ジェリー・メサ

「カミーユ、こっちだってば!」
長い金髪をなびかせて、声がする方を振り向いた女性士官・・
ジェリー・メサは、ファに腕を引っ張られながら
一般人用通路を流れるカミーユを見た。
「女の子にひっぱられて・・あれでも男?」
その見下した声がカミーユの神経にさわった。
カミーユはファの腕をふりほどき、ゲートを超えた。
「カミーユ!」ファが叫ぶ。
「あなた!何をしているの!」
ジェリーのそばにいたエマ・シーンの声も、カミーユには聞こえない。
ジェリーの前に立ちはだかり、その軍服の胸倉をつかむ。
「軍人だからって、女が男をバカにして!」
「ガキが!私の前で男ぶるんじゃない!」
ジェリーがカミーユの頬を平手で叩く。返した裏手でもう一度叩こうとするが
今度は、カミーユが、そのジェリーの手首を掴んだ。
「く・・・このガキが!私をティターンズと知ってのことか!」
「もう許さない!女のくせに男の頬を叩くなんて!」
「そこまでだ、坊主」
カミーユが拳を固めた瞬間、カクリコン・カクーラーの拳がカミーユのアゴを直撃した。
唇を切り血をこぼしたカミーユを、カクリコンが取り押さえた。
「はなさないで、カクリコン!このガキ!」
ジェリーが、そのとがったブーツの先を、カミーユの脇腹にうずめた。
「グェ・・」唾液と血液が、カミーユの口の中で混じった。
「ぼうず、ティターンズの女が、どれだけ怖いかわかったろ?」
唇の箸をあげて、カクリコンが笑う。
シャワーを浴びているライデン・ミラ・ライデン(男)。
ノックの音に気がつき、シャワーをとめる。
「入るわよ!」
あの、気の強そうな声はジェリー・メサとかいうティターンズの小娘だ。
「ライデン!・・・あ」
腰にタオルを巻き、髪を無造作に拭きながらシャワールームから出てきた
ライデンをみて、ジェリーは眉をひそめつつ、頬を染めて顔を背けた。
くくく、かわいいもんだ。ライデンは苦笑する。
「何の用だ?俺だって暇じゃないんだぜ」
「私に・・・私に、あのガキに勝つ方法を教えて欲しい!」
「それが、女が男にモノを頼む態度かい?」
「何!」
逸らした視線を戻して、ジェリーはキッとライデンを睨みつけた。
その一瞬、ライデンは、その太い腕でジェリーの腰をぐっと引き寄せた。
タオルが落ち、イチモツが露わになったことなど、ライデンは気にしない。
ジェリーを見下し、唇のはしをゆがめて笑う。
180を超えるジェリーにとって、男から見下される視線は、初めてのものだった。
「く・・・離せ!」
「小娘が、ティターンズなんか気取って戦場に出るのが間違いなのさ」
厚い唇を、ジェリーの整った唇に押しつける。舌を入れようとしたとき、激痛が走った。
ジェリーがライデンの唇を噛み切った。いや、そんな生やさしいものじゃない。
唇をむしり取った。ジェリーはペッと何かをはき出した。ライデンの唇の肉の一部だ。
「女を売るくらいなら、戦場でアンタの背中を、あのガキごと撃つ!
「はははははは!気に入ったぜ、小娘!いや、もう小娘とは思わねえ!
 ガンダムの坊主に勝ちたかったら、俺についてこい!
 俺のやること全てを盗め!」
ジェリー 「しまりのない顔しちゃってさ、地球に降りられるのが、そんなに嬉しいのかい」
カクリコン「お前には、わからんよ」
ジェリー 「地球に、女が待ってるの?」
カクリコン「まあ、そんなとこさ」
少なからず、ショックだった。
ライデンが死に、ジェリーが頼れる男は、相棒のカクリコンしかいない。
カクリコン・・・同時期にティターンズに編入されながら
常に、戦士として自分の先を進んでいる男・・・これが男と女の差なのだろうか。
屈辱と憧憬が入り交じった、複雑な感情が恋に変化していることに
ジェリーは気がつかない。
何よりも、自分より背が低く、無骨と言えば聞こえはいいが
スマートでない彼に惹かれることなど、自分の女としてのプライドが許さなかった。
それでも、カクリコンに女がいると知って、動揺している自分がいる。

