1W級 5687 ミニプッシュプル 2022. 02.10
Katou@ 刈谷
EL32 STC.jpg
出力管5687
「出力管 5687」
電流・バランス調整部
バランス・電流調整ボリューム

<経 緯>
   ・「ARITO's Audio Lab」の前川さんが昨年初め頃「Facebook」にて小型OPTシリーズのリリース予定をアナウンスされました
   仕様を問い合わせたところ、氏が公開されている「15DQ8ULPPアンプ」に用いられている「TANGO」の様な角型ケース入りと分かりました。
ケース寸法図  付属銘板天銘板
   ・夜間小音量で聞く高品位でカッコ良い1W程度のミニプッシュプルを作りたいと考えていたので購入希望を伝えたところ、
   「モニター如何ですか、参考に15DQ8UL PPを貸し出します」とのこの上ないご提案を頂戴しました。
   15DQ8UL PPは大いに参考にさせていただきました。
   ・以前より「プッシュプルとシングルは音質的にどちらが優れているのかを同じ球で試したい」との思いからプッシュプル用を購入、
   シングル用をモニター希望と打診したところ、ご快諾頂き、2台製作することにしました。

<出力管の選択>
   ・当初、6JV8を予定していましたが、シングルも作るとなると8本必要で手持ちがありません。 ※シングルはパラ前提
   双三極管なら4本で済むので、手元の4本揃い球を確認してみました。
   5814A(12AU7A)、6DJ8、5687の3種が見つかり、この内で最も内部抵抗が小さい5687を用いることにしました。
<左から6JV8(東芝)、 5814A(Philips)、 6DJ8(EI)、 5687WB(SYLVANIA)
出力管4種

<OPTの選択>
   ・球が決まったので、OPTのインピーダンスを選択します
   先ずはEp180V・A級運用と仮定し、目途付け程度に検討します。
   5687の規格表を見るとプレート抵抗はEp180Vで2KΩです。 2A3等の事例からRL=2〜3Rpが一般的の様です。
   A級プッシュプルなので2KΩ×2球×2〜3倍=8〜12KΩ程度が適当でしょうか。
      5687データシート

   8Kか14Kか迷うところですが、より出力が得られるそうな8KΩを選択することにしました。
小型OPTの種類
  ※ARITO's Audio Lab HPより引用
  sり製品箱  製品番号記載の梱包箱 拘りを感じます!


<デザイン検討>
   ・カッコ良いOPTを生かした見た目が良いアンプを目指します。
   ミニアンプなので薄い小型シャーシを用いたいですが気に入る市販品はありません。 何れも縦横に対し厚みがあり不格好です。
   手元に「奥澤」で販売されていた30×11×1.2t×1000mmのCチャンネルが1本残っていたので、薄型シャーシを自作することにしました。
   ・レイアウト3案を比較し「C案」で進めることにしました。
<A案>
A案
サイズ:100×150×30mm
電磁誘導を考慮しPTとOPTを離して配置
PTとOPT間はブロックケミコン
赤はチップ端子、青は調整VR

既作EL32超三類似の配置で新鮮味がない!
OPTを横並びに配置にしたい!
<B案>
B案
サイズ:170×80×30mm
電磁誘導を考慮しながら横長化

球とOPT中心がズレ、締まりがない。
<C案>
C案
サイズ:170×75×30mm
電磁誘導二の次!(汗)! デザイン優先!!
好みの横長密集配置です。

誘導を確認すると何とかなりそう、
参考にさせていただいたアンプも横並びでしたので
これで進めることにしました。

<シャーシ製作>
<1.枠材切り出し>
枠材切り出し
<2.枠材曲げ>
枠材曲げ
<3.枠材組み立て>
枠材組み立て
<4.枠部完成>
枠部完成
<5.天板切り出し>
天板切り出し
<6.曲げ・戻しを繰り返し切断>
切り出した天板
<7.天板曲げ 傷防止フィルムを挟み曲げる>
天板曲げ
<8.枠・天板合わせ>
枠・天板合わせ
<9.締結ナット接着 各面を粗く削り2液アダルダイトを盛る>
締結ねじ取付
<10.底板取付>
底板取り付け
<11.穴開け前シャーシ>
穴開け前
<12.穴明け・塗装・部品組立>
穴明け・塗装・組立

<回路検討>
  1)電源部
  ・電源トランスの要件は
   @並四サイズ
   A6.3V0.9A ×2又は12.6V ×1巻き線を持つ
   B170V 60mA以上のB巻き線容量を持つ
   になります。 秋葉原トランス御三家の内から、比較的安価な春日無線の「H12-0429」を候補とします。
   B巻き線は160V両波 60mAです。 想定より低いので目標とする1W以上が得られるかを検証します。
「5687 Ep-Ip特性図」
ロードライン検証
B巻き線は160Vなので
Eb≒170V、Ep
155Vと仮定します。

