そしてまたお前は、俺を困らせる可愛い我が侭を口にするんだ。
お前の我が侭だから。
待ち合わせに遅れてくるとは…、たるんどる!
それにしてもが遅刻とは珍しいな、とまた時計に目をやった。
は、いつだって待ち合わせよりずっと早くに来て、嬉しそうな顔で俺を待っていた。
俺はいつも10分前には来ているのに、それよりも早く俺を待ち続けていた。
……それがないというのは、何か物足りない。
一人する事もなく、空を見上げた。
…秋晴れの、綺麗な空だ。
たたた、という駆ける音が聞こえ、音の方へ視線を向けると、が困った様にこちらを見ている。
「………」
「!」
は、怒られると思ったのか、びくりと肩を震わせた。
「…怒ってなどいない。‥たかが数分だ」
「で、でも」
「…行くぞ」
ここで、お前を待つくらいなんともない、とでも言えれば良かったのだろうか。
…きっと俺は不器用だ。
と付き合い初めてから、そう思う事が格段と増えた。
もっと自然と愛したいと思うのに、出来ない自分に腹が立つ。
もっと愛しいものを愛でて、
その愛おしい笑顔を見ていたのに、
それが出来なかった。
そんな過程を、仁王たちが楽々とこなしているのかと思うと、また少し気が滅入ってしまう。
振り向くと、はしゅん、と背中を丸めていた。
俺は少し歩幅を緩め、の隣へと並んだ。
「…ごめんね」
「……まだそんな事を言っているのか」
「…真田くん、遅刻とか、嫌いだもん…」
「……これは部活ではないだろう」
どこか嫌な所があっても、それを上回るほど相手が愛しいと思えたのであれば、嫌いにはなれないだろう、と
そんなような事を、昔誰かが言っていた。
たかが数分の遅刻、嫌な部分になど到底入りはしないが、きっとそういうことなのだろう。
「愛している」
「!」
びっくりして目を見開いたを見て、少し自己嫌悪した。
こんなタイミングで言う言葉でない事くらい、俺にでも分かっていた、はずだった。
「…ふっ、あははっ」
「な…」
まさか笑われるとは思っていなかった。
そんなに恥ずかしい事をしたのか、と俺は首を傾げた。
そして、まだくすくすと笑うを横目に、また歩幅を大きくした。
顔が赤くなっているだろうということは、自分でもよくわかっていたから。
「真田くんって、…かわいい」
ぴょん、と跳ねて俺の横へ自分の居場所をキープして、はまた少し笑った。
子供っぽいのか、大人びているのかわからないに、また戸惑った。
かわいいと言われた事について聞くのも忘れてしまうくらい、ころころと変わる彼女の表情に見入ってしまう。
「…真田くん」
そっと、視線を彼女の瞳へと向ける。
彼女は少し、恥ずかしそうに微笑んで、小さな声でまた、その可愛い我が侭を口にする。
「手、つないでもいい?」
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