?
 それがナチュラル達の艦を護る必要なんて!
 …いいから、キラは黙って私についてくればいいの!」
 「アスりん!?」
昔のように、強い口調で叱りつける。
こうすれば、キラが駄々をこねても、いつも最後には自分の言うことを
ちゃんと聞いたから。が、
 「…嫌だ!」
 「キラ!?」
 「あの艦には護りたい人達が…仲間がいるんだ!」
 「!!?」
自分の言うことならなんでも聞いた少年の初めての拒絶は
強くアスりんの胸に突き刺さった。
自分が庇護してきたと思っていた少年が、
「自分以外の誰か」を護るため、自分に銃口を向けている現実。
大切なものが手のひらから零れ落ちていくような喪失感に、
アスりんの眼前は真っ暗になった。

その後、ラクス・クラインをプラントに届け
アスりんにとっては久々の休暇となる。
その帰りのシャトル内で出会ったのは。
 「! お父…し、失礼しました!国防委員長閣下!」
 「おお、アスりんか。公式な場でもない。そう他人行儀にしなくともよい」
 「は、はい。お父様…」
 「いかに母親の仇とはいえ、一人娘のお前を戦地に送り込む父のこと、恨んではいまいか?」
 「い、いえ…私は大丈夫です」
本当は、幼馴染のための部分が大きいため、チクリと胸が痛む。
 「そうか、ときにアスりん…母に、レノアに似てきたな」
 「…はい」
父も辛いのだろう。
執務室の机上に、自分と母の在りし日の写真が飾られていることをアスりんは知っている。

久々の休暇は友人、ラクスを訪れることになった。
 「アスりん、ようこそいらっしゃいました。ハロたちも喜んでいますわ」
 「ハロには、そういった感情のようなものは在りませんよ」
自分でも、女の子らしくない返答だと思う。
本当は、むしろ自分で作ったロボットを一つくらい自分で飼いたいが
体面を気にしてなかなかそれもできない。
だから、この友人にもらって困るほど大量のロボットを贈れば、
一個くらいつき返されて、それを自分のものにしようと考えていた。
だが、この驚くべき友人は、平然とそれら全てを大切にしてくれているのだ。
 「今日は、赤い子が鬼ですよー。通常の三倍の速さで追いかけてくださいね
 …ネイビーちゃん、いじめはいけませんよ?」
 「あの、ラクス…連合の艦では大丈夫でしたか?」
 「ええ、貴女のお友達がとても親切にしてくださいましたから」
 「そう、キラが…」
その名を口にすると、胸が締め付けられる。
 「キラ様は貴女と戦うのはとても辛いと」
 「私だってそうです! …私だって…」
 「…キラ様の肩には、いつもトリさんのロボットがとまっていましたわ。
 貴女にもらったのだと、とても嬉しそうに」
 「え…?トリィをですか?…あの子ったら、まだあんなものを…!」
そう言って微笑むアスりん。
目にも少し光るものがある。
 「アスりんは、良いお友達をお持ちですのね」
 「は、はい」
 「……私、あの方好きですわ」
 「…え? …ラクス、今なんて?」
 「ああ、そろそろお茶にいたしましょう。お友達がよいお茶をくださったので、
 ぜひアスりんがいらっしゃった時にと」
 「え?あ、ええ…!いや、さっきの…」
 「では今淹れてまいりますね。しばしお待ちを」
 「……」
この時、アスりんに猛烈に嫌な悪寒が走った。
小さい頃から、マイペースな癖に自分より常に一歩先に
なにかを達成し、なにかを得てきたラクス。
だから、なるべくラクスと同じ分野では競わないようにしてきたし、
ザフトに入隊したのもなるべくラクスとかけ離れた分野で…というのも
なかったわけではない。
そんな、自分にとって巨大な壁であるラクスが
最大限に不吉な宣戦布告を行った気がするのを、
アスりんは必死に頭から振り払うのだった。
そして、短い休暇は終わり、再び軍服に身を包んだ戦乙女は
ヴェサリウスのベッドに身を投げ出していた。
そこに。
 「アスりん、ちょっといいですか?」
 「ニコりん?どうしたの?」
来訪者は、ピアノとアスりんを愛する天然ミラコロ少女。
 「あの、いつものやつお願いしてもいいですか?」
頬を赤らめ、上目づかいにお願いするニコりん。
 「ああ…耳掃除ね?いいわよ」
 「あ、ありがとうございます!」
許可をもらったニコりんは、嬉しそうにアスりんの膝に頭を乗せ寝そべる。
 (ああ、アスりんに膝枕してもらって、耳掃除まで!ボク幸せ!)
 (…そういえば、昔キラにもこうして耳掃除してあげたっけ…《以下三十分回想》)
…どっちも、報われない…
vol.8(位?)「小さな騎士」

