怪しのマトリクススピーカー

こればかりは聴いていただかないと、説明のしようもなく、そして自作スピーカーでないと聴きようもないのですが・・

長岡先生の「世界でただひとつ自分だけの手作りスピーカーをつくる(講談社)」にも作例があります。分かる人には分かる、というところですが、近接した3つのユニットで、中央が(L+R)、左が(2L−R)、右が(2R−L)の信号を受けるようになっています。もし左耳が中央と左の音だけの合成を聞くのであれば、(L+R)+(2L−R)=3Lとなり、純粋なLの信号だけを聞くことができるはず(クロストークがない状態)ですが、勿論実際には右のユニットの信号も左耳に入り、何が何だか分からないことになります。でも、それをいうなら、普通のステレオでもなぜ音場ができるのか、これも良く分からないところがあります。

3つのユニットをどう配置すべきか、長岡先生の作例でも、平面上に近接して配置、同一平面上だが離して配置、角度をつけて近接して配置(私の作例では通算第3作および第5作で採用)、と色々考えられますが、どれがいいのか不明です。FE83あたりで小さな箱を3つ作って、色々配置して実験したら面白いでしょう。

決してHi-Fi (高忠実度)ではないと思います。その音場感には作り物じみた不自然さがあります。しかし、作り物じみていようとも、怪しい臨場感はちょっとくせになります。

クラシックCDの平均値で言うと、普通のステレオ配置の方が幅広く拡がります。しかし奥行きあるいは上下の出方は普通のCDでも差をつけます。そして音源に直接対峙しているかのような怪しい臨場感があります。これと比べると、普通のステレオではスピーカーを結ぶあたりに音源があり、それを外からのぞきこんでいるような「よそよそしさ」を感じてしまう、とでも申しましょうか。

これがソースによっては大化けします。私が「怪しの臨場感」が無性に恋しくなる時に取り出すのは以下の3つです。

1) 「密林のポリフォニー イトゥリ森ピグミーの音楽」 JVC VICG-60334
CD全部を通して、素晴らしい音楽と素晴らしい録音で、背景の虫の音が真横に定位したりするのはザラなのですが、特にトラック4の7分から9分にかけて、虫か鳥か知りませんが、後ろ上方45度に定位します。初めてここを鳴らした時には、部屋の隅に虫が紛れ込んだかと思って本気でキョロキョロしてしまいました。なお、この部分は普通のステレオでも簡単に真後ろに定位してしまいますが、高さと臨場感でマトリクススピーカーが上を行きます。
 
2) 「長岡鉄男 メモリアルCD」 FMfan 特別編集「開拓者 長岡鉄男」(共同通信社)付録CD
トラック1と4は長岡先生の肉声が聞けるというだけのものであり、トラック2のガムランもそんなに上手くないし、音場としても面白いものではないのですが、トラック3の「自衛隊富士総合火力演習」の録音が圧倒的です。ボリュームを上げて聞くと、飛行機やヘリコプターは頭上を前から後ろにすら飛び回りますし、戦車が迫ってくると轢かれてしまいそうな感覚に陥ります。なお、そのくらいにボリュームを上げると、大砲の発射音でコーンが目に見えて揺れます。
 
3) 「ヴァレーズ作品全集」 シャイー指揮ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団 LONDON POCL-1847/8
「観音力 長岡鉄男編集長の本」(音楽之友社)でも取り上げられていた優秀録音盤。怪しい臨場感を特に楽しめるのはCD1の「ポエム・エレクトロニク」。本来、400個以上のスピーカーで演奏(再生)されたテープ音楽ですが、それをステレオにトラックダウンする際に上手く位相処理したのでしょう、音が横や後ろを飛び回ります。

前の賃貸マンションに居る間1年以上梱包されたままだったFE87×3のマトリクスDBスピーカーを開梱して、PMA-2000Uにつないで、久しぶりに聞いてみました。ボリュームを10時の位置まで上げると、自衛隊CDの大砲の発射音でコーンをバタバタさせながらも、ヘリコプターを頭上に飛ばして頑張っていたのですが、いかんせん、普通のピアノ協奏曲を鳴らすと、なんだかラジカセみたいな安っぽい音がします。PMA-390UにつないだFE-88ES×3のマトリクスBHに対し、メリットなしと判断せざるを得ません。

もし、マトリクススピーカーを体験してみたいという方で、愛知県刈谷市まで取りに来てもよいという奇特な方がいらっしゃいましたら、FE87×3のマトリクスDBスピーカーを進呈いたしますので、お知らせください。03.08.30譲渡済み

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