月刊ぷち健康講座

2003年3月号 「前立腺のはなし」

 健康に関するトピックスをとりあげて、やさしく解説する「月刊ぷち健康講座」。今月は男性ならちょっと気になる前立腺についての話題です。


 天皇陛下が初期の前立腺癌のために、東大病院にて手術をされことは、みなさんの記憶に新しいことと思います。このニュースが公表されてから、前立腺に対する関心が高まり、特にご年配の男性から、「自分は前立腺の病気ではないか」といったご質問も多くなっています。

◆ 前立腺とはどんな臓器か?

 女性はもちろんのこと、男性でさえも「前立腺」という臓器がどこにあって、どんな役割をしているかを正確に答えられるかたは非常に少なく、「何となく、おしっこと関係あるもの」程度の知識のかたが、大部分を占めているものと思います。

 上の図に示したように、前立腺は膀胱の出口近くの尿道(おしっこや精子の通り道)を取り囲むようにして存在する臓器です。断面図を見ながら、串にさしたフランフルトソ−セ−ジをイメ−ジしていただくと、ソ−セ−ジが前立腺であり、それをつらぬく串が尿道にあたります。前立腺の背面は直腸(肛門近くの大腸)と接しているので、肛門から指を入れれば、直腸の壁ごしに触ることができます。前立腺はどんな働きをする臓器なのでしょうか?前立腺からは、「前立腺液」という物質が分泌されて、精子に栄養を与え、精子の活動を活発にするのです。だから、女性には必要のない臓器というわけですね。

◆ 前立腺肥大の症状と治療法

 前立腺は正常ではクルミの実ぐらいの大きさで、重量は約20gです。しかし、50歳をこえると男性ホルモンの影響などから、前立腺の肥大がはじまります。70歳以上になると、じつに男性の70%は前立腺肥大となっていると言われています。

 前立腺肥大になると、尿道が前立腺により圧迫されるために、様々な症状があらわれてきます。草花に水をやる時に、散水するホ−スの中が細くなったり、つまったりしたら、うまく水をまくことができないのと同じで、前立腺に押しつぶされて細くなってしまった尿道というホ−スからは、おしっこを上手に放水することはできません。したがって、前立腺肥大になると、尿が出にくい、いきまないと尿が出ない、尿の勢いが弱い、排尿が終わるまでに時間がかかる、排尿後も尿が残っている感じ(残尿感)がする、夜中に何度でもおしっこに行きたくなるなどの症状があらわれることになります。さらに進行すると、まったくおしっこが出ずに、膀胱がパンクしそうになる「尿閉」という事態にまで発展する場合もあります。

 前立腺肥大の治療法としては、お薬による内科的治療と、手術による外科的治療があります。内科的な治療は、膀胱内に尿の残留の少ない、比較的軽症の患者さんが対象であり、排尿をスム−ズにする、α1ブロッカ−という薬(宮崎医院では「ハルナ−ル」)を内服します。さらに症状が進行して、薬の治療が無効となると、「経尿道的前立腺切除術」といって、おなかは切らずに尿道から内視鏡を入れて、前立腺の肥大している部分を電気メスで切る手術が一般的に行われています。また、レーザー光線を使って肥大した前立腺を焼くという最新の手術方法もあります。

◆ 前立腺癌の早期発見をめざして

 前立腺の病気としてもうひとつ忘れてならないものが前立腺癌です。アメリカでは男性のがん罹患率のトップにある病気で、日本でも近年になって増加の一途をたどっています。この病気に特有な自覚症状はなく、前立腺肥大と合併することが多いために、先に説明した排尿障害などの症状を認めることがあります。最近では、全く症状がなく健康診断や人間ドッグで発見される患者さんが増えてきました。

 症状の出ない前立腺癌を早期発見するには、採血による腫瘍マーカーの検査が必要です。前立腺癌にかかった時に上昇する腫瘍マーカーは、PSA(前立腺特異抗原)と呼ばれるものであり、この数値が異常に高いと前立腺癌の可能性があります。ただし、前立腺肥大や前立腺炎の場合も高値になることがあり、異常が認められた場合は、泌尿器科の専門医を受診して、前立腺の触診、超音波検査、針生検(前立腺に細い針をさして組織を採取する検査)などの精密検査を実施しなければなりません。PSAは宮崎医院でも検査できますので、ご希望のかたはお申し付けください。

 前立腺癌と確定した場合は、ホルモン療法、手術療法(前立腺全摘出術など)、放射線療法などの治療法があります。前立腺癌は進行してくると、全身の骨に転移しやすいがんであるために、そちらの治療や痛みの緩和が必要となることもあります。

◆ おわりに

 長寿社会となり、ご高齢の男性が増加するにしたがって、前立腺肥大と前立腺癌の患者さんも増えてきており、社会的にも関心が高まってきました。
 おしっこの悩みは、なかなか恥ずかしくて、日々の診療の場面では打ち明けにくいことかもしれません。しかし、症状を改善する良いお薬もできましたし、放置しておくとつらい尿閉になったり、併存するがんを見逃したりすることになりますので、お気軽にご相談ください。
 宮崎医院では、前立腺の症状のために受診された患者さんすべてに、PSAの検査を実施し、前立腺癌の早期発見につとめています。さらに、異常が発見された場合には、藤田保健衛生大学病院泌尿器科(豊明市)や榊原泌尿器科・内科クリニック(西尾市)などの、提携する泌尿器科専門医にご紹介しております。
 



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