井の花貉


 昔、北鵜島に三左衛門という裕福な老人が住んでいた。

 ある日山奥へ野菜取りに行くと、大きな洞穴の中からにぎやかな音が聞こえてきた。めったに人の来ない山中なので不思議に思った三左衛門は、こっそり中をのぞいて見た。すると立派な身なりをした大勢の人が楽しそうに酒盛りをしていた。

 そのうち三左衛門を見つけた一人の老人が、つかつかと三左衛門の前に現れ、「いま見たことを誰にも話さないで下さい。約束をしてくれれば福を授けてあげるが、もし約束を破ると悪いことがありますよ」といった。

 夕方家に帰った三左衛門は、最初はじっとこらえていたが、ついに約束を忘れ、見たことをそのまま家人に話してしまった。すると三左衛門の家は急に貧乏になってしまった。

これは「井の花」という貉のいたずらといわれたが、現在この洞穴に井の花貉を祀った小さい祠が残っている。

(小山直嗣著 新潟県伝説集成 佐渡篇 より)



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