パールレース2005参戦記 佐藤洋一 2005.7.24


7月20日

 待ちに待ったこの日がやってきた。

 3時30分に起床・・・のはずが少し寝過ごしてしまった。親父にすかさず起こされた。あかんーもうやってもたー。。。速効着替え、身支度をしたらいつものようにクーラーボックスにビールなどを詰め込んだ。全部で6日間にもおよぶロングセーリング、去年の教訓も踏まえて水と氷は多めに。一人一日4リットルの水やお茶はあらかじめ船に積んであった。

5時10分頃、チェスナットは西浦マリーナをあとにする。早朝なのでハーバーの方は降ろせないとのことなので、2日前から置きっぱなしにしてあった。五箇所についたらやっぱ掃除するんだろうなーなどと思いながら約10時間におよぶ五箇所への回航はスタートした。メンバーはほぼ去年と同じでダイバーの方や寿洋さんなどゆったりした気分で。先日から聞いていたとおり台風の影響でかなりうねりが激しく、三河湾を超えたあたりから3角波と格闘しながら本船回避、うねりからくる船酔いとも戦いながらのセーリング。やっぱり外洋は波がたけーなーとか思いながら必死に吐くのをこらえて一番前でワッチをしていた。酔いというのは不思議なもので、人が酔っているのを見ても「大丈夫か?」など余裕に声をかけてあげられるにもかかわらず、人が吐いているのを見ると自然と自分まで吐きそうになってくる。吐いた自分自身はそのときは楽になるんだけど・・・今までもそういうことが何度かあったので今回はみんなで楽しく行こう、と思い必死で吐くまいとこらえていた。本船航路も抜けてすこし波も穏やかになったので、ケンケンという疑似餌を使った流し釣りをしようということになった。前も何度もやっていたけど疑似餌をもってかれたりラインを噛み千切られたりと散々だったのでまーなんにもつれないだろうなーなど思いながら前でポーっと見ていた。波を裂いて進んでいくヨットの穂先を見ると、なにか気持ちいい感情にかられる。一番前というのはいいなぁ。なんてったって右見ても左見ても前みても、視界をさえぎるものは3本のシートだけ。あとは大海原が広がっている。ここじゃ酔いなんて言葉は存在しないなぁ(笑)風も心地よいし、ワッチもできるし、回航に関しては最高の場所だなーと再発見した。

そんなゆったりした気分で海を眺めていたところ、後ろがワイワイ騒がしくなってきた。なにかと思い後ろに耳を傾けてみると、やれ魚が食いついてるだやれ魚が釣れそうだと騒いでいる。まーたなにかごみでも拾ったんだろーと思ってまた前を向きなおした2A今度はもっと大きな声で騒いでいる。これはただごとじゃねーなと思って後ろへ行ってみると、小さい魚が疑似餌を食っていた。あーつれてる!釣れてる!こんな体験は初めてだったのでおれも興奮していた。ラインを引っ張ってみて・・・しかしこれを吊り上げてからびっくり、なんと80センチ近い魚だった。なんていう名前の魚だろうか?とみんなでワイワイ話していた。シイラじゃねーか?いや、違う。じゃ、なんだ? そんな会話が続いていた。まぁとりあえずは、この動き回っている魚をどうにかしよう、と親父はウィンチを取り出し、頭を布でかぶせて必死でたたいていた。2,3回たたいたところ魚は観念したのか動かなくなり、ふぅ。と一安心。それもつかの間、また暴れ出した。今度は石川さんがウィンチを親父から取り上げ、自らウィンチを掲げてたたき始めた。その光景が面白くて素直にクスクス笑ってしまった。本当は血抜きといって腐らさないためにも血を抜かなければいかなかったらしいけどその方法がわからなかったので、とりあえず尾の所をシートで縛り船のおしりから流していた。こんな速いスピードでてるから尾ひれがちぎれやせんかいなと思いながらもちゃんと後ろむきでついてくる得体の知れない魚。するとそれを追ってかサメが現れた。1メートルは超えるだろうハンマーヘッドのサメで、たぶんこの魚の血のにおいをかぎつけたんだと思う、とりあえず波をかきわけながら必死でこっちの様子をうかがっていた。こっちもこっちで、せっかく釣れた大物をサメなぞに食われまいと必死で魚を引き上げ、サメと抵抗。サメもようやくあきらめ右へ旋回していった。ふぅと一息ついたのもつかの間、またサメが追ってくる。今度は違うやつだろうか?かなりのスピードでかなり進んで、もうすぐ五箇所につこうとしている。それにこの暑さで専門的な処置もしていなかったので、魚腐ってるだろうからサメにやってもいいんじゃねーかなーとおれは思っていた。なんか、ヘミングウェイの老人と海みてーだなぁ。なんか五箇所についたときには引っ張りあげてみたら骨だけになってそうだわいなどおもいながら必死でサメを写真に収めようとデジカメのシャッターを切っていた。しかしさすがのサメもついにあきらめ、またどこかへいってしまった。今思えば、あのとき欲を捨ててサメに食わせてあげて、「サメ・ショー」とかやったほうが面白かったなぁーと後悔している。まぁ人間欲には勝てん(笑)

