泣き虫新米艦長ブライ子

くだを巻いて出撃しようとしないアムロの業を煮やして部屋に乗り込むブライ子。
「アムロ!どうしてあなたは自分の任務を果たそうとしないの!?」
「にんむゥ〜?僕の任務ってなんです?誰がいつそんな物を決めたンです?
僕は兵隊じゃないんですよ?戦おうと思ったから戦ったんです」
「…!」
「そんなに戦いたかったらブライ子さん…あんたがガンダムに乗ればいいんだ」
頑なに拒否するアムロに、ブライ子の感情が膨れ上がる。自分はなんと無力なのだ。
たったひとりの少年すら動かせられない―――
ブライ子の目尻に、涙が浮かびかける。
だがそれを必死でブライ子は堪えた。
今、自分はこの艦の艦長なのだ。甘えは決して許されない。そう思い、ブライ子は
勇気を振り絞ってアムロに叫んだ。
「アムロ!た…立ちなさいっ!」
「はぁ?」
露骨に嫌そうな顔をするアムロの胸ぐらをブライ子は両手で掴んで、アムロを引き寄せた。
「…無理は止めたほうがいいですよ、ブライ子さん。手が震えているじゃないです…?」
そう言いかけて、アムロは口をつぐんだ。
ブライ子が泣いていた。必死にこちらを見据え、そのまなじりからポロポロと涙を溢れさせていた。
「わ、私がガンダムを操縦できるなら…誰があなたなんかに頼むものですかっ!」
彼女はこれまでの19年の人生で、人を殴った事はただの一度たりとも無かった。
だが、今、ブライ子はアムロを殴る決意を固めた。それはアムロへの戒めと同時に
情けない自分への一喝でも有ったのかも知れない。
「ア、アムロ…歯を食いしばりなさいっ!」
そう言ってブライ子は手を振り上げ―――固まった。
「んっ…!?」
自分が手を叩きつけるよりも速く、眼前に迫ったアムロの唇が、そっとブライ子の
それに重ねられたのだ。思わず口を抑えて後じさるブライ子。
「キ、キスしたわねっ…!?」
「ええ。キスしましたよ…していけませんか?あなたはいいですよ。
そうやって泣いていればみんながチヤホヤしてくれるんですから!」
「っ!」
彼女は涙目のまま顔を赤らめ、アムロに突っかけた。自分のコンプレックスをこんな少年に
見透かされた事―――そして何より、自分の大切にしていたファーストキスを奪われた事に対する
怒りであった。
「わ、私がっ、私がそんなに安っぽい女だと…んぅ!?」
アムロはそんな彼女の腕を難なく受け止め、再び唇を重ねた。
一秒。二秒。
ブライ子は必死でアムロを突き放し、恨めしそうに言った。
「に、二度も…キスした…!お父さんにだってされたことないのに!!」
アムロはそう泣き叫ぶブライ子に返す。
「それが甘えてるんですよ!キスもせずに人の上に立てる人間になんてなれるもんですか!」
「もう、もうイヤ!私…私、こんなの続けられない!軍人なんてむいてなかったのよ!」
ついに顔を抑えて泣き崩れるブライ子に、アムロは笑って襟元を整える。
「勝手にすればいい。けれど、今のままじゃああんたはただの泣き虫お嬢様だ」
そのアムロの言葉に、はたと泣き止むブライ子。
「僕はあなたの指揮を受けて、あなたならワッケイン司令以上の人にも
なれると思っていたんですがね。残念ですよ」
「ど、どこに行くの?」
「キスの分くらいは…働きますよ」
そう言って部屋を後にするアムロの背中を見送り、ブライ子はゆっくりと立ち上がった。
「くやしいけれど、くやしいけれど―――私は女なの、ね…」
そう呟いて、ブライ子は涙を拭き、ブリッジへと向かって行った―――。

作:ゾゴック ◆8y2tpoznGkさん


もどる