月刊ぷち健康講座

2002年12月号 「壮年を襲う突然死」

 今月から健康に関するトピックスをとりあげて、やさしく解説する「月刊ぷち健康講座」の連載を開始しました。



 初回の講座のネタはないかと探す必要もなく飛び込んできたのは、皇族の高円宮様がスカッシュの練習中に「心室細動(しんしつさいどう)」をおこしてご逝去されたという悲しいニュースです。

 心室細動というのは不整脈の一種であり、この不整脈が発生すると、心臓はメチャクチャなリズムで打つためにポンプとしての働きが失われ死に至る恐ろしいものです。

 心臓が正常なリズムで動いている時の心電図波形と、心室細動をおこした時の心電図波形をならべてみました。下段の心室細動の波形をみると、専門家はでないみなさんがみても、ぐちゃぐちゃとした不規則な波に変化しており、正常なリズムが失われていることがわかると思います。心室細動の治療としては、電気ショック(専門用語では「除細動」と言いますが)により、正常な心拍に戻すように試みるのですが、戻らない場合はすぐに心臓は止まってしまいます。

 

<正常の心電図波形>



<心室細動の心電図波形>

  心室細動は心臓の筋肉の血流が悪くなる(この現象を「心筋の虚血」と呼ぶ)と発生する不整脈であり、高円宮様の場合もおそらく運動中に心筋の虚血が突然におこり、引き続いて心室細動が発生したものと考えられます。壮年以降の突然死の原因の大部分は、このような心筋虚血による致死的な不整脈によるものです。

 動脈硬化により心臓の筋肉を栄養する動脈が細くなると、心筋の虚血はおこりやすくなり、そのことが原因で生じる代表的な病気が狭心症と心筋梗塞です。狭心症や心筋梗塞をおこせば、胸の痛みという自覚症状や心電図の変化があるので、動脈硬化により心筋を栄養する血管が細くなっているということがわかるわけですが、症状がない場合は普通の住民検診や人間ドックを受けても異常は発見できないのが恐ろしいところです。

 問題は高円宮様のケ−スのように運動により心筋の虚血が誘発されることがあるということで、先頃行われた名古屋シティマラソンでも、参加したランナ−が心筋梗塞をおこして死亡されたというニュースがありました。


 運動により心筋の虚血が発生するかどうかを調べるには、心電計の電極をつけてベルトコンベア−のような機械の上を走る検査(トレッドミルなどの「運動負荷心電図検査」)を受ける必要がありますが、専門施設でしかできない特殊な検査なので、すべてのスポ−ツマンを調べることは困難でしょう。

 しかし、40歳以上のかたで、マラソンやトライアスロンなどの激しい運動競技に参加を希望されるかたは、一度、トレッドミルなどの運動負荷心電図の検査を受けられて、運動により心筋の虚血が誘発されないことを、事前に確認されたほうが安全だと思います。

 結局は中年をすぎたら、食べ過ぎや過度の飲酒は避けて、喫煙、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病などの動脈硬化を進行させる状況をつくらないこと以外には、突然死を予防する方法はないということですね。



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