五箇所について、ダイバーの方と海へ潜って掃除。かなり暑かったのと汗だく状態、それに湾内なのに海の綺麗さに感動してすかさず海にとびこんでしまった。きもちいいいいいいいいいいい♪♪やっぱ海さいこーだわ。おしりにライジャケを敷きながらスポンジで船の汚れを落としていた。ダイバーの方はキールの下までいって掃除をしていた。それを真似て俺もやってみようかねーと思い必死で下へもぐっていくが、なかなか下にたどりつけない。水が綺麗なのでキールは全部見えるのにたどりつけない。んーやっぱ2メートルっつーのは深い!改めて実感。

荷物を運んだら敬太と母さんと合流して、去年と同じ割烹料理屋のなんとかという店に行った。そこで待っていたのはでかい!でかいおいしそうな鯛の煮物と蟹!蟹!蟹!そしてかつおの刺身やえびふりゃー、いろんな海の幸が回航の無事を祝ってくれていた。まぁそんな大げさに言うことないけど(笑)長尾さんが着くということなのでそれまで3時間、みなさんゆっくりたべましょうーとおじちゃんが言ったのが聞こえ、乾杯したと同時にバクバクくいまくってしまった。なにしろあのうねりだったのでなにか食べれる状況じゃなかったので腹は文字通り背中にくっつきそうなくらい減っていた。鯛の煮物を食いながらごはんの上にかけて、鯛タレ丼〜とか言いながら談笑しながら食っていた。料理が少なくなったころに長尾さんも到着し、宴会もクライマックスへ。あとから敬太に聞いたところ、例の魚はさわらというらしく、80センチはまだでかい方らしい。しかし割烹料理屋は食中毒などの衛生面での責任は問えないとのことで即「無理です」と持ち込み調理の方は断られてしまったらしい。あぅーやっぱりサメショーにしときゃよかったわ(笑)今ごろサワラもごみばこん中で泣いてるだろうに^^; 

夜は浜島にある施設に泊まった。10時間のセーリングにすっかり疲れて、爆睡してしまった。

 

7月21日

 7時ぐらいに起きて、食事は7時半から。買出しがあるので急いで食べたところ、スーパーは10時からとのことなので敬太とプールで泳いでいた。スーパーに移動しいろいろ買い込み、いざハーバーへ。この日は去年同様余裕があって、午前中は荷物の詰め込み、午後はセミナーなどという予定だった。去年も敬太とずっとプールで遊んでたなぁーと思いながらまた今年も敬太とプールで遊んでいた。1時ぐらいになり、飯を食っていなかったのでクルーの方たちが泊まっている場所に移動して母さんと3人で飯を食った。昼寝をして艇長かいぎやらなんたらあかんたらであっという間に時は過ぎ、気づいたら2日目は夜の前夜祭に差し掛かっていた。いわせさんの息子さんのそらくんと敬太とラグ-ナからきているDANRYU2の子と4人で花火をしていた。バンドをバックで空を彩りサポート。照明班として紹介されてちょっとチェスナットの知名度UPに貢献♪