強がって見せたものの、地球に女など待っていない。
大気圏突入という危険な作戦で、ジェリーを守る存在が
俺しかいないという状況が楽しいのだ。
惚れた女を守ることの醍醐味などは、思いを打ち明けられない男に与えられた
ささやかな特権に過ぎないのだが。
「これで、ジェリーの金色の陰毛なんかがお守りになってりゃ
 言うことは、ないんだがな」
誰にも聞こえないように、つぶやく。

バリュードを切り裂かれ、燃え尽きるカクリコン機が見えた。
「カクリコン!・・・最後に、地球の愛人を思い出せたかい?」
マラサイのコクピットで、ジェリーは泣いた。
彼が、その肉体が燃え尽きる前に自分の名前を呼んだことを、ジェリーは知らない。
「・・・ライデンとカクリコンの仇を取らずに、死ねるか!」
ジェリーは涙をぬぐった。ジャブローのジャングルが、眼下に迫る。
ジャブロー脱出編

「まだ男に抱かれたことだってないのにさ、こんなところで死ねないよ!」
見知らぬ男の顔面を踏み台にして、ジェリーは脱出用の機体まで駆け上がる。
ジャブローの核爆発まで時間がない。これを逃すと、自分は確実に死ぬ。
そのとき、一人の男が手をさしのべた。おもわず、腕を伸ばして彼の手を握る。
その男は、端正で美しい顔とは裏腹に、ライデンやカクリコンと同じような
力強い手で、腕で、ジェリーの体を引き上げた。
ジェリーが乗り込んだのと、兵士で一杯の輸送機体が動き出すのは、ほぼ同時だった。
「なぜ、私を助けたの!」
女だからだ・・などと答えるなら、その優男を殴り飛ばすところだった。
しかし、男は一言だけ呟いた。
「偶然さ」
その答に虚をつかれた瞬間、身じろぎもできないほど兵士達がつまった輸送機の中で
彼に体を支えられたまま、唇を奪われた。それが男のテクニックだと知りながら
ジェリーは、悪い気はしなかった。
緑色の髪をなびかせた彼の名は、マイスター。
マイスター・ファラオ。
シロッコとの遭遇編

「あんたらみたいな小娘の面倒を見させられるとはね」
サラとシドレという二人の女性下士官を前にして、ジェリーは思わずつぶやいた。
シロッコとかいう優男、次の時代は女がつくるとかいいながら
結局、小娘の面倒は女におしつけるということなのか!
「お言葉ですが、ジェリー中尉・・・」
何かを言いかけたシドレ曹長の頬を、問答無用で平手打ちする。
「言い訳するな!言い訳なんて、生き残ってからでもできる!
 戦争を理屈でやるような女は、早死するんだよ!」
ジェリーにそう教えたのは、ライデンだった。

結果、フォン・ブラウン攻防戦で
ジェリーの女としての直情を信頼したシドレは死に
ジェリーより早く後退したサラは命を拾った。

「私は間違っているのか・・・」
つぶやくジェリーを、マイスターは抱きしめる。
「そういうこと、ベッドの中で呟くセリフじゃないな」
女を抱いてなぐさめるしかない男の一生も、悪くはない・・・
声をこらえつつ身をよじるジェリーの肢体を愛しく思いながら
マイスターは、本気で、そう思う。
そしてジェリーは、マイスターの愛撫に、全てを忘れようと努力する。
それでも忘れられない、あのガキ・・・カミーユの顔・・・
いつか、あいつを殺す。そう思った瞬間、マイスターが強く、ジェリーの中に入ってきた。
思わず声を出した。
マイスター(っていうか、元はマウアー)死んじゃうの?編その1

ガディ艦長がジェリーに伝えたのは、ヤザン隊をおとりにして
ジェリーとマイスターが待ち伏せをして、アーガマを襲うということだ。
「結局、私はガディやヤザンのような男たちの手を借りないと、何も出来ない・・・!」
マイスターは、そんなジェリーの肩を抱く。
「余計なことは考えるな」
「だけど・・・!」
何かを言いかけたジェリーの口を、マイスターの唇が閉ざす。こんな恍惚も悪くない・・と
今のジェリーは、思ってしまう。
「お前はアーガマを落とすことだけ考えろ。お前のことは、俺が守ってやるから」

