彗星堕つ

エピローグ1

月のフォン・ブラウン市の宇宙港にジュディの姿があった。
傍らにはクェス、ブリーチ、チェーンの姿もある。
 「ブリーチさんもチェーンさんも、見送りに来てくれてありがとう!」
 「なに言ってるの!お礼を言わなきゃいけないのは私達のほうよ」
 「そうそう、ホントならあなたの見送りには連邦軍総出でこなきゃいけないくらいよ」
ブリーチもチェーンも、この戦いでそれぞれの大切な人を失ったというのに、
2人ともそんな様子は微塵も見せない。
強いな、とジュディは感じていた。
そんなジュディの様子に気付いたチェーンが声をかける。
 「・・・大丈夫よ。私はアムロが死んだなんて思ってないわ。
 連邦がアムロ捜索にロンドベルに与えた期間は半年だけだけど、
 その後は今の仕事辞めても自分でアムロを探し続ける。
 ・・・なんとなく、アムロは生きてるんじゃないかって思うのよ。
 大丈夫、私は頑張れるから・・・」
そう言って自分のお腹を愛しそうに撫でるチェーンに
ジュディとクェスは何事かと顔を見合わせた。
 「・・・それにしても、5年前もこうしてジュディを見送ったわね」
ブリーチが自分に腕を絡ませるクェスの頭を撫でながら懐かしそうに呟く。
 「ホントだね・・・」
ジュディは応えたが、5年前は・・・そう思った時彼方から呼び声が聞こえた。
 「ジュディ!」
振り返ったジュディは、声の主に思わず顔をほこらばせた。
 「ルイ!」
手荷物を放り出し、駆け足でルイの胸に飛び込むジュディ。
 「ルイ!ホントにルイだ!会いたかったよ〜!」
感激のあまり、ルイの胸の中で涙目になるジュディの頭をルイは優しく撫でた。
 「ジュディ・・・よく頑張ったな!」
エピローグ2

 「ねえねえ、この人がジュディの彼氏なの?カッコいいなあ〜」
2人の間に嬉しそうにクェスが割って入る。
 「こ、こら!からかうんじゃないの!それに、ルイは私のルイなんだからね!」
 「へえ〜アンタも言うようになったのね!」
クェスにコブシを振り上げるポーズをしてみせるジュディの背後から聞き覚えのある声がかかる。
振り返ったジュディの目には懐かしい面々が映っていた。
 「あ・・・エル!イシス(♀イーノ)!モニカ(♀モンド)ミーシャ(♀ビーチャ)!も!」
 「なーんだ元気そうじゃん!よかった、よかった」
 「ジュディもなんだか大人っぽくなったね!」
 「そう?私に言わせればまだまだ子供よ!」
 「そりゃ、モニカは『お母さん』だからねえ」
4人の会話を聞きながら、ジュディはモニカの足にしがみつく5歳くらいの女の子を発見した。
 「あり?・・・この子は?」
ジュディの問いにエルとミーシャが顔を見合わせた。
 「あ、そっか!ジュディは木星に行ってたから知らないんだ!」
 「この子はモニカの子よ。・・・ラサラ(♂)さんとのね」
言われてみれば、あのそっくりな姉弟に面影がよく似ている。
 「・・・きっとラサラがね、私のために残していってくれたのよ」
優しく娘の頭を撫でるモニカにジュディは彼女の母親としての成長を見た。
少女達の再会を見守っていたチェーンが思い出したように声を上げる。
 「ん・・・?あ、あなた達は!」
その声にエルとミーシャが振り返る。
 「え?・・・げ!チェーンさんだ!」
 「ホ、ホントだ・・・って、エル!私の後ろに隠れるんじゃないわよ!」
エピローグ3