 

 7月22日

 朝日の日差しで目を覚まし、親父と敬太は朝風呂へ。おれはゆっくり30分かけてベットから体を起こし、真っ黒に日焼けした顔を洗いはみがき。7時になったら朝食を一気に口に放り込んでハーバーへ。レーススタートは10時から。それに合わせて8時には出航。記念撮影と荷物の詰め込みを終わったら母さんに見送られてハーバーをあとにする。長い長いレースの始まりまであと2時間・・・か。今年はどんなドラマが生まれるんだろうか?胸の鼓動が鳴り止まない。約30時間にも及ぶロングレースで、どれだけこのチェスナットに貢献できるか。去年みたいにワッチオフばっかなんてのはもうだめ。ミドルのメンバーは4人から3人になり、責任感もぐっと増える。ジブトリムやスピントリム。親父に貸してもらった虎の巻で学んだいろんな技術やヨットのビデオを見ていた成果がどれだけ現れるか・・・まぁ、気楽にいくか。ハーバーを出てスタート地点を目指すヨット郡、周りの漁船から見たらさぞかし驚くだろう。しかしヨットのうえにいるおれから見ればその光景はまさに絶景!圧巻!ハーバーから列をなして綺麗に一列にならんででてくるヨットをみていると思わずカメラのシャッターを切ってしまった。んー口では言い表せないけど、どこかいい。「舵」の人やいわせさんなどが桟橋で写真をとってくれていた。今年は弟も乗っていて、最年少記録・・ってとこか。中学1年生でもうパールデビューか。低年齢化社会が進んでるっていうけど・・・まぁ関係ないか(笑)周りには観覧船やらレース艇、去年のようにヘリコプターまで出てきた。

そうこうしてるうちにスタートまであと20分・・・もうすぐだ。ジブもあげてスタートに備える。なにしろ周りが船だらけなので10時船あり11時船あり12時船あり1時船あり・・・こりゃワッチも大変だ^^;昨日桟橋で回って見てきた関東勢や東海勢の有名艇も今こうしてスタートを待っている。5分前ー!!自衛艦からスタート5分前の合図がなる。緊張が高まる。4分前ー!!あと4分でスタートか。チェスナットは毎回スタートはいい場所にいる。今年も・・・1分前〜!!ん?ちょっと遅くはないか?そんなことないか。自衛艦まであと10挺身ほどはある。あと1分であそこまでいけるんかいな・・・バウでは中村さんのスタートカウントダウンが始まる。45!44!もうすぐ始まる。20!19!おぉ、いい場所にいる。5!4!3!2!・・・ん?変な汽笛がなった。自衛艦を見2驍ニ旗が揚がってる。ゼネリコだ!!!かなりの船がフライングしていたらしい。最高のスタートをきったと思ったのに!!!!周りの船はどんどん風下へ移動している。自衛艦を回って、チェスナットも風下へ。ジャイブをしながら時間をつぶす。リスタートまであと20分。15分になりまたカウントダウン。今度のスタートは全体的にうまくいかなかった。スタート!!!合図が鳴り、前を見ると自衛艦に巻き込まれている船もいる。ポイントが流されて、自衛艦の陰になってしまってるようでスタートラインは自衛艦--シャングリラ といった様子で、もちろん風上を選んで自衛艦側を狙ってどの船もぎりぎりを狙っていっている。当然、そうなると混戦。自衛艦に当たるか当たらないか、押し込むか放り出されるか、そんな状態でチェスナットも自衛艦ぎりぎりを狙っていく。スターボサイドにDANRYUが見える。本来ならもっと自衛艦の方にのぼって、DANRYUをはじきだしてもいいぐらいだと思った。けどまぁ昨日のこともあったし、知り合いになったということもあってここは譲ってあげていた。前を見ると結構な数の船、後ろをみるとcocorinやらさっきのスタートではいい位置にいた船たち。あーーーゼネリコをうらむよ(笑)

