月刊ぷち健康講座

2003年5月号 「五月病にご用心」

 健康に関するトピックスをとりあげて、やさしく解説する「月刊ぷち健康講座」。今月は新入生や新入社員のみなさんにみられる「五月病」の話題です。


 「五月病」という言葉は正式な医学用語ではありません。4月に希望にあふれて入学や就職をしたフレッシュマンが、5月の連休明けごろから急に元気がなくなり、勉強や仕事への意欲を失って、ひどい場合は登校や出社ができなくなる状態を、一般的に「五月病」と呼んでいるわけです。

 入試や就職活動におけるきびしい競争が終わってほっとする間もなく、入学、就職により自分をとりまく環境や人間関係が激変することからくる新しいストレスが重なります。4月はオリエンテーションとか、歓迎行事などが続くために、夢中ですぎてしまいますが、5月になると心もからだもくたびれて、五月病が発生するといわれています。

 五月病の症状としては、気持ちが落ち込んで何もやりたくない、イライラする、不安な気持ちがつのるなどの精神症状と、不眠、めまい、下痢・便秘、風邪がなかなか治らないなどの身体症状があります。この状態が長くつづくと、学業や仕事ができなくなり、長期留年や中途退社にまで発展します。

 五月病を医学的にみると、「軽症うつ病」と診断してよいケースが大部分だと思います。うつ病のなかには、「荷おろしうつ病」、「引っ越しうつ病」と呼ばれるタイプが存在します。大学入試という大きな重荷をおろして、ふっと気が抜けた。入試という目標を達成してしまったら新たな目標を見失って混乱する。受験勉強中は自分のことを常に励ましてくれた両親も入学したとたんに冷淡になったような気がする。このような心理状況が「荷おろしうつ病」をひきおこします。また、新たにひとり暮らしをはじめて近所のひとやクラスメートと人間関係を築いていかなければならない不安からは、「引っ越しうつ病」が生じることになります。

 五月病の対処法としては、ストレスを解消するためにスポーツをしろとか、趣味をみつけろとか書いてあるものが多いですが、軽症うつ病の患者さんの治療経験からすれば、もともとストレスをマネージメントすることが苦手なひとがこのような病気になるわけですから、簡単にストレス解消を目的とした行動をとってはくれませんし、スポーツや趣味のサークルに入れば、人間関係に起因する新たなストレスがそこで発生する場合が多いのが現状ですね。

 最近では軽症うつ病によく効き、副作用が少ないSSRI、SNRIと呼ばれる抗うつ薬が登場しました。五月病のかたにも非常に効果的ですので、落ち込んでいる友達をみかけたら、決して「がんばれ」とはげまさないで(うつ病のひとに安易なはげましは禁句です!)、「よく効くお薬ができたみたいだから、医者に行って相談してみたら」とやさしく声をかけてあげてください。 

★★★★★ 「軽症うつ病」を疑わせる症状 ★★★★★ 

1)  朝いつもより早く目が さめる
2)  朝起きたとき陰気な気分がする
3)  朝いつものように新聞やテレビをみる気になれない
4)  服装や身だしなみにいつものように関心がない
5)  仕事にとりかかる気になかなかならない
6)  仕事にとりかかっても根気がない
7)  決断がなかなかつかない
8)  いつものように人に会う気にならない
9)  なんとなく不安でイライラする
10) これから先やっていく自信がない
11) 「いっそのこと、この世から消えてしまいたい」と思うことがよくある
12) テレビがいつものようにおもしろくない
13) さびしいので誰かにそばにいてほしい、と思うことがよくある
14) 涙ぐむことがよくある
15) 夕方になると気分が楽になる
16) 頭が重かったり痛んだりする
17) 性欲が最近はおちた
18) 食欲も最近おちた

(笠原嘉 著:「軽症うつ病」 講談社現代新書より引用)



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