岩陰にガブスレイを隠し、じっと身を潜めながら
マイスターは、ノーマルスーツの通信回路から聞こえる、ジェリーの緊張した息づかいを聞いていた。
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
声をおしころしながら
それでも自分の指の動きに、肌のぬくもりに、腰の熱さに絶えきれずに身をよじり
金髪を乱す彼女の肢体を思い出す。
女についていく男の人生も、悪くない。
「マイスター!きた!」
「わかってるさ」
アーガマが、射程距離に入った。
マイスター(っていうか、元はマウアー)死んじゃうの?編その2

乱戦の末、マイスターの照準がアーガマのメインブリッジを捕えた。
その瞬間に引き金を引いていれば、アーガマは沈んだかもしれない。
しかしマイスターの視野に、というより感覚に飛び込んできたのは
Zの照準に捕らわれたジェリーのガブスレイの姿だった。
「ジェリー!」
ジェリーをかばったマイスターの期待に、Zのビームが直撃した。
「マイスター!」
「言ったろ・・・守ってやるってさ」
マイスターのガブスレイが光球と化す。
しかし脱出ポットがあるはずだ。彼が死ぬわけはない。そう信じて
ジェリーはアーガマへ特攻をかける。

アーガマは逃げた。取り残されたジェリーは
ハッチをあけた。見えるのは
既に戦闘が終わった空域の、孤独なまでの静寂と
宙を流れる、マイスター・ファラオ機の残骸だけだった。
「私は、またあのガキに大切な人を・・・マイスター・・・」
彼のぬくもりを、もう思い出せない・・・
涙が、ノーマルスーツのヘルメットの中を、浮いて流れた。
キリマンジャロ編その1

千載一遇のチャンスとは、この事だ!
ジェリーはMSのビームサーベルを抜いた。
マイスターの面影が、脳裏をよぎる。

「イライラするなよ」
「イライラなんて、してない!」
「いいじゃないか、ガディやヤザンの手を借りたって」
「違う!私はそんなことでイライラしてんじゃないよ!」
「ほら、イライラしてんじゃないか」
ムッとしたジェリーが拳をマイスターの頬にぶつけようとする。
それを彼は、手のひらで軽く受け、ニッと笑った。
「くっ・・2、3回私を抱いたからって、恋人ヅラするんじゃないよ!」
「俺だって、お前みたいなジャジャ馬の恋人なんて、ゴメンだね」
「私はさ・・・カミーユを殺さないと、先に進めない女になっちまった!あんたになんか、わかんない!」
「俺の前でだけ、そういうことを言うお前が、かわいいのさ」
ニッと笑うマイスター。その一瞬のアルカイックスマイルに心を奪われた一瞬、唇も同時に奪われる。いつもの彼の手口に、またひっかかってしまう。
「だけど、どんなに頭に血が上っても忘れるな。お前の後ろには、いつも俺がいる。俺がお前を守ってやる」

そう言った彼は、その言葉通り、ジェリーを守って死んだ。だからジェリーは、今、カミーユを殺す。
「死ね!カミーユ!」
だが、ビームサーベルはZをかばった、大型のMSの頭部につきささった。幾筋かの光を放ち、くずれる大型MS。ジェリーのバイアランは、光の筋に追われるように、その場を遠ざかった。
キリマンジャロ編その2

遠く、雪原の上にカミーユらしい姿を見つけた。スクリーンを拡大すると、見知らぬ女を抱きしめるカミーユの姿があった。事態がよくわからない。だが、その女がカミーユにとって大切な存在であり、もう二度と目を開けないことだけは、わかった。
「フフフフ・・・カミーユ、あんた、私の痛みの何分の一かだけでも
理解できたかい?大切な人がいなくなるってのはさ、そういうことなんだよ・・・フフフフ・・・ハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハ!」
 ジェリーは笑いながら、バイアランを撤退させた。笑っているはずなのに、頬を涙が流れ落ち、その全てが流れ終わったあと、瞳が渇ききり、笑みも消えた。
「まだ終わらないよ・・カミーユ・・あなたを殺すまで・・まだ、終わらない・・・」
ジャミトフとシロッコ編その1