まぁ、レースはスタートで決まるわけじゃない。こんなロングレースは勝負は夜、夜にあるらしい。そう前々から聞いていたので、そこまで気にはならなかった。・・・でもゼネリコがにくい〜(笑)最初のうちはジブで走っていた。思ったよりうねりは少なく、穏やかな海が続いていた。昼になり、ごはんを食べて2時ごろスピンアップ。練習した甲斐があった。勘と水野さんや木村さんのトリムを見よう見真似でまねて、スピンをトリムしていた。さすがにこのカンカン照りの下でのスピントリムは暑い!スピンがはらりとなるかならないか、それを見張るのにずっと上を向いていなければならない。直射日光が顔にあたる。まぶしい。暑い。首もこるし肩が痛い。ライフラインにもたれているので、背中に食い込む。あーぅーやっぱりトリムは技術以外にもいろいろ障害があるなぁ。。。さすがに1時間交代はきついので、3人で話し合って30分交代、ということになった。前には黄色のスピンをあげている船やいろんな船がだんだんと近づいてきた。水野さんからトリムを受け継いで、必死でトリムしていた。はらむかはらまないか・・・勘と微妙な経験を頼りにトリム。スピンの上方を見て、風向計をみて、またスピンの上方を見て・・・絶えずうえを向いているので周りの様子がわからない。周りの様子が伺えるのは声だけ。おい!もうすぐ追いつくぞ!!ふっと前を見ると、さっきまで遠くの方にあった黄色のスピンはもうすぐそこまできていた。おぉ〜〜いいじゃんいいじゃん!ますますトリムに力が入る。気づくと横に並んでいた。ん〜スピントリム得意になりそうだ(笑)ちょっと天狗になりながら、黄色スピンを横目にすーっと抜かしていった。次はトリッキー!右前にいる。いい風きてるからすぐ追い抜けそうだな〜なんて思ってたのもつかの間、トリッキーはこっちの様子に気づいたのかどんどんスピードをあげている。夜もこんな調子で続くんかなーと思ってトリムは木村さんに交代。ふぅ。暑い!疲れた。なぜか肩が吊りそうだ^^;頭に巻いたタオルで汗をぬぐい、かばんからサングラスを取り出してウェットティッシュで体中を拭いた。ふぅ!気持ちいい!!!やっぱりこのウェットティッシュは重要かもしれない♪すーーっと心地よい風が体中を吹き抜ける。せっかくのオフだし、寝るか〜 と思っても今は真昼の1時。まぁ寝れるわけもなく目をつむっていた。さすがにくらっとくるほどの暑さだったので、スピントリムは20分交代に。20分でもなげーーー(笑)20分オフ、20分ワッチをしてからトリムへ。

そんなんを2,3回繰り返すと急に風がなくなってプカプカ状態になってしまった。トリムをしていた木村さんもあぢーあぢーと悲鳴をあげている。ブームを支えているおれも暑かった。かんかんと照り元気いっぱいの太陽とは裏腹に海上では無風状態でのぷかぷか、周りを見てもぷかぷか。こんな状態が夜まで続くんだろうか・・・リタイアなども頭をよぎる。1ノット、1ノット切った。んーやばい(笑)潮でかろうじて流されて2ノット出ているって感じ・・・スピントリムもほぼ意味がなく、あまりの風のなさにスピンシートを薄く軽いシートを代用させるなどいろんな手をうつ。しかし一向に船のスピードも、風もあがらず相変わらずぷかぷか状態が続いた。5時ごろになり、日も沈もうとしているので親父が気分転換もかねてジブNo,1にセールチェンジしようと言った。おぉ!一気に楽になる。それと同時に風もだんだんと吹いてきた。まさに神風!いいねぇ〜いい感じで風が吹いてきて船の速さは5ノットを超え、6,7ノット前後。

