月刊ぷち健康講座

2003年1月号 「かぜとお風呂のふしぎな関係」

 健康に関するトピックスをとりあげて、やさしく解説する「月刊ぷち健康講座」。今月はかぜをひいたときの入浴についての話題です。


 みなさんはかぜをひいたときに、お風呂に入りますか?それとも、やめておきますか?「かぜをひいたらお風呂は禁止」というのが、長年にわたる日本の常識でした。しかし、最近では「かぜをひいても入浴はOK」が医学界の常識になってきました。また、日本と欧米ではかぜの時の入浴に対する考えかたは、まったく違っています。

 医家向けの情報誌であるNikkei Medical 2002年12月号に「風邪の子どもは入浴させていいか」と題する興味深い記事が掲載されていましたので、その一部をここでご紹介します。

 「風邪罹患児の入浴に関する調査結果」(自治医科大学岡山らによる)

 <親の態度は?>
 保護者254名に「かぜの子どもに入浴を許可しているか?」という質問をすると・・・
 ・普段と変わらない方法で風呂に入れる 14%
 ・入れ方を変えて風呂に入れる 40%
 ・風呂に入れない 46%

<医師の態度は?>
 小児科医269名に「かぜの子どもに入浴を許可しているか?」という質問をすると・・・
 ・入浴を許可する 4%
 ・条件付きで入浴を許可する。 84%
 ・入浴を禁止する 12%

 この調査結果をみると、親の常識と小児科医の常識が全く食いちがっていることがわかります。そこで同じ調査グループが、入浴がかぜの症状に及ぼす影響を調べるために、かぜで小児科を受診した子どもたちを、「入浴を許可したグループ」と、「入浴を禁止したグループ」にふりわけて、発熱、鼻水、のどの痛み、全身の活動性などの変化を観察しました。その結果は、「入浴を許可したグループ」と、「入浴を禁止したグループ」で、かぜ症状の消失率に差はみられませんでした。つまり、入浴によりかぜ症状が悪化したり、治るのが長びくということはないことが証明されたわけです。

 かぜをひいたときにお風呂を禁止するのは日本だけであり、欧米にはその風習(?)はありません。アメリカの小児科の教科書には、かぜによる発熱の治療方法として、「スポンジバス (sponge bath) 」をしなさいと書いてあります。「スポンジバス」とは、熱のあるかぜの子どもを裸にして(!)、ぬるま湯で全身をくり返し拭くというもので、体温を下げるために、できるだけ広い皮膚面積から熱を奪うのが効果的であると信じる欧米人の間で広く行われている施療です。普段はシャワーが中心の欧米ですが、かぜのときには、むしろあたたかいバスに入るのが良いとう考えが主流であり、入浴を禁止してきた日本とは正反対と言えます。

 なぜわが国では、かぜをひいた時の入浴が避けられてきたのでしょうか?おそらく、昔の日本は内湯がなく銭湯に通ったり、家のなかが寒かったりして、入浴すると湯冷めしやすく、かぜ症状を悪化させるという理由から禁止されていたのでしょう。住宅環境の変化により、内湯が常識となり、暖房装置が完備された部屋で暮らす、現代の日本人においては、かぜをひいたからといって入浴を禁止する必要はないということなのです。

 当院では、かぜの患者さんから「お風呂に入ってもよろしいでしょうか?」という質問をうけたら、「高い熱がなければ入浴はよろしい。ただし、長湯は禁物で、湯冷めをしないように注意してください。」とお話しています。また、かぜ気が抜けないからと、何日も入浴されないお年寄りの患者さんには、むしろからだを清潔に保つために、積極的に入浴をおすすめしております。



トップページへもどる