第12巻:巡礼の年第3年、他 お勧め度:B

後期作品でも第11巻よりはっきり上です。とはいえ、メインの「第3年」は普段はチッコリーニのCDに手が伸びるし、ほかの曲は愛好しているというわけでもないので、お勧め度Bで文句無しです。

5つのハンガリーのフォークソング(1872)は何れも1分前後、第4曲の冒頭など「チャルダッシュ・オブスティネ」かな、と一瞬ドキッとしたりもしますが、まあ聞き流す曲でしょう。リストが何を思って作曲したのか、となるとさっぱり見当がつきません。

ハンガリーの史的肖像(1885) の全7曲のタイトルはリストと同時代のハンガリー人の名前、普通の日本人はリストの作品の中でしかお目にかからない名前です。第4曲のタイトルになっているラースロー・テレキという人は、先に葬送曲(第7巻)作曲のきっかけを作った人で、ここでもまた葬送されています。曲の方は第11巻のトラック29,30「葬送前奏曲と葬送行進曲」の短縮版。また第7曲「ミハーイ・モショニ」は第11巻のトラック27「モショニの葬送」のちょっとだけ延長版。全7曲を通じて、剛直であるというより、しなやかさに欠けます。ナショナリズムに目覚めた曲なのでしょうか? リスト本人は筋金入りのコスモポリタンなのに。普通の日本人が愛好するところまで行くには、ちょっと無理がある曲集のように思います。

Puszta Wehmuth (草原を求めて)(1885) は Zamoyska という人の曲が原曲とのこと。ハンガリー狂詩曲のミニチュアですが、勿論ハンガリー狂詩曲の方がずっといい。

ハンガリーの神(1881)は第11巻トラック24の同名曲の左手一本用編曲。原曲が世界初録音なのにこっちは違うのかしら?

巡礼の年第3年(1877)は、何だかんだ言っても大傑作です。ハワードは解説で、この曲集が"cycle"ではない、と断じていますが、その割に全曲通した際に効果が上がりすぎる。全7曲の調性は、長短短長短短長、とシンメトリカルになってお互いがお互いを高めあっています。

第1曲「アンジェルス!(御告げの鐘):守護天使への祈り」のふわふわとした不思議な感触はちょっと他に似たものを思いつきません。単独曲として比較すれば「エステ荘の噴水」には負けるでしょうが、この曲集の冒頭にはこれしかない、と思わせるものがあります。第2、3曲「エステ荘の糸杉に:悲歌1,2」はエレジーです。いずれも悲哀に満ちた響きがふと途切れて光が射す瞬間が美しい。エステ荘とはローマの近く、ティヴォリにある荘園で、そこに暫くリストが住んでいました。また、うろ覚えですが、糸杉はかの地では葬礼にはつきものだったはずです。

第4曲「エステ荘の噴水」は押しも押されぬ大有名曲。印象派の先鞭をつけた曲として、この曲だけが曲集中とび抜けて有名ですが、全曲通して聴くと、この曲はこの曲集の真中で聴かれるべきだ、と思えます。第5曲「真の涙:ハンガリーの旋法で」は1872年、第6曲「葬送行進曲」は1867年の作曲で、時期が早いせいか、第2、3曲と比べると鈍重になっています。しかし第7曲へのつながりはこの方がいい。その第7曲「心を高めよ」、ベートーベン以来の「苦悩を通じて歓喜へ」の曲ですが、その入り組んだ作りはさすがリスト、です。前にエレジーを置かないと格好がつかないので単独曲として取り出せる曲ではないですが、この曲集を見事に締めています。

ハワードの演奏は男性的だと思います。この曲集を初めて聴いたチッコリーニの方が内にこもる感じで、この曲集にはよりふさわしい、と思っていましたが、ハワードもボリューム上げて聴くとスケールが大きくてなかなか良いです。

 

第13巻:システィーナ礼拝堂にて&バッハ編曲集 お勧め度:C

「システィーナ礼拝堂にて」は実に怪しげな曲なのですが、バッハ編曲集は文字通りのバッハの曲です。第3巻はバッハに材料を得たリストの作品であったのと似ているようで、全然違います。ピアノによるバッハ演奏としては非常に立派なものだと思いますが、リストを聴くCDではありません。

システィーナ礼拝堂にて ( A la Chapelle Sixtine ) (1862)の成立の事情は解説を読んでも良く分かりません。Gregorio Allegri (1582-1652) のミゼレーレが門外不出の秘曲になった、それをモーツァルトがあっさり耳コピーしちゃった、らしいのですが、これがこの曲の怪しい部分。原作者の生没年からして、とんでもないアヴァンギャルドです。一方この曲の穏やかな祈るような部分が、モーツァルトのK.618のモテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、この2つをリストが混ぜた、ようですが、そもそもシスティーナ礼拝堂って何なのでしょう?・・と書いていたら、バチカンにある有名な礼拝堂であることを教えていただきました。アレグリの曲もモーツァルトの作品もこの礼拝堂とどういう関係あるのでしょうか? 何はともあれこの曲は文句なく面白い。アレグリの怪しさをリスト編曲が大幅にパワーアップしていることは容易に想像できます。出来ればこの曲は他のCDに収めてもらいたかった。

バッハのオルガン曲の編曲は実に立派で、ハワードの演奏も立派ですし録音も優秀ですが、100%バッハなのですね、これが。これ以上コメントのしようが無いので、原曲をリストアップしておきます。

プレリュードとフーガ イ短調、BWV543、同ハ長調、BWV545、同ハ短調、BWV546、同ハ長調、BWV547、同ホ短調、BWV548、同ロ短調、BWV544
幻想曲とフーガ ト短調、BWV542

TOPへ リストの部屋へ 第11巻へ 第14巻へ