いい!このままいけば去年みたくいい感じでいける♪・・・と思ったのもつかの間願いすぎたのか風はだんだんと上がっていく。又、台風のうねりは前からで風向きも前からで真上り状態で波もまん前からくる。最初のうちは波を切って走っていったチェスナットも、うねりはだんだんと大きくなり山と谷の落差はかなりのものとなった。しだいに周りは暗くなっていくのにつれてうねりと風は強くなっていく。嗚呼やっぱり勝負は夜なのか・・・。なぜか脳裏に去年の回航での嵐がよみがえる。あんなのにはまたとなりたくない!んーむこのままで変わらずいてくれれば・・・その願いもかなうことなく、ついに波は水平線が見えなくなるほどの高さまで上がり、風はだんだんと10ノット、13ノット、15ノット、と一気にあがっていく。セールもNo,1→No,2→No、3へ。メインはリーフをして、No,3とリーフで走っているのにもかかわらず艇速は7ノットを超える。風は思ったよりも少なく、15〜18ノットを前後していた。

20を超えたらNo,3を降ろそう、親父が言った。頼むから20は吹かないでくれ・・・ジブシートを握り締め、ひっしに波で見え隠れする本船をワッチ、大きいうねりに体を揺らされながら時々計器を見に行く。18ノット、19ノット・・・徐々にではあるけど風は強くなっている。こりゃまずいなーと思い出したころ、風は20ノットを越えていた。今だから告白するけど、親父に20ノットを越えたらすぐ報告しろと言われたけどやはりパールに出た以上、ゴールしたい、リタイアはしたくないという思いもあって、20を越えても21を超えるまで親父に言わないようにしていた。

そうこうしてるうちにワッチ交代の時間に入り、ワッチオフへ。時間は9時になりつつあり、そろそろ眠気と戦わなければなならない時間も近づいている。眠くなはかったが、あとのことを考えると寝ておかなければならなかったので寝ようと前へ移動して丸くなっていた。すると突然、ウェーブ!の声とともにすごい波がきた。それを見た瞬間、ザバーっと水がかかる。暖かい・・・水は綺麗で昼見たところキールの下まで見えた。そんな海も今となっては脅威、夜の潮かぶりは半端なものではない。かかった瞬間は暖かかった。が、水は頭を完全にビショビショにしかっぱの中まで到達しようとしていた。それと同時に風がびゅうびゅうと吹き抜ける。体の芯から寒気がくる。がくがくがくがく・・・あごのがくがくが止まらない。寒い!温かい!けど、寒い!!潮を頭からばんばんかぶる。サンダルにしといて正解だった。と思ったのは昼だけ。夜はかなり足は冷えて、必死にハイクアウトしているフリしながら時々くる温かい波に足をつけて暖めていた。なにしろハイクアウトしている側で足に波がつくぐらいだったから、風下側はもう水についていただろう。

風は20ノットを超えたというので、No,3を降ろそうとし、ストームジブを上げようとしていた。が、この大風の中でのジブアップは並なものではない。むしろNo,3を下ろすのさえもままならない状態。水野さんはこのうねりで完全にダウンして、バウにいるおれと村上さんでNo,3を下げる。このヒールと潮吹きの中でのセールダウンは並ではない。足元はすべる、凍えて体の芯から冷えている。それに暗さで波が見えないので波の回避もできないのでゆれる。手がかじかむ。ハリヤードを降ろすのが速いのでもうちょっとで海にNo,3がとんできそうだった。必死でNo,3をつかみ、一時シートでライフラインに縛っておく。ふぅ。一安心したら急に吐き気をもよおしてきた。あかん、去年もこうだった・・・。なんか安心して気が抜けるとどうしても吐き気がでてきてしまう。ハイクアウトしたと同時に、吐いた。下を見たら海がなぜかきれいだった。夜光虫のせいで船の周りが綺麗に照っていた。ふぅー吐いたらだいぶ楽になった。隣を見るとみんな起きて、ワッチ。タックをした。寒い、しかもこの暗さで怖かった。ハーネスをはずした瞬間にぶっとびそうで怖かった。ブームを必死につかんで、反対側へ。うぅ・・・寒い。あごの振るえが止まらず、がちがちがちがちさっきから鳴っている。