「キラ・・・」
オーブでの思わぬ再会に、アスリンの心はぐるぐると掻き回されていた。
『ぼくの大切な人にもらった、ぼくの宝物なんだ』
少し声変わりして、少したくましさを含んだ声で、
少年は自分の背に語りかけた。
『・・・そう』
振り返ることもなく、素っ気なくそれだけ言い残して現在の仲間達のもとへ向かった自分。
振り返って、涙ながらに親愛なる者の名を呼ぶには、とうに大人になり過ぎていた。
甲板の上、潮風に頬を撫でられながら己の胸に問う。
自分は一体どうしたいのか?
母を喪った日、悲しいのに泣けなくて、
自分ひとりを残して世界に置き去りにされたようで、怖くなった。
急に、キラに会いたくなった。
キラを捜すため、ザフトに入隊した。
キラに会うことで、怖い思いや淋しい思いもない頃に戻れると思っていたのかもしれない。
だけど、過ぎた日々に戻れるはずもなく、
いつの間にか手段だったはずの軍の仕事は目的となり、
アスリン自身もそれで納得しだしていた。
任務に忙殺され、やがてキラのことを思い出すこともなくなり、
ある日なんの前触れもなく見知らぬ地で敵に討たれる・・・
そう望んでいた彼女に突然神様がくれた、皮肉の利いたプレゼント。
最高にバツの悪い、最低の再会は、
彼女の内で燃えカスと化していた感情に再び火をつけた。
けれども、自分の庇護の下にいたはずの少年は差し伸べた手を拒否し、
美しい思い出は過ぎた時間でしかないことを思い知らされることになる。
「キラ・・・」
もう一度、その名を口にする。
「私は・・・」
そして、抱えた膝に顔を埋めてみる。
「アスリン、ここにいたんですか」
顔を上げ、振り向くとふわふわした緑色の髪が可愛らしい少女が
人懐っこい笑顔を浮かべている。
「ニコルン・・・」
「・・・どうしたんですか?瞳、真っ赤ですよ」
心配そうな顔を浮かべる少女の指摘で、ようやく気づく。
ああ、私、泣いてたのか。
「ううん、なんでもないの。ちょっと、潮風が瞳に染みちゃって・・・」
「なんだ、そうだったんですか。でも、地球の海って本当に塩水なんですね。
 ・・・やっぱり、しょっぱいのかな?」
ほっとしたように、笑う可憐な少女が軍服に身を包むさまは、
それ自体が「人の業」であるようにアスリンには思えた。
「さあ・・・泳いだわけじゃないから・・・わからないわ」
素っ気なくそれだけ言うと、ニコルンに向けていた顔を再び正面の海に戻す。
自分でも、冷たい対応だと思う。
背中越しにニコルンの困惑が伝わってくる。
 「・・・そうですよね。あ、アスリン。向こうに飛び魚の群れがいたんですよ。
 もしよかったら、一緒に見に行きませんか?」
振り返りもせず、首を振る。
 「そういう気分じゃないの・・・ごめんね」
黙りこくる、背後の少女。
自分を慕う後輩を冷たく突き放してでも、今は一人でいたかった。
だが、そのまま立ち去るとばかり思っていたニコルンは、
いつの間にか膝を抱えるアスリンの隣に立っていた。
「隣、いいですか?」
「・・・・・・」
無言を許可と取ったのか、ニコルンはアスリンの隣に腰掛け、
同じように海を見つめる。
そのまま数分、互い一言も発しないまま時は過ぎていった。
 「ニコルンは」
 「はい」
先に、口を開いたのは、アスリンだったが、その視線は依然
心配そうな目を向ける後輩ではなく、眼前の海に向けられていた。
 「ニコルンは・・・どうしてザフトに志願したの?」
別に、今それが知りたかったわけでもなく、ただ、漠然とそれが口に出た。
 「・・・ユニウス7の時、私もなにかしなくちゃって・・・こんな私でもプラントを護る仕事ができるならって。
 ・・・アスリン達の足を引っぱってばかりですけど」
 「そんなことない」
ようやく、ニコルンへと顔を向ける。
 「あなたは、本当に立派にやってるわ・・・」
そう、こんな気持ちを抱えたままの自分などより遥かに。
 「アスリン、は?」
問われ、浮かんだ少年の顔をかき消すように首を振る。
 「同じよ」
 「そうですよね、アスリンはお母さんがユニウス7に・・・」
 「え、ええ・・・」
チクリ、と胸が痛む。
が、それがなにに対してであったかはアスリン自身にもわからない。
 「私・・・」
固い決意を秘めた、ニコルンの瞳。
 「私、全然子供で、アスリンが悩んでることとか同じ視線で分かってあげたりできないですけど、
 アスリンのこと、守りますから。優しいアスリンが・・・大好きですから」
真っ直ぐな瞳で自分を守ることを誓った小さな騎士を、アスリンは胸に抱き寄せた。
 「ごめんね・・・・・・ありがとう」
アスリンの腕の中でニコルンは、耳まで真っ赤にしながら幸せそうに微笑む。
 「・・・はいっ!」
 「飛び魚、まだいるかな?」
 「行きましょう!」
ニコルンに手を引かれるアスリンに、先ほどまでの翳りはなかった。
今は、ここに仲間がいる。
いまはこれでいい。

