先輩…!」

 

 





    サクラサク その頃には


 

 




俺は校門の向こうへと行ってしまう彼女を呼び止めた。

振り返った彼女は目を潤ませていて、ふわりと俺に微笑む。

手には、卒業証書の入った筒。胸には華。


彼女は、今日でココを卒業したんだと、改めて実感する。



「…先輩…」

「今までありがとう」



ありがとう なんて、

それは俺が言わなきゃならないセリフなのに。



「俺…」

「…そんなに哀しい顔しないでよ」

「……。」

「卒業、祝ってよ」




にこにこと笑う彼女の表情は、笑ってるのに、哀しそうで。

見ていて、余計に辛くなる。




寂しいなら、寂しいって言えばいいのに。


彼女はいつも無理するから。




俺より年上の癖に、 俺よりずっとガキなんだ。




俺の前で、少しは年上らしくしようとする振る舞い。


見栄なんて張らなくたっていいのに。






俯いた彼女の髪の毛から、ほんのりとシャンプーの香りがした。


そんな彼女の髪に、そっとキスを落とす。




「あ、とべくん…」



きょとん、と顔をあげた彼女の頬に、優しく口付けた。










一輪のガーベラを差し出すと、彼女は嬉しそうに笑った。


いつもと同じ、ふわりとした笑い方で。




握りしめていたから、すこしへたりとしおれてしまったその花を、彼女は愛おしそうに見つめた。



「…ありがとう」




ゆっくりと俺に近づくと、優しく俺を抱き締めた。


それがどこかいつもと違って、少し大人っぽくて。

柄にもなくドキドキとしてしまう。












俺より少し小さな先輩。


髪の毛の隙間から覗く真っ赤な耳を見て、




なんだ、また無理してるんだと、少し笑った。

 

 

 

 

 

 

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