後ろから「いけるかー!がんばれるかー?!」という声が聞こえる。かすかにだが。いけまーす!と言った。正直いけるとは思わなかった。が弱音を吐いてはほかのやる気のあるクルーに失礼だと思っていける!と言っておいた。村上さんはつらいでーす!と大きな声で言っていた。さすがに一番前で潮をかぶり、懐中電灯でジブを照らし、また波もワッチというのは並の仕事ではない。ここはさっき吐いてお世話になったし、今度はおれが・・と思い、懐中電灯を代わって今度はおれがワッチと照らしをしていた。そうそうしているうちに風はどんどん吹き荒れ、体の芯から冷え、震えがとまらない。去年の嵐を思い出す。あのときもこんな感じだったなぁ・・・。そうだ、前みたいに暑いことを考えよう!!必死で部活の風景を思い浮かべた。あんなに暑いのになんで今こんなに寒いんだ?水が飲めない練習より潮かぶって湿ってるほうがいいじゃねーか!よくわからない会話が頭の中で続いていた。自分に納得させようとしていた。頭もがんがんしてくる。でも、酔いではない。あぅーこれは夜があけてもたぶん風邪ひいてるだろうな・・・ほぼ確信していた。寒い。おしりに水がたまっていた。

親父からまた声が飛ぶ。「いけるか?!リタイアしようと思うのだがどうする?!」限界だった。これ以上は望めないと思った。レースは・・・完走したい。ゴールしたかった。が、これが本当のパールレースというもの。苦しくて当然、そう思って自分を納得させ、リタイアに賛成した。夜中の12時近いころ、チェスナットリタイアを決意。が、かといって状況が変わったなんてことはない。さっきとおり海はおおシケ、風はごうごうと吹き荒れ体の寒気も止まらず、波は船よりも高い。リタイアして精神的には楽になった。が、嵐は収まってはくれない。あと5時間ぐらいで夜明け・・か。10時ごろから始まった嵐で2時間ほどで体力の限界がきていた。この状況下でも眠気は襲ってくる。必死で買い溜めしたブラックブラックを口に放り込む。つかの間の爽快感、がすぐに眠気が襲ってくる。リタイアを決意したチェスナット一行は、岸を目指して方向を北へ向けていた。今度は右後ろからの波。前にいて潮をかぶらなくてよかったーと思っていた。が、本当に怖いのは横や後ろからの波だった。後ろをみると、とてつもなくでかい波がヨットを追ってきている。斜め後ろからの波。ウェーブ!ウェーブ!声がとぶ。波がヨットを襲ってくる。

リタイア前よりも状況が悪化しているような・・・風はゆうに25ノットをこえ、30ノットにさしかかろうとしている。横波にヨットはがくんがくんと横揺れ、上下落差は2メートルを揺られている。不思議にこの状況では気持ち悪くなかった。そして後ろを見ると、波が。でかい!!ありえなくでかい!波でヨットが揺らされる。と同時に2個目の波が右に傾いているヨットを襲う。ヨット全体に潮がかぶる。後ろからの波なので、コクピットはひどい状態になってるだろうと思っていた。後ろを見てもこのヒールの中で絶えて必死に前をみて舵をとっている親父を見てたくましく見えた。波をずっと見ていた。もう周りの暗さになれ、波の大きさや形がわかるようになっていた。どれぐらいあるんだろう?