「貴公はハマーンという女を、どう思う?」
ジェリーの白い胸をつかみながら、ジャミトフ・ハイマンは尋ねた。
「く・・・ティターンズとエゥーゴを天秤にかけるなど、恥知らずな女です」
「くくく、そのような言葉を、貴公の口から聞くとは。
 では、ダガールでのエゥーゴ・シャアの演説を許してしまった失態を
 その魅力的な肢体で償っている貴公は、恥知らずではないのかな?」
老人はジェリーの乳首を舌で転がし、下卑た笑いを浮かべた。
高齢のために既に役に立たなくなっている男根の代わりに
老人の指が、金色の茂みをかきわけて股間に潜る。
節くれだった2本の指が中で蠢くたびに
痛みに似ていながら異なる感覚が、ジェリーの背を走る。
声をかみ殺し、屈辱と快感に耐えながら身をそらすたびに
ベッドと手首をつないでいる手錠だけが、ガチャガチャと音をたてた。
「フフフ。私の要求を退け、ティターンズを去ることもできたはずなのにな。
 ハマーンも貴公も、同じだよ。弱くて、そのくせ恥知らずな女なのだ。
 だから自分を守ってくれる男を見つけようと、必死なのだよ」

カミーユを殺せるだけの力が手にはいるならば、老人の玩具になろうともかまわない。
ジャミトフを虜にしてしまえば、いずれティターンズは自分のものだ。
そのために女であることを利用することなど、たいしたことじゃない。
ライデンの唇を噛み切った私は、もう、どこにもいない。

「そして男は、お前のような女をそばに置くことが楽しくて仕方がないのだ。
 シロッコを見れば分かるだろう?奴は誘蛾灯だ。
 近寄ってくる色とりどりの女という名の蛾に囲まれて、悦に入っているのだ」
ジャミトフとシロッコ編その2

ハマーンとジャミトフの交渉は決裂し、アクシズはゼダンの門を破壊した。
ティターンズは、その最大の拠点を失った。

ブリッジに上がってきたジェリーに、クルーの困惑した視線が集中した。
「貴官はジャミトフ閣下の直轄でしょう!」
「損傷したバイアランに、着艦許可など出していないわ!」
ジェリーは吼えるサラとレコアを無視して、シロッコの前に立った。
「ガブスレイがあったな。あれは元々は私のだから、好きに使わせてもらう」
「それは困るな。ガブスレイはレコアが乗る予定だ」
「ならば、奪うまでさ!」
ジェリーが銃を抜き銃口をシロッコに向ける・・と同時に
レコアとサラの銃も、両側からジェリーに狙いをさだめる。
「フフ・・冗談」
ジェリーは笑い、銃口を降ろした。その場の空気が緩んだ。
その一瞬をジェリーは見逃さない。長い脚がサラの拳銃を叩き落とす。
すばやく拳銃を拾い上げるとジャンプ、一瞬、天井で止まったかと思うと
次の瞬間にはシロッコのアゴをめがけて脚が伸びる。
ギリギリでジェリーの蹴りをかわしたシロッコを飛び越え背後にまわり
シロッコを盾にして、二丁の拳銃の狙いをサラとレコアにさだめる。
「わかった。ガブスレイはジェリーにやろう。レコアはパラス・アテネに乗れ」
シロッコが言う。このような状況で、顔には笑みさえ浮かべている。
「その代わり、それ相応の働きはしてもらうぞ、ジェリー中尉」
「いいだろう」
ジェリーはサラの銃を放り投げると、自分の銃もおさめた。
ジャミトフとシロッコ編その3

ハマーンとの会見のためにグワダンに赴いたジャミトフは、そこで驚愕した。
シロッコがいる・・いや、それはいい。そのシロッコの側に
ついこの間まで自分の側近であり、愛人でもあったジェリーがいるではないか。

