月刊ぷち健康講座

2003年8&9月合併号 「ほんとにあるの?男の更年期 〜アンドロポーズのはなし〜」

 健康に関するトピックスをとりあげて、やさしく解説する「月刊ぷち健康講座」。男性にも更年期があるのを知ってました?


◆はじめに

 40歳をすぎたころから、何となく元気がない、疲れやすい、集中力が落ちたなどと感じる日を経験するようになりました。もう、20代のころのように、ほととんど不眠不休の状態で働くのはしんどくなってきたわけです。もしかして、これって「男の更年期」ってやつかも・・・ 

 この分野では、自ら「男の更年期」を克服したことをカミングアウトした、漫画家のはらたいら氏が有名ですよね。今回のぷち講座は、最近マスコミなどで取りあげられる機会が多くなってきた、男性更年期の真相にせまってみたいと思います。

◆男の更年期とは?

 女性は閉経により女性ホルモン(エストロジェン)の分泌が急激に低下するので、様々なからだの変調や症状が出現します。これが女性の「更年期」であり、英語ではメノポーズ(menopause)と呼ばれ、女性に特有のものと言われてきました。ところが、男性も男性ホルモン(アンドロジェン)の減少により、「更年期」と呼べる状態がおこると考えている研究者もあり、欧米では女性のメノポーズに対比させて、男性更年期をあらわす「アンドロポーズ(andropause)」という用語まであるほどです。

 男性の加齢に伴う性ホルモンの低下は、閉経後の女性のように劇的に変化するわけではありません。代表的な男性ホルモンであるテストステロンの分泌は、20歳代でピークとなり、40歳代からゆるやかに減少してくることが知られています。また、ホルモンの変動は個人差が大きいために、40歳で更年期症状が出るひともいれば、80歳になっても何ともないというひともあるわけです。70歳をすぎてからでも、子供をつくることのできる男性がいるのも、この「個人差」によるものですね。ここが、閉経とともにいっせいに同じような症状が出る、女性の更年期と大きくちがうところだと言えます。男性更年期に明確な医学上の定義はなく、男性ホルモンの低下による性機能障害と、ストレスに関係する自律神経の失調症状を合わせたものを、「アンドロポーズ」と呼んでいるのが現状です。

◆どんな症状が出るのか?

 男性の更年期障害と考えられる症状は、精神症状、身体症状、性機能関連症状の3つに大別されています。

1) 精神症状: 疲労を感じやすい、集中力の低下、うつ状態など
2) 身体症状: 筋力の低下、発汗、ほてり、不眠など
3) 性機能関連症状: 性欲減退、勃起障害(ED)など

 ただし、これらの症状は更年期障害以外の病気、例えば「うつ病」にかかっている患者さんにもよくみられるものです。したがって、上記の症状にあてはまるからといって、短絡的に「更年期障害」と決めつけてしまうのは危険です。

◆スクリーニングのためのチェックシート

 海外で男性更年期をみつける質問票として使用されているものをご紹介します。

 @ 性欲の低下はありますか?
 A 気力の低下はありますか?
 B 体力や持久力は低下していますか?
 C 身長は低くなっていますか?
 D 日々の暮らしの中で楽しい気分は減っていますか?
 E 日々の暮らしの中で悲しい気分、不機嫌さはありませんか?
 F 勃起障害がありますか?
 G 運動能力、スポーツする機会は減少していますか?
 H 食後にうたた寝をしますか?
 I 仕事の能率や意欲の低下はありますか?


 この質問のうちで性機能に関連した@とFが「はい」であり、なおかつ他の質問で3つ以上「はい」と答えたひとは、男性更年期の可能性があるとして、採血で男性ホルモンを測定するという手順になっているそうです。ただし、この質問票が万全のものであるとする証拠はありません。

◆男性更年期障害の治療

 上記のような更年期を疑わせる症状があり、男性ホルモンである血中遊離テストステロン濃度が低下している場合は、「男性更年期」として治療の対象となる場合もあります。女性の更年期障害が、女性ホルモンの補充により軽快するように、男性の更年期の治療には男性ホルモンの補充が行われるわけです。アンドロポーズの先進国である、アメリカでは様々なかたちの製剤が広く使われているようですが、日本では「男性更年期外来」と称する専門外来で、主に泌尿器科の医師の指導のもとでないと、男性ホルモンの補充療法を受けることはむずかしい状況となっています。勃起不全の治療には、ご存じのバイアグラが処方されることになりますし、うつ病を合併している場合は、抗うつ剤も使われます。場合によっては漢方治療が良い治療効果をあげることも知られています。薬物による治療以外にも、カウンセリングなどの心理療法が行われます。

◆おわりに

 わたし自身は性ホルモンの低下による、純粋な「男性更年期」というものの存在には懐疑的です。むしろ、社会や家庭で様々なストレスにさらされている40歳〜60歳の男性が直面する、「中年の危機(ミッドエイジ・クライシス)」の一部としてとらえたら良いのではないかと考えています。「中年の危機」のなかには、「男性更年期」以外にも、「軽症うつ病」、「生活習慣病(高血圧・糖尿病・高脂血症など)のはじまり」、「肥満」、「アルコールとタバコの過剰摂取」、「熟年離婚の増加」などの問題群が、お互いに影響を及ぼしながら存在しているわけですね。自分も「男性更年期」では?と感じたら、ぜひ一度医療機関に受診されることをおすすめします。
 




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