カルメン

(以下の文章はヴェルディのコレクションを始める以前のものです)
モーツァルトとヤナーチェク以外のオペラでは多分一番好きです。とはいえ、「フィガロの結婚」のように、どこを取っても好き、とまでは参りません。

このオペラでも、ストーリーそっちのけで歌のための歌を歌う馬鹿馬鹿しさ、と無縁ではありません。第1幕への前奏曲(これは素晴らしいの一言)の後、開幕してから暫くの間、モラレスとミカエラとの問答を始め、なんだか学芸会でもやっているようなやりとりが続きます。児童合唱団が出てきてますますその感が強くなります。

これを一気に打ち破るのがカルメンの登場、「ハバネラ」です。私が初めて発見したことでもないのですが、この「ハバネラ」に始まり、カルメンが一人で歌っているのは全て劇の設定として本当に歌う歌なのです。学芸会の中に突然本物の、それもとびきり熱い人間が飛び込んできた思いに駆られます。この「ハバネラ」以上に、第1幕では、引っ立てられて歌う鼻歌?と「セギディーリャ」が魅力万点、ドン・ホセに狙いをつけて歌っているからでしょうか。

開幕前の間奏曲では唯一ぱっとしない第2幕ですが、開幕直後の「ジプシーの歌」はこれまた最高。ドン・ホセのために歌うところは若干さびしい。そしてこれ以降は設定上の歌は出てこなくなります。

ドン・ホセ(本当はドン・ジョセなんでしょうか?)にもエスカミーリヨにもミカエラにも有名なアリアがありますが、これらは全て学芸会の世界であり、オペラとはこんなものだ、という自分への言い聞かせをする必要があります。もしカルメンが突出したリアリティを持っていなければ、むしろ一々こちらの姿勢を切り替えなくて済んだのかもしれない、とすら思っています。そのカルメンもアンサンブルでは結構あっけなく学芸会の世界に加わってしまって、鼻白むとは言いませんが、少し調子が狂います。

というわけで、一にも二にもカルメンというこのオペラ、他の配役は、まあ、どうでもよくて、カルメン役の魅力一つにかかっていると思うのです。適役とされるのが強い声のメゾソプラノ、魔性の女はこれでなくては、という声です。

手持ち音源

最近の「レコード芸術」で推薦CDになっていたもので、カルメンを歌っていたのが、バルツァ、カラス、ベルガンサです。そこで、違う演奏のもありますが一応この3人は聞いてみました。

レヴァイン指揮メトロポリタンオペラ(LD/DVD) (1987)
バルツァ(カルメン)、カレーラス(ホセ)、レイミー(エスカミーリヨ)、ミッチェル(ミカエラ)
CDで推薦されているのはカラヤン指揮なのですが、聞かずに迷わずレヴァインの方を取りました。バルツァは最高のカルメンではないでしょうか。レイミー(という表記でいいのかどうか)がそういいとは思いませんが、そしてカレーラスもミッチェルもレヴァインもかなりいいと思いますが、そういうのはどうでもいい。あえて付け加えるなら、ジプシーの歌の場面のダンスが素晴らしい。一人だけ素人みたいなお姉さんが混じっているのもご愛嬌でしょう。
デルヴォー指揮パリ・オペラ座(DVD) (1980)
ベルガンサ(カルメン)、ドミンゴ(ホセ)、ライモンディ(エスカミーリヨ)、リチャレッリ(ミカエラ)
CDではアバド盤で歌っているベルガンサですが、DVDのこちらを買ってみました。ベルガンサは踊りは上手いし、カスタネットのリズム感もいいし(バルツァはかなりひどい)、表情も演技もいい。でも声の迫力でバルツァに負けてしまうところで全部帳消しです。残りのキャストもいいのですが。オケの響きは今一つ、指揮のせいもさることながら録音で負けているように思います。前奏曲/間奏曲の中でホセの悪夢?を見せる演出は趣味がいい。DVDで対訳が付くとは言いながら、解説も何もなしというのはいかがなものかと思います。
プレートル指揮パリ・オペラ座(CD) (1964)
カラス(カルメン)、ゲッダ(ホセ)、マサール(エスカミーリヨ)、ギオー(ミカエラ)
実はハイラント盤しか持っていません。でも聞きそびれたと思っているのは第1幕の鼻歌だけです。カラスのカルメンが長く理想とされてきたのはよく分かります。しかしバルツァはこのカラスを超えたと言ってもいいのでしゃないでしょうか?
カルロス・クライバー指揮ヴィーン国立歌劇場(CD) (1978)
オブラツォワ(カルメン)、ドミンゴ(ホセ)、マズロック(?)(エスカミーリヨ)、ブキャナン(?)(ミカエラ)
いわゆる海賊盤だと思います。1978年というとオブラツォワが今のゲオルギュ−並に鳴り物入りで売り出されていた頃だったように記憶しています。それにしてはひどい。ジプシーの歌ではクライバーの猛加速にオケは混乱するしオブラツォワの声はひっくり返るし、で全然駄目。

(04.11.10追記) クライバーの追悼盤として、このCDと同じ音源と思われるDVDが発売されました。これがまたやたらと評判がいいので、かつてボロクソに書いた記憶のある私も気になって、多分3年ぶりに聞き直してみました。
確かにいいです。オケが格好いいです。DVDではクライバーの姿をふんだんに写しているということですから、なおのこと格好いいでしょう。録音がいいです。同時期のオペラ座に爪の垢でも飲ませたいくらいの大差で、「拡がり」「分離」「臨場感」どの観点でも最上のライブ録音です。この録音に乗ってドンホセもエスカミーリヨもミカエラも最高に聞こえます。
・・・しかし、前にボロクソに書いたのも分かるのです。オブラツォワのカルメンにはやはり魅力を感じません。ただ、3年前と比べると私の方がカルメンの声いのち!だけではなくなっているようで、総合的にはかなり魅力的な盤であると思えました。
#いい加減な評者で申し訳ないですねぇ。
#万一私なんぞをあてにして下さる方がいらっしゃれば、ですが。

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