シャアの乱入とサラが乗るMSのビームによって混乱に陥り、
煙にまかれた室内で、ジャミトフは出口を探した。
なんとしても生き延びなければ・・・あがく老人の前に、ジェリーが立ちはだかる。
「ジェリー中尉!命令だ!私を安全なところまで・・」
しかしジェリーは懐から短刀を出した。暗殺に使うには、古風な武器だ。
「この売女が!シロッコを囲む蛾の一匹になりはてたか!」
「そう思ってもらって、けっこう。
 わたしは閣下とシロッコを天秤にかける、恥知らずな女ですから。
 ゼダンの門を失ったあなたは、ティターンズどころか
 女一人自由にできる力もない、ただの老人にすぎない」
「貴様!」
ジェリーの短刀が、老人の胸につきささり、その命を奪った。
ノーマルスーツだけでなく、わずかだが頬にも返り血がついた。
煙を抜け、シロッコと合流した。
「これで、ガブスレイ一機ぶんの働きはしただろう?」
「充分だよ、ジェリー中尉」
シロッコはジェリーの腰に手を回し、唇を指でなぞった。
返り血を浴びたジェリーの美しさ、ブラッディ・ブロンドがシロッコの性欲を刺激した。
ジャミトフとシロッコ編その4

サラを失ったシロッコは、毎夜、ジェリーを抱いた。
唇をこじ開けて、執拗なまでに舌を侵入させた後
赤子のように夢中になって乳首を吸う。
立ち上がり、口での奉仕を強要したかと思うと
再び押し倒し、乳房に顔をうずめて甘える。
ジェリーの股間に顔をうずめ、舌を使って
何度ジェリーが果てようと、責め続ける。
四つん這いになったジェリーを、後ろから
獣のように、壊れるのではないかと思うほど激しく突く。
幼児性と征服欲が交錯した、奇妙なセックスだった。
そして果てた後に、必ずつぶやく。
「お前まで失うわけにはいかない」
同じセリフをレコアの耳元でもささやいているのだろう。
同じようにレコアに甘え、レコアを服従させているのだろう。
誰でもいいのだ。甘えさせてくれる、それでいて
強い男である自分を確認させてくれる「女の肉体」であれば。
それを承知で、ジェリーはシロッコに犯されることで、彼を満足させている。
なぜ?・・・それは女の直感でしかない。
今、シロッコのそばを離れたら、カミーユを追いつめるチャンスが
巡ってこなくなるような気がするのだ。
そのためには、シロッコの幼児性に女の体を晒すことなど、ささやかな代償でしかない。
今のジェリーは、そう考える女になってしまっている。

そして、そのチャンスは巡ってきた。事実上シロッコの私兵と化したティターンズが
ハマーンと手を組み、グリプス2空域に展開しているエゥーゴを急襲した。
その部隊の中に、ジェリーのガブスレイの姿もあった。
ガブスレイのコクピットで、ジェリー・メサは冷たく笑う。
Zガンダムを視野にとらえていた。そして、メタスも。
向こうは、まだこちらを捕捉していない。照準をZではなく、メタスにあわせる。
「楽には死なせないよ、カミーユ。あなたが悲鳴をあげるまで
 あなたの心を、ギシギシと軋ませてあげる。まずは、あなたの愛しい幼なじみから」
しかし、ビームを発射する直前にZが変形して、射線上に入った。
「気づかれた!?」
サーベルを抜き突進するZ。ジェリーも抜く。交錯する2本の光の剣。
「フフフ・・ハハハ!カミーユ、あんたに会えて嬉しいよ!」
「笑いながら戦闘なんて・・人殺しが、そんなに楽しいのかよ!」
「私は、あんたほど人を殺しちゃいないよ」
「俺が人殺しだって?」
「そうよ。だから、あんたがこれ以上、人を殺さなくてすむように
 私があなたを殺してあげる。優しいでしょう!」
「カミーユを、やらせない!」
メタスのビームがガブスレイを襲う。
「ファ・ユイリィ!小娘が!」
反転したガブスレイをZのサーベルがかすめる。
バーニアが傷つき、反動でガブスレイの機体が流れる。
「く・・・こんなことで!動け!動けったら!」
背後で、戦艦ラーディッシュが沈もうとしていた。
「このままでは・・巻き込まれる!」
言うか言わないかのうちに、ラーディッシュが大きな光球と化して沈んだ。
爆発が、ガブスレイの機体を飲み込む。
「カミーユ・・・あんたは、私の・・・」
ジェリーの意識は、そこで、とぎれた。
ゆっくりと目を開く。モニタの光点が、チカチカとヘルメットに反射する。
「私・・死んでいない・・・Zは!?」
ジェリーの視野の片隅に、グリプス内に侵入する3体のMSと
それを追った2体のMSが見えた。
3体は・・・シャアの金色、ハマーンの羽根つき、シロッコのダルマ。
そして2体は・・・メタスとZ!
「フフフ・・・・ハハハハハハ!」
こらえきれず、ジェリーは笑った。私は運がいい!
幽霊などは信じないジェリーだが、ひょっとしたら
ライデン、カクリコン、そしてマイスターが
導いてくれているのかもしれないとさえ思ってしまう。
「動いてよ、ガブスレイ」
利きにくくなった操縦桿を倒す。
腕と脚を全て失った満身創痍のガブスレイが、グリプスへ移動する。

