第19巻:自作歌曲編曲集(愛の夢、他) お勧め度:A

自作編曲ものをまとめたCDとして、第14巻に続き、積極的に推薦します。歌曲の編曲でもこのCDなら全部で16トラック、このくらいなら多すぎて手に余ることもありません。とはいえ、やはり目玉の不在を感じるのと、やや単調で変化に乏しい(その点でもやはりシューベルトは凄い)のは否めないので、お勧め度Aでとどめておきます。一曲一曲味わうような聴き方をすればSクラスかもしれませんが、、、。このCDの限らずリストの全ピアノ曲中でも「愛の夢第3番」が一番有名ですが、このCD1枚皆多少ともその「愛の夢第3番」に似たところがあるように思います。

比較的若い頃の作品になるのですが、オリジナルピアノ曲よりいいというのは、2人分の仕事を一人にやらせるという制約があった方が、当時のリストにはかえって良かったのでしょう。勿論そのために技術的に難しくなることには殆ど制限が無かったはずです。また、男声を想定した曲の場合、メロディラインが中声に回るので、オリジナル以上に曲が落ち着きます。この観点はシューベルト編曲集でもう一度持ち出します。。。

冒頭から当の「愛の夢第1〜3番」(1850)ですが、勿論悪い訳はありません。3つの原曲はそれぞれ関係なく作曲されたようです。第1番「崇高な愛」、これが第3番に知名度で劣る理由はわかりません。若干難しいのかな? 同工の曲です。第2番「私は死んだ」、これは原題ではなくて歌詞の冒頭らしいです。ちょっとオーバーアクション気味なところ、他の2曲より分が悪いかもしれません。以上2曲の原詩はウーラント。

第3番「おお、愛せるだけ愛せよ」、原詩はフライリヒラート。原題抜きで有名になっています。現代人は原題にはゲンナリしかねないからその方がいいのでしょう。ハワードの淡々とした弾き方が趣味のよさを感じさせます。素人もよく弾きますが、そう簡単ではないのですが、、。右手と左手が上と下をとりつつ、余裕のある方の手で中声のメロディラインをつなげまわる手法はタールベルクの手法と呼ばれていて、リストオリジナルではないのですが、歌曲編曲やるとなれば自然に行き着く手法であるようにも思えます。

続いて、「6つのピアノだけのための歌曲集第1集」(1843)、ドイツ語歌曲集です。本体の歌曲と一緒に出版されたのですが、歌曲の方を改定出版した際にピアノ編曲は置いてきぼりを食って、リスト生前には再版されることもなく忘れられていった、というのが信じられないほど見事です。

第1曲「ローレライ」、小学校か中学の音楽の教科書で出てくるアレとは全く別の曲ですが、同じローレライ伝説に基づくハイネの詩につけた曲がオリジナルで、6曲中この曲だけは歌曲改定に追いつく形の改定がされて、それがこのCDのトラック16です。こちらの第1稿の方がすっきりしています。

第2曲「ライン川、その美しき流れ」、短い曲ですが、これが一番好きです。原詩はやはりハイネ、さざなみのような響き、それを乗せる和声の進行も新鮮です。ローカルなタイトルがちょっと残念ですが、いずれにしても忘れられていたのであれば、仕方ありません。第3曲「ミニョンの歌」、ゲーテの詩につけた歌曲は3度改定されています。このCDの中では比較的印象が薄い、といっても周りが全て素敵ですから。

第4曲「トゥーレに王が」、原詩ゲーテ、へ短調の落ち着こうとしても落ち着ききれない風の佳作が、後半は迫力アップ、かなり難しそう。第5曲「天上から来たあなた」、原詩ゲーテ、ゆっくりとした祈りに近い清らかな音、愛の夢第3番に劣るものではありません。第6曲「金髪の小天使」、原詩ポチェッラ、ちょっとモコモコしています。演奏より編曲に無理があるかもしれません。

6つのピアノだけのための歌曲集第2集」(1847)はフランス語歌曲集、原詩は全てユーゴーです。リスト生前は全て草稿に留まっていて、出版されたのは1985年になってからです。最初の4曲の原曲の方はリスト歌曲としてはよく演奏される方だそうです。そろそろ誉め言葉がつきてきたので簡単に済ませますが、第1集同様素晴らしいと思っています。

第1曲「おお、僕がまどろむとき」、これも中声から上声にまわるメロディが落ち着きを得て素晴らしい。第2曲「どのようにして、と彼らは言った」、第3曲「わが子よ、もし私が王なら」後半がド迫力になります。第4曲「もし美しい芝生があり」、第5曲「墓と薔薇」、第6曲「ガスティベルザ」、ボレロと邦題アンチョコにはありますが、私にはポロネーズに聞こえます(?)。

最後が「ローレライ」の第2稿(1861)。船乗りを誘惑する魅惑的な水の精だと思うと、序奏からして、手を変え品を変え、手練手管、風のこちらの方が似合っているかもしれません。

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