 「くそっ!」
不快感に満ちた声が船室に響く。
手元の本から顔を上げた褐色の少女はやれやれといった風に声の主に目を向ける。
 「Ala、Ala、また随分荒れてるわNE〜?」
からかう様な調子に、おかっぱの少女は同室の相方を睨みつける。
 「当たり前だろう!『隊長殿』の気紛れで、みすみすあのストライクを逃がすかもしれないんだぞ!」
「本ッ当にストライクにご執心NE〜さては、お強いストライクのパイロットにいよいよ惚れ・・・」
「貴様ッ!私を侮辱するつもりか!」
冗談の通じる剣幕でないイザリンに、ディアリンは降参のジェスチャーをしてみせる。
「この傷の屈辱、私は一瞬たりとも忘れたことはない・・・!」
 (『腰抜けェ!』より『はらわたをブチまけろっ!』の方が似合いそうよNE・・・)
とは、言わない。ディアリンも自分の身が可愛いから。
 (それにしても、イザリンでなくとも、納得いかない部分はあるわよNE−)
オーブでは結局、プラントでは中々手に入らないフレグランス以上の収穫はなかったが、
『隊長』のアスリンは「足つきはオーブにあり」と断定した。
目算が違えば、こうして待ち伏せている間にも早々にアラスカに逃げ込まれてしまう。
「全く!クルーゼ隊長ならこんな・・・」
「JA〜さ、クーデターでも起こしてみる?『隊長サン』気に入らないんでsyo?」
「なに?」
「イザリンがやるなら、協力したげるわYO?フフフ・・・」
もちろん、イザリンが本当にそんなことをしないと知っていてけしかけて遊んでいる。
「フン・・・!残念ながら、そこまで単純でもないんでな!」
 (Ala?・・・自分が単純だってわかってたのNE)
もちろん、口にはしない。
「ところで、ディアリン」
「What?」
「さっきから読んでいるそれは・・・なんだ?」
イザリンが指すディアリンの手には、文庫サイズの本。
 「ん〜?フフ、それは内・緒・・・いいモノYO♪」

フェイズシフトダウンしたイージス、
その眼前にはシュベルトゲペールを向けるストライク。
 「アスリン、退いてくれ!君たちの負けだ。
 ・・・君を、殺したくない」
 「なにを!殺せばいいじゃない!あなたもそうするって、言ったじゃない!」
今でもキラを『お姉さん』の立場で見てしまうアスリンには、
キラに見下ろされるような物言いをされて素直になれるものではなかった。
口をつくのは、こんな言葉ばかり。
「アスリン・・・」
キラのストライクから、迷いが伝わってくる。
「キラ・・・」
その時、ストライクの後方に突如黒い影が現れた。
ミラージュコロイドに身を隠したブリッツが機を窺っていたのだ。
「アスリンをやらせはしません!」
「ニコルン!?・・・駄目ぇーッ!」
「くっ!?」
ブリッツの攻撃を寸でのところでかわしたストライクのシュベルトゲペールが、
吸い込まれるようにブリッツのコックピットに向かっていく。
「アスリン、逃げて・・・母さん、私のピア・・・」
「い、いやぁあああああッ!!!?」
アスリンの悲鳴は、四散するブリッツの爆音にかき消されていった。

作:・・・・ ◆iFt60ZwDvEさん


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