グリプス内に入り、シロッコのダルマの横にガブスレイを着地させると
ジェリーは銃を握り、コクピットを降りた。
街並の影に、黄色いノーマルスーツが見えた。先回りし、パッと前に踊り出る。
「あなた、ファ・ユイリィね」
銃口は、ファの眉間を狙っている。この距離ならば、はずさない自信があった。
「あなたは・・・?」
「あなたは私を知らないかもしれないが、私はあなたを、よく知っている。
 エゥーゴの主力MSメタスのパイロット。そしてカミーユ・ビダンの・・・
 Zのパイロット、カミーユ・ビダンに関する資料には
 必ずあなたの写真と名前が載っていた・・・動くな!」
 踏み出そうとしたファの足元めがけて発砲した。
「あなたには何の恨みもないけれど・・・死んでほしいのよ、あなたに」
「・・・なぜ?戦争だから?」
「そんなことじゃない。あなたはカミーユの大切な人だから。
 あなたの死体をカミーユに届けてあげる。
 そして、あなたの亡骸を泣きながら抱きしめる彼を殺すのが、私の望み」
「あなた・・・」
「お願い、死んで・・・ウッ!」
推進ノズルを腰につけたままだったのは、ファにとって、幸運だった。
ノズルを、ジェリーに向けて発射させ、目くらましにすると同時に
ファはジェリーの前から遠ざかっていった。
「あなたがどんな人かは知らないけれど、カミーユを、死なせはしない」

