月刊ぷち健康講座

2003年10&11月合併号 「家庭で正しく血圧をはかる作法」

 健康に関するトピックスをとりあげて、やさしく解説する「月刊ぷち健康講座」(近ごろ隔月刊になりつつあるという声が・・・ このままでは、このコーナーも「ほぼ月刊」にタイトル変更か!)。今回は広く普及してきた家庭用の血圧計を使って、自分の血圧を正しく評価する方法を知ってください。


◆はじめに

 みなさんのお宅には家庭用の血圧計がありますか?「敬老の日に孫からプレゼントされたけど、ほとんど使わないで押入に眠っている」とおっしゃるかたも多いのではないでしょうか。安価でコンパクトな機器の出現と、健康に対する関心の高まりが相まって、今では約3000万台もの血圧計が日本の家庭に配置されています。

 病院や診療所などの医療環境のもとで測定する血圧の値を、「外来随時血圧」と呼びます。従来はこの外来随時血圧を評価して、「高血圧症」という病気であるかどうかを判断していました。しかし、普段は正常血圧なのに、医者や看護婦の白衣を目にすると血圧がグーンと上がってしまう、みなさんもよくご存じの「白衣性高血圧」という現象などの影響もあり、外来随時血圧のみで高血圧症の診断や、血圧を下げるために服用している薬の効きぐあいを評価することは問題があることがわかりました。

 この問題を解決するためには、自宅で自己測定した値である「家庭血圧」のデータを知ることが大変重要です。最近では家庭用血圧計の普及により、家庭血圧のデータが容易に得られるようになって、高血圧の診療は非常にやりやすくなりました。しかし、そこで新たに浮上してきたのが、家庭血圧は「いつはかったらよいか?」、「1日何回はかるのか?」などの疑問です。わたしの診察室でも、患者さんから質問される機会の多い「家庭血圧の測定条件」については、これまで国内外で定められた明確な指針がありませんでした。そこで、ほとんどの内科医は「自分のはかりやすい時間でよいですから、5分ぐらい安静にしてから測定してくださいね」というような曖昧な指導をしてきたわけです。
 こんな状況を是正すべく、日本高血圧学会は科学的な根拠に基づく、正しい家庭血圧の測定条件の設定に取り組んできました。そして、このたび「家庭血圧測定条件設定の指針」が発表されました(2003年9月)。以下に、その指針が推奨する家庭血圧測定の作法をご紹介いたします。(「指針」は医師を対象にして書かれているので、赤字の「指針」より引用した文章は患者さんにわかりやすいように、一部改変と省略がしてあります。)

                                          

                                <「家庭血圧測定条件設定の指針」ブックレット表紙>

◆どんな器械で測定すればよいか?

【指針1】 家庭用血圧計は上腕カフ血圧計を用いる。

 ここで重要なことは「上腕」にカフ(圧をかけるバンド)を巻くタイプのものを使用するということ。「手首」や「指」で測定するタイプの血圧計は推奨されていません。手首血圧計は簡便なために広く使用されていますが、腕の高さによる影響を受けやすく、解剖学的な理由により動脈の完全な血流遮断が難しいことなどから、測定値の誤差は上腕血圧計と比較して大きいと考えられています。

                                       

                              <血圧計は手首や指ではなく上腕で測定するものを選ぶ>

◆正しい測定部位は?

【指針2】 測定部位は上腕が推奨される。(手首、指血圧計の使用は避けるべきである。) 測定においては座位でカフが右心房の高さにあるようする。また、腕を伸ばした状態で上腕筋肉の緊張をとくため、前腕を机、テーブルの上に置き、必要ならば枕などの支持を用いる。 原則的に利き腕の対側(右利きのひとなら左腕)を用いるが、左右差の明らかな場合は常に高く出る側の血圧を測定する。

 カフが「右心房」の高さにある場合に、正確な血圧が測定できます。右心房とは、心臓に4つある部屋のうちのひとつです。カフの中心が乳頭と同じ高さになるように肘をおけば、ほぼ右心房の高さに相当します。


                                       

                                <測定時の腕の位置は心臓(右心房)の高さで!>
                                 注:このイラストはオムロンのHPより引用しました。

◆わたしの器械はこわれていない?(装置の精度確認)

【指針3】 精度確認:聴診との較差が5mmHg以内であることを必要とする。

 家庭で測定した血圧の値が異常であると、「家の血圧計はこわれているのではないか」という不安を持たれるかたがあります。この指針では、医療機関で水銀血圧計を用いて聴診法で測定した値と、自宅で家庭血圧計で測定した値の較差が5mmHg以内であることを推奨しています。もし、自宅の器械の精度に不安を感じたら、来院する時にその血圧計を持参してください。当院で精度をチエックいたします。

◆いつ測定すればよいか?