 「え・・・?チェーンさん、2人を知ってたんですか?」
 「知ってたもなにも、この2人は私がアナハイムの研修生の指導に派遣された時の問題児よ!」
 「も、問題児なんかじゃないよね、ミーシャ?」
 「私は少なくとも、誰かさんみたいに居眠りなんてしてねいけどね」
 「2人とも!ちょうどいい機会だから、後で指導してあげるわ!」
 「そんなあ〜」
3人のやり取りを他所に、ジュディはイシス達の方を向き返っていた。
 「2人は今、何をやってるの?」
 「あ、私は地球を綺麗な環境にする民間組織のメンバーをやってるわ。モニカは・・・」
 「私らもこの後サラサ達と一緒に木星に向うわ。
 こっちは鈍足だから、向こうに着くまで5年くらいかかるけどね」
そう言いながら、再びモニカは娘の頭を撫でる。
 「あ、そうそう!」
ようやくチェーンから逃れてきたエルが割って入る。
 「そろそろ、いいわよね?」
ミーシャも続く。それに笑顔で頷くモニカとイシスにジュディは首をかしげる。
 「いらっしゃい!」
ミーシャが声をかけたほうを振り返ったジュディの顔に、
驚きとも喜びともつかない表情が浮かぶ。
エピローグ4

 「リィン(♂リィナ)!プルツー!」
 「お姉ちゃん!」
広げたジュディの腕の中に最愛の弟が飛び込む。
 「・・・アンタはいかないの?」
少し離れた位置で気恥ずかしそうにしているプルツーにミーシャが声をかける。
 「プルツーも・・・いらっしゃい!」
優しいジュディの声と、広げられた腕にプルツーもジュディに抱きつく。
 「ジュディ!夢みたいだ!」
 「アンタ達、大きくなったわね・・・」
ジュディが2人を優しく抱きしめる。
 「・・・私達、今同じハイスクールに通ってるんだよ」
少し落ち着いた後、プルツーがジュディに今の生活を話す。
 「ブリーチさんがボク達のために色々力を尽くしてくれてるんだよ」
 「そう・・・2人が元気そうで嬉しいわ」
ふとジュディは、リィンの服の袖を控えめに掴み続けている
プルツーの手に気付き、思わず笑みが漏れた。
 「さて、そろそろ出港よ」
ブリーチが出発を告げる。
 「あなたらしく、のびのびやってきなさい!」
チェーンと握手を交わす。
 「・・・向こうでまた会いましょうね!」
娘を抱いたモニカが微笑む。
 「アンタが帰ってくるまでに、アタシの手ですっごいMS造ってやるんだから!」
 「ちょっと!最強MS造るのは私よ!ミーシャはボールでも造ってなさいよ!」
ミーシャとエルが、昔通りのやりとりをする。
 「ジュディ・・・元気でね」
イシスが少し涙ぐんでいる。
エピローグ5

 「ジュディ、きっとまた会えるよね?」
すっかりリィン、プルツーと打ち解けたクェスが手を握る。
 「ジュディ、リィンは私が守るから!」
 「お姉ちゃん、・・・がんばってね!」
リィンとプルツーが再び胸元にしがみつく。
 「ルイ君を逃がすんじゃないわよ!」
ブリーチがジュディの頭をポンポンと叩く。
 「みんな、ありがとう!もし、もし実現できたらだけど、
 10年後の今日、またここでこうして会えたらいいね!
 あたし、みんなに負けないように頑張るから!」
仲間達に最後の笑顔を向けるジュディは少し涙ぐんでいた。
そして、ジュディ・アーシタはルイ・ルカと共に再び木星へと旅立っていった。
エピローグ6

 「ねえ、ルイ?」
静かな船室のベッドの中、ジュディはルイの胸の上から、
嬉しそうにルイの顔を覗いていた。
 「・・・どうした、ジュディ?」
ジュディの髪を優しく撫でながらルイが微笑む。
 「さっきのさあ・・・もう一回言ってみてよ!」
 「お前なあ・・・そんなの何回も言えるわけないだろ!」
照れくさそうに顔を背けるルイにジュディは頬を膨らます。
 「むぅー!言ってくれなきゃ、くすぐり地獄だあ!」
 「わあっ!馬鹿!やめろ!・・・わかった!わかった、言うよ!」
 「ホント?早く!早く!」
嬉しそうに、少し恥ずかしそうにジュディはルイの目を真っ直ぐ見つめる。
 「・・・愛してるぜ、ジュディ・・・!」
 「うん!・・・私も、愛してるよ、ルイ・・・」
そしてジュディは小鳥がそうするような軽いキスをルイと交わす。
窓の外の星々は、二人を見守るように優しい光を湛えていた・・・

作:・・・・ ◆iFt60ZwDvEさん


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