ファを見失い、ジェリーは古びた劇場に入った。警戒しながら廊下を歩くと
小さな入口から中の様子をうかがっているファを見つけた。
背後から首に左腕をまわし、右手で銃口を背中におしつける。
「く・・・!」
「うかつだったわね、ファ・ユイリィ」
ファの自由を奪ったまま、中の様子を伺う。
ハマーンとシロッコ、シャア、そして、銃を構えたカミーユが叫んでいた。
やっと見つけたよ、カミーユ・・・乾いた唇を、舌で湿らせる。
「人の気持ちを大切にしない世の中を作って、何の意味があるんだ!」
私の大切な人を奪いつづけておきながら、戯言を・・・
「坊や!あんたに、それを言う資格があるの!?」
ジェリーの銃がカミーユに向かって4発。その2発目がカミーユの銃を弾く。
ハマーンが逃げる。それを追うシャア。
「ジェリー!ファを放せ!」
「動くな!動くと、あんたの大切なファ・ユイリィを冷たい骸に変える!」
「ジェリー、小僧にかまうな!グリプスを脱出する!」
シロッコ・・あんたまで、私の邪魔をするのか!
「うるさい!」
ジェリーの銃が、シロッコの腕をかすめる。
その隙をつき、カミーユがジェリーに体当たりをかけた。ファを手放すジェリー。
「ファ、行くぞ!」
「待て、カミーユ・・・弾切れ?」
銃を投げ捨てると、ジェリーはMSを着地させた場所まで急いだ。
シロッコのダルマと手足のないガブスレイを見比べて、一瞬ためらってから
「バイバイ、ガブスレイ。いい機体だったよ」
ダルマと呼ばれているTHE・Oに乗り込んだ。
ファは上手く脱出できただろうか。カミーユはメタスを探す。
しかし全面スクリーンの後方から視野にとびこんできたのは、THE・Oだった。
「シロッコ・・いや、ジェリー中尉か!」
「カミーユ!逃がさない!」
運動性能に勝るTHE・Oがカミーユを襲う。
その時、カミーユの脳裏に声が聞こえた。
・・パワーが段違いなんだよ。その時は、どうする・・
「え?今の声・・・ライデンさん?あなたは、ジェリー中尉を支えるべき人では・・・」
・・もういいんだ。これ以上、あいつが苦しむのを見ていられないのさ・・
「よし!皆の体を、俺に貸すぞ!」
それはカミーユの、そしてジェリーの幻覚だったのかもしれない。
しかし、ジェリーはZが光につつまれていくのを、確かに見た。
「あの光・・・なに?」
Zが迫る。そして、背後からもヨロヨロと迫る機体があった。手足を失ったガブスレイ。
「ジェリー!貴様、私を裏切る気か!」
「シロッコ、あんたがガブスレイに乗ってるの?」
「サラもレコアも逝ってしまった。私にはもう、お前しかいない。
 それなのに・・たかが女が、この私を裏切るなど、許さん!」
「偉そうに!次は女の時代だと言っていたのは、誰だったっけ?」
ジェリーの嘲笑とともに、THE・Oのアームがガブスレイをつかむ。
「何をする、ジェリー!」
「私を抱いた男なら、あなたも死んでよ、私のためにさ!」
THE・OがガブスレイをZめがけて突き飛ばす。
迫り来るガブスレイに視野をふさがれ、Zの動きが止まった。

今度こそ、ホントにバイバイ、ガブスレイ。
あんたと、そしてマイスターと共に宇宙を駆けた日々は
胸の中でキラキラと輝く、かけがえのない私の宝物さ。

THE・Oのビームがガブスレイを撃ち抜き、シロッコは消滅した。
「Zごと撃ち抜けなかった?」
しかし高出力バーニアを多く搭載するガブスレイの爆発は
通常のMSの爆発より大きく、その光球は、Zを巻き込んだ。
「どう?死んだ?ねえ、死んだ、カミーユ?」
だが、ガブスレイの爆発の影から、Zが姿をあらわした。
「シロッコめ。あれだけ私の体を好きにさせてあげたのに
 マイスターの代わりにもならないなんて!」
「ジェリー!あんたみたいな女の人がいるから、戦争が終わらないんじゃないか!
 周りの男たちを巻き込んで、憎しみだけに身を委ねて、好き勝手にやって!」
 フォウ!ロザミィ!エマさん!皆!俺に力を貸してくれ!」
Zのサーベルが異常な長さに伸びて、THE・Oの機体をかすめる。
左腕が切れ、背後のバーニアも小さく火花を散らした。
「ガキが自分に酔ってんじゃないよ!哀しみ背負って殺しあってるのは
 あんただけじゃないんだ!
 く、今の衝撃でバーニアが・・動け!THE・O!」
・・もういいよ、ジェリー・・
「誰?ライデン?」
・・そうやって生きていくのは、疲れるだけだろう・・
「カクリコン?なんで今さら、そんな事言うの?
 私は、あなた達の仇を取るために
 ジャミトフやシロッコのような小賢しいだけの小心者に
 脚を開いてまでも、今日まで生きのびてきたっていうのに!!
 マイスター!あんたは違うよね!私に力を貸して!
 カミーユを殺すの!あなたの仇を取るの!だから、お願い!」
・・・・・・
「なんで黙ってるの!どうして、そんな哀しそうな顔をしているの、マイスター!
 ライデン!カクリコン!何か言ってよ!どうして皆、黙っているの!」
不器用な優しさしか持ち合わせていない、それ故にジェリーを守って死んでいった男たちの魂は
愛しいジェリーに、休息を与えようとしているのかもしれない。
それは、死してなおカミーユという少年に戦い勝つことを求める女たちの魂とは、対照的だ。