かなりの大きさの波がきた。その瞬間、ヨットが80度近くまで傾いた。ありえなかった。絶対、飛ぶと思った。必死にライフラインにしがみつき、横を見た。横に水面がある!!!!うへ;こりゃやばい。必死に船を傾きかた戻そうとハイクアウトしていた。ハイクアウトというより、ライフラインにしがみついているというかなんというか・・・結局は横の力になって変わらないけど、とりあえずぶっとばされないようにしがみついた。最悪の事態も考えた。このまま一回転しちゃうんじゃねーだろうか?もしものことも考え、自分側のハーネスがすぐ外れるか確認し、ライジャケの引くレバーも確認した。ヨットは・・・元に戻った。後から聞けば、もうブームは海の中に入っていたらしい。前の状況はまだよかった方らしく、後ろは波が直で体にあたり、コクピットが一時水浸しになっていたらしい。ハッチはどうしてたんだろう?波の中で考えていた。風で声は聞こえない。たぶん、ハッチを全部閉めてるんじゃねーか・・?時々後ろから声がきこえる。「しただけにしとけ!」ん?よくわからんが、ハッチのことじゃないか?勝手に納得していた。波乗りはまだ続いていた。ヨットの周りに白いしぶきがあがり、ザーザーと波乗りの音。海面を見ると水しぶきがゴオゴオとたっている。

去年の江ノ島までの波乗りを思い出した。あのときとは状況が違う。けど、波乗りならかなりのスピードがでるからはやく岸までたどりつけるだろう・・・そう願っていた。案の定、艇速はチェスナット最高スピードの18ノットを記録し、風は30ノットをゆうに超えていたらしい。前は計器が見えない上声も聞こえなかったので、その瞬間がよくわからなかったけれど18ノット出たと聞かされて少し納得してしまった。

夜明けまでもう少し・・・。風がだんだんと弱まっていった。眠気で意識が遠のく。うねりは相変わらず高い。午前4時ぐらいになったとき、周りがだんだんと明るくなってきた。嗚呼やっと朝か。。。長尾さんによると夜明けは4時56分らしい。うーむ。まぁ少しは明るくなってきたからいいか・。。一安心したら急に眠たくなった。ふぅ・・・ふぅ。寝てしまった。 しばらくして、起きたら風はほぼやみ、周りは完全に明るくなって日も雲に隠れながらもあがっていた。ああやっと夜が明けたんだな・・・あの嵐ももう終わりかと思うととたんにうれしくなる。7時間、本当に長かった。起きていたのか寝ているのかよくわからないところもあったが、たぶん嵐の間は起きていた・・・と思う。ワッチも一応はやっていたけど果たして声は届いていたのだろうか・・?笑。風が無くなったのでエンジンで走っていた。かるーくではあるけど陸が見えだしていた。おぉ!陸だ!!たぶんコロンブスもこんな気分だったんだろうか(笑)とてつもなくうれしかった。やっと、帰れる。早く陸にあがって温かいものが食べたい。体はまだ芯から冷え切っていたので、中に入って着替えた。前の嵐のときも、濡れた→着替えた→気持ち悪くなって吐いた。だったので、今回も案の定吐くだろうなーとは思いながら着替えていた。敬太にビニール袋を持たせておいた。着替え終わったら、吐いた。うぉぉぉぉ敬太サンキュー!ナイスタイミングで敬太がビニール袋を渡してくれた。ふぅ。楽になった。外にでて涼しい風をあびた。まだ肌寒かったけれど、さっきの水浸し状態よりはかなりよかった。また、寝てしまった。 

起きると長尾さんがけんけんを引こうと言っているときだった。太平洋だから大物でも吊れるかなぁ〜と思いずっとけんけんの方を見ていた。が、一向につれる気配はなかった。まぁ、釣りっちゅーもんはほっといて釣れるもんだからなぁ・・・と思い、またねた。夜の疲労はピークに達していたので、横になったらすぐに眠りにつけた。しばらく寝ていて、声が聞こえた。「釣れた!つれた!」夢かよくわからなかったので、また寝た。次に起きたときは魚がつれてるだろうな。。。眠りは浅かった。起きると、魚が釣れそう釣れそうとみんなが大騒ぎしていた。見逃すまいと後ろをみると、ヒコーキが沈んでいた。おぉ!大物!!まぁまぁでかい(50センチぐらい?)の魚がつれた。おそらくさばらしい。よくわからないけど、すげぇ。さすが太平洋!笑。クーラーボックスに入れるともう一匹魚が入っていた。あーやっぱりさっきのは夢じゃなくてほんまだったんかいな(笑)長尾さんが包丁をとりだし、さばいていた。ハーバーに着いたらごちそうにしてくれるらしい。ハーバーが楽しみだ。。。 ここでもまだうねりは続いていた。またけんけんを流したら、けんけんまでに波が2,3こあった。けんけんは見え隠れするほどの波だったので、まぁこりゃー魚なんてこねーだろうなーと思いながら見ていた。

