〜ローラ、プレゼントを貰う〜

そわそわと自室の中を歩き回るセシル(♂化ソシエ)。
時々時計に視線を送りながら溜息をつく。
と、こんこんと2度のノックの後、息を切らせた待ち人がドアを開く。
 「す、すいませんセシルさん・・・ホワイトドールの整備と、お夕食の準備が長引いちゃって・・・」
息を切らし、汗の滲んだ額に数本前髪が引っ付いたローラに、ドキッとする。
 「お、おう。俺の方こそ、忙しいところ呼び出して悪かったな」
 「いいえ。ホワイトドールの整備とか機械人形の操作を人に教えたりしてるより、
  こうやって家でお料理したり、セシルさんとお話してるほうがずっと楽しいですから。
そう言って、屈託無く笑う。
きっと、この子はいくつになっても澄んだエメラルドの瞳で同じように笑うのだろう。
 「そ、そーか」
それにしてもと、セシルはローラの姿に目を向ける。
これ程メイド服が似合うのは、ローラを置いて他にいないだろうと思うのは
セシルだけでなく、姉のキエルや御曹司だって同じだろう。
 「・・・で、今日はどうなさったんですか?」
真っ直ぐな笑顔。
父の突然の死に襲われたセシルは、どれほどこの笑顔に救われたかわからない。
 「いや、その・・・な。カプルの発掘現場でシド爺さんが面白い物を、な・・・」
そう言って、ベッドの横に置いていた箱に手を伸ばす。
 「なんなんです?」
ひょこっとローラがセシルの横から覗こうとする。
 「こ、こら!ちょっと待てって!」
 「あ、ご、ごめんなさいっ!」
真っ赤な顔で背中を向け、気をつけをするローラの仕草は反則級だ。
 「・・・見ていいぞ」
振り返ったローラの目に映ったのは、セシルの両手の中の丸っこい物体だった。
 「・・・これは?」
ローラがその丸い、よもぎ色の物体に顔を近づけると、突然、
 「ハロ!ハロ!」
 「きゃっ!?」
びっくりして飛びのくローラの期待通りの反応に、セシルは得意げに笑う。
 「へへっ。やっぱり驚いたろ?このカプルの子供みたいなの、喋るんだぜ」
 「お、驚きましたけど・・・なんです?コレ」
狐につままれたような顔でローラが指をさすソレは、
セシルの手を離れ、二人の周りを陽気に飛び回っていた。
 「テヤンデー!オコルデシカシー!」
 「さあ?何かはわからないけど、戦争の役には立ちそうにもないから、
  シド爺さんが、好きにしろって」
 「へえ・・・この子、昔の人のペットか何かだったんでしょうか」
飛び回るソレを捕まえて、額を付き合わせる。
 「オマエモナー!」
 「かもな。で、それなんだけど・・・お前にやるよ」
 「私に・・・ですかぁ?」
キョトンとした目でセシルを見返す。
 「ん。前のお前の誕生日、色々ゴタゴタしててなにもやれなかっただろ?だから・・・っ?」
照れ臭そうに話していたセシルは、突如抱きついてきたローラに驚いた。
 「ありがとうございます!私、嬉しいです!セシルさん、大好きです!」
 「わ、わかったから、そんなにくっつくなって!」
ローラの『大好きです』は、恋愛感情の類を含まない、純粋な意味での『大好き』で
あろうことはセシルにもわかったが、お陰でこの後言いたかったことを
言うタイミングを逃してしまった。
 (でも・・・ま、いいかな)
すぐ眼下のローラの屈託の無い笑顔を見ているとそうも思えた。
と、周りをぴょんぴょん飛び回っていた丸いのが、割り込んでくる。
 「シャクティ、ヨカッタナ!」
 「・・・あの、私はシャクティ・・・さんじゃありませんよ?」
 「つーか、誰だよ?」
 「ジュドー、ゲンキカ?」
 「ジュドーって、俺のこと・・・か?」
 「・・・そうじゃないんですか? 多分、この子の昔のお友達に、私たちに似た人達もいたんですよ」
 「ハロ!ハロ!」
 「じゃあ、あなたはハロハロ言ってるからハロって呼んじゃいますよ?」
 「ミトメタクナーイ!」
自分のプレゼントと楽しそうにじゃれているローラを見ていると、
持ってきて本当に良かったと思える。
 「あ、そうだ!セシルさん、そろそろお夕食ですよ。・・・今日のシチューは自信作なんです!」
そう言って、嬉しそうにセシルの手を引いていくローラ。
 「そっか。そいつは楽しみだな」
 「はい!たくさん、食べてくださいね」
そんな二人の後を、ハロはコロコロと着いて行く。
 「ゾクブツ!ゾクブツ!」
ノックスの平和な夜は、静かに更けていく・・・

作:・・・・ ◆iFt60ZwDvEさん


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