第23巻:イタリアのハロルド お勧め度:D

「イタリアのハロルド」はベルリオーズ作曲の独奏ヴィオラ付き交響曲。そしてこの編曲が、なんと独奏ヴィオラつき、です。原曲のCDも一応所有していますが、殆ど聴いていません。それを幸いにヴィオラソナタのつもりで聴こうとしましたが、どうにも調子が狂うのでDとしました。原曲を好きならまた違った評価になったかもしれません。

その「イタリアのハロルド」(1834)、全4楽章です。原曲は「幻想交響曲」より圧倒的にマイナーなので説明を要するかと思いますが、これについては日本一のベルリオーズ愛好家ではないかと思われる倉田さんのページを御覧下さい。第2楽章だけはピアノのみの編曲もあって、第5巻に入っています。ヴィオラ入り編曲の方はヴィオラソナタだと思うと余りにもヴィオラが出てこないし、かといってピアノ曲と思うには、たまに闖入してくるヴィオラ(ポール・コレッティ、まあまあの演奏だと思います)が邪魔になる、と言う具合で、調子出ないことおびただしい。パガニーニが「ヴィオラの出番が少なすぎる」と原曲に苦情を述べたのと同じことなのでしょうか?

これ以降は決して悪くない。ヴィオラ入りなら次の「忘れられたロマンス」(1880)の方が当たり前に良く出来た小品です。第11巻の同名曲の原曲です。

Himne A Sainte Cecile」(1866)(アクセント記号等は抜いて表記しています)は、グノーの、ヴァイオリンとハープと打楽器と管楽器のため、あるいは、ヴァイオリンとピアノとオルガンのための原曲によるものですが、ハワードさんの知る限り何れの編成でも20世紀中の演奏記録は無いのだそうで。リストの編曲も草稿の束に埋もれていて、この録音のために掘り出された、という珍品。ですが、裏話を知らずに聴けば19世紀のちょっとした大傑作です。

Le moine」(1841)は、マイヤベーアの歌曲(?)から、「シラー生誕100年祝典行進曲」(1860)は、マイヤベーアの管弦楽曲からの編曲。前者の方が好きですが、後者も派手過ぎず落ち着いた行進曲です。

 

第24巻:ベートーベン&フンメル七重奏曲 お勧め度:B

ベ−トーベンの七重奏曲なら、同じくベートーベンの交響曲集よりはっきり落ちます。それで何故お勧め度が落ちないかと言うと、私がフンメルのを好きだから。フィルアップの曲も一風変わったのが揃っています。ロッシーニの1曲目を除き全て世界初録音と言うのが不思議なくらいのオール編曲集です。

ベートーベンの「七重奏曲」(1841)の原曲は作品20、第1交響曲と大体同時期ですが、ベートーベンの気合が違います。おかげでピアノに編曲した結果できたものはベートーベンの初期のソナタによく似ています。第3楽章のメヌエットに至っては、作品49の2(作品番号で想像されるより若い頃の実質ソナチネのピアノソナタ)の第2楽章の転用で、リスト編では音域が低くなって妙にドスが効いています。全6楽章40分以上ですから初期ピアノソナタより大規模にはなりますが、内容は同一水準、交響曲の編曲とは比べられません。

モーツァルトのレクイエムより2つトランスクリプション」(1865)は、「呪われた者は退けられて」「ラクリモサ」の編曲、モーツァルトの筆が止まったところを跨いでいます。こういうものが悪いはずが無い。ただし、前半でハワードさん、左手のオクターブがついて行っていないのは残念。

同じくモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」(1861)は「システィーナ礼拝堂にて」(第13巻)でも出てきました。ここのはそれに終止形をつけただけ、のようです。そこまで承知の上なら無視しても構いませんが、第13巻を未聴でしたら、ここでしっかり聴いてください。

ヴェルディのレクイエムより「アニュス・デイ」(1877)、静かな曲です。原曲からはかなり自由な編曲とのことです。

1枚目の最後は「2曲のロッシーニのトランスクリプション」(1847)、一曲目が「Air du Stabat Mater」=悲しみの聖母のアリア、のはずが、重苦しいのは冒頭の一瞬だけ、事情はわかりませんが、いい曲です。「La Charite」(慈悲、ですか?)の雰囲気は「ペトラルカのソネット」に近いのですが、内容の欠如を全く感じさせることなくにじみ出る屈託の無さは、リストには真似の出来ない、さすがロッシーニというところで、これは更にいい曲です。

2枚目に移って、ゴルトシュミットの「7つの大罪」より「愛の情景とフォルトナの球」(1880)、邦題はアンチョコに従いましたが、英語が Fortune's (Crystal) Ball =「幸運のクリスタル球」ということは、これはロールプレイングのゲ−ムか何かの世界なのかしら?。作曲者はヴィーンのアマチュアというかセミプロで、リスト及びワーグナーの支持者です。愛の情景はイゾルデのかなりそっくりさん、幸運の球のほうはヴァルキューレに似ていなくも無い、というところ。何と申しましょうか、、、。

メンデルスゾーンの合唱曲より「Wasserfahrt und Jager Abschied」(1848)、ゴンドラの歌と狩人の別れ、でいいのでしょうか、後半が派手になっていってまあまあ楽しいですが、印象に残る曲でもなさそうです。

次の「アラベスク風子守歌」(1848)はウェーバー原作による変奏曲だというのですが、原曲の編成が分かりません。これも合唱曲でしょうか?。7分強、これはなかなかの佳作です。

次の「Leyer und Schwert - Heroide」(1846-1847)の原作はウェーバーの合唱曲らしいです。イントロー剣の歌−祈り−Luzowの狩の歌、とつながって約7分、なかなか劇的で気分は良質のオペラファンタジーです。決然とした前2曲、第3曲はありがちな曲ですが、いいではないですか。第4曲、この wilde Jagd は疑いなく典型的狩の歌です(第4巻の第8曲参照)

最後がこの2枚組のメイン、フンメルの「大七重奏曲」(1848)、ベートーベンの交響曲や七重奏曲に対する時とは違ってリストが自由に編曲しているのだそうです。原曲の編成が分かりませんでしたが、バック付きのピアノ曲のようなもの、とのこと。ニ短調の堂々たる4楽章ソナタで、思い浮かぶ作品はアルカン作曲の「コンチェルト」(解説&推薦CDはここの見解を支持します)、あそこまで無茶苦茶ではないですが、ピアノソロとバックの音がなんとなく聞こえて来ます。原曲を知らないものですから、ベ−トーベンの交響曲みたいに原曲のイメージに引っ張られることもありません。リストのオリジナル作品リストに欠けている(初期ロマン派風)古典的大ソナタとして大いに認めたいのです。

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