赤線は8KΩ
時、青線は14KΩ時です。
8KΩでは0.04*65/2≒1.3W
14KΩでは0.025*93/2≒1.2W
と算出されます。

電圧を上げれば2W以上得られますが、
これで妥協することにしました。
  ・電源トランスは春日無線の「H12-0429」に決めました。
   B巻き線160Vを両波整流すると190V程度得られるのでリップルフィルター降圧を20V程度とし、B電圧は170Vに設定しました。
   B電源はパワーMOS−FETにより簡易安定化し、小型小容量のケミコンでも十分な低出力インピーダンスを確保します。
  ・初段は接合型FETによる差動とするのでプラス・マイナス両電源を用意します。
   プラスは12.6V巻き線をを4倍圧整流しバイポーラにより安定化、マイナスは12.6Vを半波整流し3端子レギュレータで安定化としました。

  1)出力段
  ・カソードに定電流回路を挿入したA級プッシュプルとします。
  ・DCバランスはカソードに挿入した半固定VRで行います。
    当初、初段差動回路のソースにバランスVRを挿入する計画でしたが、基盤製作時にうっかり組み忘れました。
    基盤を作り直すのは面倒なので、未だ配線途中だった出力管カソードに変更することにした次第です。

  2)初段
    ・先のロードラインより、5687のドライブ電圧は4.5Vrms程度です。
    ・ジャンクションFET差動による位相反転とし、増幅率は10dB程度負帰還を施す前提で13倍以上に設定します。
   手元の2SK30Aでは役不足ですので、通販店から2SK2880を購入することにします。
    ・初段と出力段は直結としたいので、差動回路の定電流は温度補償式とし、ドレイン電圧安定化を図ります。
          温度補償定電流回路    定電流値は半固定VRで設定します。
    ・「ARITO's Audio Lab」のOPTは素晴らしく広帯域かつ高域安定です。
   このOPTを生かすべくひずみ率は目をつぶり広帯域化を優先することとし、負荷抵抗は増幅率が成立する最小限の10KΩとしました。
<DE-8K2W  No1の特性>
OPT No1
<DE-8K2W  No2の特性>
OPT No2

  3)全回路
   改造後回路図 (クリックにて拡大)
全回路図
    ・初段ドレインとアース間に27Vのツェナーを追加しました。
   電源OFF時にマイナス9V電源の3端子レギュレータが素早くシャットダウンし、2SK2880のドレン電圧がプラス54Vまで上昇、
   5687のカソード電圧も上昇しパスコンの耐圧を超えるため、ドレイン電圧過上昇を抑制する目的です。

<完成状況>
   鳥瞰 左側はシングル版です。 追って公開します。
   
   背面状況  PTはOPTに合わせ艶消しで塗装しました。

   内部状況   老眼 見えん!(汗)


<調整>
  ・5687のグリッド電圧、カソード電流・バランスを各半固定ボリュームで調整後方形波を入れ不帰還時の波形を観測しました。
   驚きました!!! 17dBの不帰還を掛けても補正を要す程のリンキングはありません!!
   全く調整レスで比較的深い負帰還のアンプが完成しました。
  ・「ARITO's Audio Lab」OPTの素晴らしさを実感しました。 
    リンキング波形 10KC/S 17dB負帰還時(上:入力 下:出力0.5W/8Ω抵抗負荷)


  
<試聴>
  ・一聴して広帯域で滑らかな音質です。 超三シングルV1との比較では特に歪が少ないと感じます。
   高域は爽やかで草原の風の様、コントラバスは弾みかつ締っており、極めて秀逸なOPTの効果を感じます。
   夜間の小音量でも大型システムをライブ的雰囲気で鳴らしてくれる期待通りのアンプになりました。
   ・力感・押出しは超三に比べ弱めです。 B電圧をもっと上げたほうがガッツが出ると思われ、今後試すことにします。
   ・NFBは無帰還〜17dBまでの可変式ですが、増減しても歪感が増減する以外大きな差はなく、音場遠近感はほとんど変化しません。
   ・長時間運用しても温い程度の昇温です。 夏の夜は特に出番が増えそうです。
   ・昨年11月28日に開催した「中部持寄り試聴会」にて同時製作したシングル版との比較試聴を行い、好みをアンケートしました。
   結果、9:3でシングル優勢でした。
   自分はプッシュプルは解像良く、シングルはコントラストが高い印象ですが、一長一短で決定的な優劣はないと感じています。 
  ・シングル版は現在誘導ハム問題を対策中です。 追って比較試聴結果と共にアップする予定です。

<総合特性>
【入出力】
入出力特性
10dB負帰還時の最大出力はL:1.5W R:1.3W(歪率5%)でした。
概ね想定通りの結果です。
【周波数@0.5W】
周波数特性
10dB負帰還で200K C/S近くまで伸びることを期待しましたが
約140K C/Sに留まりました。 原因を追求し改善したいと思います。
【歪率 L ch】
Lch 歪率特性
0.1W以下はオシレータ(AG-203)の歪みです。
(残留雑音:0.4mV)
【歪率 R ch】
R ch 歪率特性
R chは測定時に値が揺れていました。球の影響でしょうか?
(残留雑音:0.4mV)
   ・オシレータ:TRIO AG−203
   ・ミリバル:TRIO VT−165
   ・歪率計:リーダー LDM−170
   ・オシロスコープ:菊水 DSS5040



                                                              
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