第35巻:アラベスク(ロシア&ハンガリー編曲集) お勧め度:D

とことん珍曲集です。曲目を見て普通の人が求めて買うようなものでなし、まあhasidaがCというからとりあえず買ってみようとおっしゃる方もいないでしょうから、Cにしてもいいのですが。というのも意外と悪くないのです。

しかし、どうご紹介したものか。全16トラックですが、「ラコッツィ行進曲」の「普及版」・・聴く分にはつまらない世界初録音版、を別として、出てくる作曲家で一番有名なのが、ボロディンの2トラック、ただし2トラック目はボロディン自身の連弾作品(1分19秒)で、1トラック目がその曲にリストがつけたピアノソロの前奏曲(32秒)、ですので編曲でもありません。その次に有名な作曲家がキュイ(!)ということになってしまいます。元々ピアノ曲の「タランテラ」をちょっと豪華にしたもののようです。

ということは、それ以外の作曲家の名前は私を含め(!)普通の人は知らないはずと思います。一応曲集のタイトルにもなって冒頭を飾っている「アラベスク」はちょっとした佳曲と思います。何れの曲についてもリストの貢献度合いすらさっぱり見当つきません。他にも少なくない珍曲集の中では意外と退屈しない方だ、という意見もある、程度に記憶にとどめていただければ出来すぎかと思います。

 

36巻:より高く!(他、自作珍曲集) お勧め度:D

これまた、とことん珍曲集です。曲の発見自体がつい最近のものも多く、全トラック世界初録音のはず、と銘打ってあります。聞き覚えのある曲の初期稿もあるのですが、最終形より聞き劣りがするものばかりです。

タイトル曲の「Excelsior!」(1874)は自作合唱曲「シュトラスブルク大聖堂の鐘」の前奏曲のピアノ編曲ですが、大した曲ではありません。「ノンネンヴェルトの僧院にて」(1844)は第2稿、ご丁寧にそのまた別稿まで入れてあります。これらはこの1枚ではよい方だと思います。

コンソレーション」(1845)は、"first series" 、最終形(第9巻)で最も有名な第3曲の代わりに全然違う短調の曲=ハンガリー狂詩曲第1番の冒頭部分に転用、が入っています。他の曲については「第1稿」と呼べるのですが、6曲で23分以上かかるという長さが一番違うように思います。短いはずのコンソレーションが長くては調子が狂います。

Geharnischte Lieder」(1861)は、戦士の歌曲集、と訳すようで、戦意高揚の歌のようなもの、のようです。そのようなものとしてはまあまあの3トラックです。「Rosario」(1879)はハーモニウム向きの曲というのですが、いくらなんでも不思議すぎる断片のような3トラックです。続いて、2曲の「エレジー」(第9巻)の初期稿(1874、1877)ですが、最終形にもさほど魅力を感じていないのに更にピンと来ません。第1エレジーの方がまだいいかな?。残り4トラックは行進曲の断片、第28巻で聞き覚えのあるのも出てきますが、それがどうした、第28巻の方が聞き応えがあります。

 

37巻:Tanzmomente(他、ドイツ珍編曲集) お勧め度:D

またまた、とことん珍曲集です。前の巻に続き、原副題にちゃんと”rare”の文字が入っています。前々巻、前巻に引き続き、殆ど聴いていなかった巻です。この3つなら第35巻をとる、のかな?

タイトル曲集「Tanzmomente」(1869)全8曲は、Herbeck (1831-1877) の管弦楽曲の編曲。「踊りの時」とでも訳すのでしょうか? 解説では「Bunte Reihe」(第16巻)になぞらえていますが、私見ではあれよりは大分いいです。路線としては「音楽の夜会」(第21巻)「ウィーンの夜会」(第31巻)といったところと比較されるべきでしょうが、ただしこのどちらと比べても少しずつ分が悪い。大体は原曲に忠実な編曲の中で最終曲だけが自由なワルツ=ファンタジーなのだそうですが、その最終曲を含め、まずまずの出来だと思います。

第18巻でもでてきた Lassen (1830-1904)の歌曲の編曲、「天よ我が魂を救いたまえ」第1稿(1861)は情熱を秘めた静けさ、という感じのかなりいい曲です。続いてかの Hans von Bulow (u にはウムラウトがつきます)(1830-1894)の「Dantes Sonett 'Tanto gentile e tanto onesta'」(1874)、解説読んでもどういう曲だかよく分かりません。ビューローが大ピアニストで大指揮者だけど大作曲家ではなかった、という趣旨のことは書いてあります。私の判定でも Lassen に負けています。

Die Graberinsel der Fursten zu Gotha {E H zu S-C-G]」(ウムラウト2つ省略)(1842)の原曲を作ったのはヴィクトリア女王のいとことかいう、第6巻でも出てきた人(1818-1893)、お名前をちゃんと書くと長いから全部省いてしまおう、です。耳あたりはいいですが、微温的に過ぎます。次のには聞き覚えがあると思ったら、第4巻のフィルアップに入っていた「エレジー」の第1稿(1842)だったのですね。原作者はプロイセンの若くして戦死した王子(1772-1806)、ヴィクトリア女王のいとこよりはよほど優れた音楽家だった、とハワードが書いているのだからそうなのでしょう。

当時作曲家としてよりも、ジャーナリスト、劇場支配人として有名だったという Lessmann(1844-1918)原曲による「3つの歌曲」(1882)は3曲とも種も仕掛けも無い曲でコメントに窮します。Lassen 原曲の「天よ我が魂を救いたまえ」第2稿(1872)は第1稿よりさらに手が入っていますが、私の好みでは第1稿を取ります。同じく Lassen の「私は孤独の中にいる」(1872)も近い路線ですが、やや劣るかもしれません。

Tanzmomente」第4曲の別稿、といわれても違いが分かるほど本稿を聞いていません。最後は Conradi (1821-1873)の管弦楽曲からの編曲「Zigeuner-Polka」(1847)です。冒頭は「死の舞踏」(Totentanzの方です)でも始めるのかと思わせますが、すぐに月並み調に陥ります。

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