「マオメット2世」

日本では決して有名ではありませんが、専門家によるこちらの頁に、粗筋、作品の位置付け、1820年のナポリ初演稿から1822年ヴェネツィア改定稿、1826年パリ向け改作「コリントの包囲」に至る経緯、等について詳細な解説がありますので、まずはそちらを読んでいただく前提で、主に入手したDVDの感想を書きます。

 

 

手持ち音源

シモーネ指揮ペーザロ歌劇場盤

HouseOfOpera盤(DVD140)です。1985年のペーザロ・ロッシーニ・フェスティヴァルの記録、オケと合唱は The European Festival Orchestra e Coro Filarmonico di Praga となっています。画像はボケているなりに安定していて、音質も冒頭ヒスレベルが高かったのがすぐに収まって、まあまあ良い方かな、と途中まで思えるのですが、第2幕途中で途切れた(VTRのテープ交換でしょうか)後、画質音質とも乱れが大きくなるのが残念です。

しかし、これもかなり貴重な記録です。サン・カルロ劇場(ナポリ)の「エジプトのモゼ」と同列に並べてもいいのかもしれません。シモーネの指揮はいささか重ったるいのですが、ヴェネツィア稿盤よりはマシです。

豪華歌手陣は指揮以上に好調です。メリットもガスディアも最高の出来でしょう。エリッソを歌うメリットは迫力ある声のままDis(≒Es)の長伸ばしを豪快に決めていて、風格、存在感も申し分ありません。アンナを歌うガスディアは最高の見せ場のフィナーレで画質音質が落ちるのが残念ですが、安定感、迫力、迫真の演技、どれを取っても文句なしです。美人ながらやや漫画チックな顔ですが、アンナになりきっています。レイミーもアッスール(ロッシーニ:「セミラーミデ」)、アッティラ(ヴェルディ:「アッティラ」)と同じく、いかにも向いていそうなマオメット役を期待通り見事に歌っています。

主役級で問題があるとすれば、V=テラーニのカルボでしょう。登場直後のG−Gの2オクターブ降下は上がりきらず下がりきらずで冷や冷やしますし、続くヒロイックなコロラトゥーラでテンポを落として押し込めるのもやや興ざめ(これは指揮者を責めるべき?)ですが、第2幕のアリアはまずは問題無くこなしています。その他端役ですがコンドゥルミエーロをマッテウッツィが歌っています。

もし同一音源の正規盤が出たら私は迷わず買います。

同じHouseOfOperaから、DVDNOV07-378というのが、音声が右chのみに入っている状態ですが(左chには時々無関係なノイズが入っている)、それを無視すれば音声映像とも非常に優秀です。但しPALなので、そのままでは普通のDVDプレーヤにはかかりません。同内容のものがOperaShareにもアップされています。(08.01.19追記)

 

 

シモーネ指揮ヴェネツィア・フェニーチェ座歌劇場盤(1822年ヴェネツィア稿)

輸入盤ですが日本語字幕が付きます、が、この字幕はひどいです。話の流れがさっぱり分かりません。エリッソがウベルトを偽者と見破ったくだりなど、この字幕を見て初めて理解した所もありますが、全体を通すとむしろ粗筋を見直してしまった所の方が多いくらいです。最新収録でDVD2枚に余裕を持って収録した割には画質も良くありません、とはいってもHouseOfOperaでの「まあまあ」よりは次元が違うほどに良いのですが。

ヴェネツィアの上演だから、ヴェネツィア稿を採用したのでしょうが、この筋もひどいです。アンナの自殺に向けて積み上げてきたストーリーを最後の所でヒョイとヴェネツィア軍大勝利のフィナーレにつなぎ変えてもどうにもなりません。

追加された序曲はフィナーレの改訂に比べれば全然問題無いと思いますが、これを指揮するシモーネがロッシーニにはあるまじき重ったるさでくたびれます。歌手陣はペーザロ盤とは比較にならず小粒ですが、その中ではカルボ役がマシでしょう。無鉄砲な若手将軍の雰囲気も出ていますし、少なくとも音程はV=テラーニより正確です。それをいうならアンナもエリッソもマオメットも、音程は悪くないのですが、迫力、存在感、迫真、貫禄・・・といったキーワードを持ち出すと、ペーザロ盤の面々には遠く及びません。アンナ役はスタイルでもガスディアに負けておらず、美人でないこともないのですが、見た目にアンナのイメージとのギャップが大きすぎます。コンドゥルミエーロをカウンター・テナー(男の裏声)でやっているようですが、これだとカルボ(コントラルト)の声がかぶさる効果が生きてきません。

1820年稿でやらなかったこと以外にも問題が多すぎる一枚で、私としてはあまりお勧めできません。

 

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