運命

最悪の台本には勿体無い音楽

とりあえずこちらのあらすじを御覧下さい。まあ色々意見はあるでしょうが、私見では支離滅裂、というところです。台本を仕上げたのはヤナーチェクの早世した娘オルガの友人だった若い女教師ですが、「平仄を整える」作業に終止したようで、シナリオは完全にヤナーチェクの指示によるものだそうです。何はともあれ、これはひどい。

上演史上でも、話の辻褄を少しでも合わせる為に、順番を大幅に入れ替える試みなどがなされたのですが、しかしこのお話では順番をどう入れ替えてもどうにもならないように思えます。

ここまでひどいとなると、一度真剣に台本を追ったら二度目以降は追う気がしなくなり、誰が何を歌っているのかを気にしないで聴くことにしているのですが、そう聴くと音楽は素晴らしいと思えるのです。
「イエヌーファ」には無かった軽やかさを感じます。ストーリー度外視で聴くのだから当然といえば当然なのですが。
歌の豊かさでは「ブロウチェク氏の旅行」の比ではありません。あれはシニカルなコメディ(喜劇)にするつもりがファース(笑劇)になったような、音楽的には中途半端な作品ですが。
敵役がはっきりしている「カーチャ」では流れが不可避的に途切れる場面がありますが、「運命」には一貫して流れるものを感じます。まともな台本の「カーチャ」では常に台本を意識して聴いていますが。
意外と似ているのが「女狐」でしょうか。長調を基調としている「女狐」を、短調基調にしたような音楽、というと流石に誉めすぎなような気はしますが。

「コジファントゥッテ」の音楽にオリジナルと全然違う道徳的(!)な台本を当てはめようとした偽善者(?)が居たそうですが、この「運命」の音楽こそ何とか救済出来ないものか、と思っています。

CD1枚に収まる演奏時間も家で聴く分には好都合で、個人的にはかなり評価していますが、でもやはりマニア向けのコレクターズアイテムであることは間違いないですね。LP/CDとも国内盤で出たことは無いと思います。

手持ちCD評

イーレク/ブルノヤナーチェクオペラo.盤
1976年録音の Supraphon SU 0045-2 611 を持っています。オケの音が薄い反面声の聴き取りやすい録音で、各歌手が余裕を持って歌っているように聞こえ、私の好みにはあっているようです。

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