【指針4】 測定条件:朝は起床後1時間以内、排尿後、座位で1〜2分安静、内服前、朝食前。晩は就寝前、座位で1〜2分安静。

 「早朝高血圧」と呼ばれる現象をつかまえるためには「起床後1時間以内」の測定がよい。排尿前は膀胱の充満により血圧は高くなっており、排尿とともに血圧は下がるために「排尿後」にはかること。血圧を下げる薬の効果を評価するには、朝の内服前の血圧が知りたい。食事中は血圧が上がり、食後は下がるので、この変動を除外する目的で、朝食前に測定するのが望ましい。個人のライフスタイルが異なるために、晩の測定条件を厳密に設定することは朝よりもむずかしい。したがって、単純に「ねる前」という条件のみの設定となったようです。入浴後、飲酒後、晩の内服後という条件は、いずれも血圧を下げる方向にはたらくことを覚えておいてください。朝晩ともに、座った状態で最低1〜2分間安静を保った後に測定します。

◆何回測定するの?いつまで測定するの?

【指針5】 家庭血圧は朝晩それぞれ少なくても1回は測定する。原則的には連日測定が望ましい。血圧を下げる薬を内服しないで観察している時期は少なくても週5日、血圧安定期は週3日、薬を変更した時は週5日の測定が必要である。高血圧では生涯にわたり測定することが望ましい。

 朝と晩では血圧が変動することが多いので、1日2回朝晩に測定するのがよい。朝晩の1機会に何回も血圧を測定する患者さんがあり、「同じ時間帯に連続して測定しても、そのたびに値が変わるので、どの数字を記録すべきか悩む」という相談がよくあります。今回の指針では、「測定は1回でよく、その1回目の測定値を、その時間の血圧として記録すること」、すなわち「第1回目の血圧値を評価対象とする」という姿勢をとっているようです。

◆血圧を記録する

【指針6】 すべての測定値は、時刻、心拍数とともに記録されることが望ましい。記録に対象のバイアスを入れてはならない。

 「対象のバイアス」とは何でしょうか?これは測定するひとにとって、最も都合の良いデータ(通常は最も低い値)だけを記録して、気に入らないデータは切り捨ててしまうような行為をのことです。極端な場合は、主治医にほめてもらうために、架空の値を記録する患者さんもまれではありません。家庭血圧の過大評価や過小評価をさけるためには、数回連続して測定した値がちがっていても、そのすべてをそのまま記録しておくことが大切です。

◆記録した血圧の集計と評価

【指針7】 記録されたすべての血圧値のうち、朝、晩それぞれ最初の1回目の記録の平均値を、ある測定期間で算出する。朝と晩の家庭血圧値はそれぞれ別個に集計評価する。

【指針8】 家庭血圧は135/80mmHg以上をもって高血圧と診断し、135/85mmHg以上なら確実な高血圧として降圧治療の対象とする。一方、家庭血圧は125/80mmHg未満を正常とし、125/75mmHg未満を確実な正常血圧と判定する。


 医療機関で測定した外来随時血圧では、140/90mmHg以上を確実な高血圧としているのに対して、この指針では家庭血圧をそれよりも厳しい基準で評価しており、135/80-85mmHg以上を高血圧、125/75-80mmHgを正常と定めています。

◆おわりに

 この指針はあくまでも家庭血圧をできるだけ正しく測定、記録、評価するために推奨している方法であり、指針にこだわるあまり、血圧測定そのものが面倒くさくなって、中止してしまうのでは元も子もありません。この指針をふまえたうえで、個々の患者さんの事情にあわせた、無理のない方法をみつけてこそ、家庭での血圧測定を長続きさせることができると思います。家庭血圧について、疑問に思われることや、ご心配なことがあれば、いつでも気軽にご相談ください。



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