世界遺産級 管弦楽曲
作曲家 イーゴリー・ストラヴェンスキー
曲名 バレエ組曲「火の鳥」
指揮 レナード・バーンスタイン
演奏 ニューヨーク・フィルハーモニック
録音 1957.1.28  セントジョージ・ホテル
プロデューサー ハワード・H・スコット
エンジニア
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト 10
リアリティ 10
クオリティ
ダイナミックス
平均点 9.2
商品番号:SMK 47605 ソニー(CBS) ステレオ
解説
冒頭、低弦の重々しい動機が地鳴りのようように響き渡る。そのとき、演奏していない他のプレイヤーたちの微かな緊張感が聴こえてくる。新しいテーマがトロンボーンに受け継がれると、オーケストラの奥行感が露わになり、この録音のステージレイアウトが見えてくる。その直後、曲は木管・ハープ・トランペットへと動機が受け渡されていくが、この部分での各楽器の実存感は素晴らしく、ホテルでの録音とはいえ、この場所の広々とした空間が見事に捉えられている。火の鳥の羽のさざめきを表すようなヴァイオリンのグリッサンドは、奏者一人一人の微妙なずれまでもが感じ取られる。この録音の評価は、冒頭のたった3分ほどを聴けば十分に納得できるだろう。
曲がffになっても決して濁ったりつぶれたりすることはなく、終始ハイクオリティな質感を保っている。バスドラムの伸びのある低音は、圧縮された形跡はなく、最新録音でもなかなか聴くことのできない迫力が楽しめる。ただ、1957年というステレオ初期の録音とあって、ステレオ感を強調した楽器配置は多少抵抗を感じる。曲中もっとも華やかな「カスチェイ王の踊り」は、金管と打楽器が凄まじい威力を発揮しているのだが、奏者が極端に左右に分かれてポジショニングされているため、右からトランペット、左からホルン、というように完全に分離されてしまっている。
こうした部分的な違和感を除けば、マルチチャンネル、部分録りといった技術に頼らない、現場の生のあるがままを記録した歴史的な録音であると評価できる。
ソニー(コロンビア)は、バーンスタイン・ニューヨーク・フィルのステレオ初期の録音をこのセントジョージ・ホテルで行なっていた。モノーラル時代は、コンサートホールよりもスタジオを使ったレコーディングが主流であったため、そうした経験の上で、ホテルでのレコーディングが模索されていたのだと思われる。この録音は、バーンスタインのステレオ録音2作目に当たる。コロンビアレコードとの契約で自由に選曲できたバーンスタインが、1作目のヘンデルの「メサイア」全曲についで取り組んだ意欲作である。ニューヨーク・フィルの華やかな金管が吠え叫び、ストラヴィンスキーの乾いた原始的なリズムがとてつもない推進力で展開する。歴史に残る名録音に支えられ、バーンスタインとニューヨーク・フィルの黄金時代の始まりを目の当たりにすることができる、まさに世界遺産級の逸品である。
世界遺産級