岬に近づいたころ、右後ろに一艇のヨットが見えた。遠くてよくわからないが・・・おじちゃんが双眼鏡を取り出して見ていた。貸してもらってみたけど、やっぱりよく見えない。この時間にここを通るっちゅーことはやっぱりリタイア艇かな? 少し気が楽になった。なんの船かはよくわからないけど、おつかれ。それが前へ抜けていくと、今度はもっと近くに一艇あらわれた。今度は肉眼でだいたいの塗装が見えた。塗装からして、ダンシングビーンズかな?とは思った。あとからわかったけど、ダンシングビーンズだった。やっぱり東海勢は回航のことも考えて、リタイア多しだったのかな?また、寝ていたら起きたらもう西浦のホテルが見えていた。はやっ!!てか、2時間ぐらい寝てたのかな?よくわからんけど、結構寝てたっぽい。メインとジブを降ろして、入港準備にかかった。

もうすぐ念願の陸。長かったセーリングも終わりをつげようとしている。時刻は1時に近い。27時間近く船の上にいたので、体に波の揺れがしみついていた。伊藤さんが待っていた。ハーバーの方も迎えてくれていた。ふぅ。。やっと終わった。。レースは完走したかった。けど、あの嵐のなか誰も怪我もせず、船も壊れ2ク帰ってこれたのはあの勇気ある撤退のおかげだったなぁと思う。ハーバーに着き、荷物を降ろしバーベキューヤードで乾杯をした。んーーやっぱうめー!みかん。ビールは25歳ぐらいまでは飲まないだろうけど・・・サザエ、うめー。陸地にいてもやっぱり揺れていた。でもどこかこのゆれが心地よい。ふぅ。。。見ると村上さんは座りながら熟睡していた。やっぱり疲れているんだな・・おつかれさまです。左を見ると中村さんやおじちゃんたちが談笑していた。反省会もかねての宴会はかなり楽しかった。ほかの人はあの嵐の中でどうしてたんだろうという問いもすぐ解決。親父いわく、あんな波は普通らしい。確かにオーストラリアのやつとか考えると普通なのかな・・・。そう思える親父に再び尊敬。おじちゃんは、生まれて2回目の船酔いだったとか。30分の無線や中での作業が多かったのにぜんぜん酔わないおじちゃんは強い!と思った。

 長かった27時間レース。無風状態のぷかぷかもあれば、30ノットを超える強風と大波と格闘するときもある。そんな大洋の醍醐味を少しでも味あわせてくれたパールに感謝、感謝。神様にも、感謝。クルーのみなさんにも、感謝。楽しかった!とまではいかなかったけれど、自分の中ではかなり満足いけるものだったと思う。来年も出たい!と思うけど、さすがに高3ともなれば勉強しなければならなくなってくる。今度パールにでるのは2年後か3年後か・・・まだ先のことはわからないけど、大学や社会人になってからもヨットに乗っていきたいと思う。生涯の趣味がヨット・・となるのを確信した。いつかは親父みたく、ヨットでいろんなレースに出まくっていきたい。まぁそのためにはいろんなやるべきことがあるけど・・・(笑)

とにかく、チェスナットおつかれまさま。クルーのみなさん、お世話になりましたおつかれさまでした。

2005年7月24日 佐藤洋一