あるいは、その全てが、追いつめられたジェリー・メサの、ただの幻覚にすぎなかったのかもしれない。

「なんでよ!マイスター!どうして私を助けてくれないの!私が他の男に抱かれたから?
 だって、それはあなたの仇を討つためだったのよ?わかってよ、マイスター!
 あなた、私を守るって言ったじゃない!あれはウソだったの?マイスター!応えてよ!
 THE・O!動いて!どうして動いてくれないの!THE・O!」
「ジェリー・メサ!憎しみの源!ここからいなくなれ!」
Zの機体が、THE・Oのコクピットに突っ込んだ。

不思議だ。
ほんの数秒前まで、あれほど死に抗っていたのに、今はなんだか、安らかな気持ちだ。
ただ、寂しい・・・そう思う。
「私、死ぬの?あっけないものね。でもね、一人では死ねないわ。
 だって、私、かわいそうじゃない?」
フフフ・・とジェリーは笑う。
シートとZの先端に挟まれ、ノーマルスーツの中はグチャグチャのはずなのに。
「な・・なんだ?」
カミーユはZを後退させた。Zの先端に張りついたジェリーの体も一緒に
THE・Oのコクピットから宇宙に引き出されてきた。
「は・・離れろ、コイツ」
カミーユはZのハッチを空けた。目の前に死を目前にしたジェリーがいた。
あまりのことに動けないカミーユの方へ、ジェリーの体が流れてくる。
その両手が、カミーユのヘルメットを抱えた。二人のバイザーが触れる。
口の端から細く血を流し、微笑するジェリーの顔が、バイザー越しに見える。
「私一人で逝くのは、不公平よね。だって、そうでしょ?
 あなたは皆に愛されて、皆に支えられて戦って、皆が待つ場所へ生きて帰れる。
 私は愛した男からも、哀れみの瞳で見つめられ、一人で戦って、一人で死んで。
 そんなの寂しいじゃない?哀れじゃない?私って、かわいそう・・そうでしょ?
 だから、お願い。カミーユ、あなたも一緒にきてちょうだい。
 もう、命を奪うとは言わないわ。せめて、あなたの心だけでも
 私と一緒にきてちょうだい。ねえ、いいでしょ?
 フフフ・・・ハハハ・・・アハハハハハ」
「う・・・うわああああ!」
カミーユはジェリーの腕をふりほどくと、急いでハッチを閉じ、Zのビームを乱射した。
4発目がジェリーの体を焼き、9発目がTHE・Oを貫いた時
コロニーレーザーの、大きな光の束が、宙を走った。
「あ・・・?光・・・?
 光が大きくなって・・・小さくなって・・・」
ファは、女の笑い声を聞いたような気がした。
振り返ると、そこに金色の髪をした女がいた。
「え・・?なに・・・?」
女はファの知らない数人の男たちに囲まれて、幸せそうだった。
そして、その胸に、大切そうに一人の少年の「首」を抱えていた。
愛しそうに抱きかかえられ、髪などをなでられている少年の「首」は
まちがいなく、カミーユのものだった。
金色の髪の女は、ファを見つめ、勝ち誇ったように微笑んだ。
「ひ・・!」
声にならない悲鳴をあげ、2、3回まばたきをしたら、それは消えた。
幻覚だったのだろうか。
そこには、全方位モニターにCG再生された宇宙がひろがっているだけだ。
ファは、狂ったようにメタスで宙を駆けた。
「カミーユ、どこにいるの・・カミーユ!」
Zが見えた。ファのメタスがスピードをゆるめて、Zに触れる。
「カミーユ?生きているの?カミーユ?返事をして!」
「え・・・?あ・・・なんだろう、あの光?キレイだな。彗星かな?
 違うな。彗星は、もっと、バーッと光るよな」
「カミーユ?カミーユ!」
「ここは苦しいな。どうすれば外に出られるのかな。
 おおい、出してくださいよ」
「カミーユ・・・!?アーガマ、応答願います・・・
 ブライト艦長、カミーユが・・・カミーユが・・・
 聞こえますか、アーガマ・・・」

fin

作:プロト ◆xjbrDCzRNwさん


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