ランドクルーザー60GX、白色

前車の車検を迎えようとしている頃、高専から帰宅した僕に、親父がこう言った。「今日はどこにも行かないで家に居ろ。面白いもんが来るから。」何の事かわからないまま、気にもせずにいたが、その内、親父から自宅横の工場へ来るように呼ばれた。そこにあったものはランクルだった。通称60(ロクマル)だ。「これ買ったぞ。」と親父。最近親父がこの手の車に興味を示していることには気づいていたが、本当に買ってくるなんて。2年落ちの極上品だった。背面タイヤキャリアと社外のアルミホイールが付いているだけで、ほぼストック状態のノーマル車だ。免許取得後半年の初心者マークの僕にとっては、かなり大きい車だ。イカツク、ワイルドって言葉がぴったりだ。「ゴツゴツのぶっといマッドタイヤを履かせて、ハイリフトにしたらもっとカッコイイだろうな。グリルガードも捨てがたい。」なんて思いながら、嘗め回すように見た。もちろん親父の車だから手は出せないが...。試乗させてもらった。クラッチが重い。ハンドルなんか目茶重い。1速のギアレシオがかなり高く、タイヤが転がり始めたらすぐ2速って感じ。4速までだったから、実質3速だ。車はでかいが、見切りが良く、思ったより運転はし易い。「なんかいい感じだな〜。」ちょっと気に入った。

それからというもの、僕はこのランクルにのめり込んでいった。当時その辺の本屋には売ってない4x4マガジンという雑誌が愛読書になり、自分のカローラは下駄と化し、車検が切れると同時に親父に「ランクル売ってくれ」と拝み倒した。160万円で落札。学生の僕にはかなりの金額だったが、当時バイトしていたステーキハウスで月に10万円近く稼いでいたこともあり、1年半もあれば払えると考えていた。実際には倍の年月がかかったが...。

車が手に入るとドレスアップに手を染めることになる。手始めは、タイヤだ。知り合いのタイヤ屋で安く購入した。背面のスペア分も含めて5本買った。ブランドはダンロップのカントリーマンTG1だ。最初ついていたON用のラジアルタイヤと違ってロードノイズはかなりうるさい。思いも寄らなかった事だが、パターンが荒く設置面積が少ないためか、ハンドルがかなり軽くなった。言い忘れたが、コンポはもちろん移植した。これで4回目の移植だ。

次に手を出したのはグリルガード。これ自体格好だけで意味も無いことだが、さらに意味の無いフロントバンパー延長キットも付けた。もちろんグリルガードには大型のランプが必需品だ。すでに純正のフォグがバンパー上についていたため、1個はドライビング、1個はスポットランプにした。なんでこんなことしたのか今となってはわからない。若気の至りか?

そしてハイリフトを狙っていたが予算不足であったため、取り敢えずロングシャックルと、アブソーバーを交換。アブソーバーは4x4エンジニアリングのカントリーチャレンジ(通称カンチャレ)。ゴツゴツ感は拒めないが、ピッチングとロールはかなり抑えられた。ロングシャックルのおかげでアライメントは当然狂うわけで、直進安定性は悪くなった。また、オフでのハンドルの取られを抑えるためモンローのステアリングスタビライザーも付けた。当然のことだが重いハンドルがなおさら重くなった。

この車の真っ白なモノトーンに飽きてきた。ボディーサイズからしてアクセントが欲しくなる。ボディーサイドにラインを入れる事を検討。ピンストライプよりは太めにしたいと考えた。どうせなら幾何学的な模様もあしらってあげようかと考えたりもした。最終的に決まった模様は、当時のダットラの純正ライン。ひし形が3個並んだものだ。ダットラは赤色だが、僕の趣味で青を基本にした。フロントからリアにかけて薄い水色から濃紺にぼかすようなものにした。ぼかしをする関係でそのままでは艶が出ないのでクリアラッカーを被せて艶出しをした。作業的には半日もあれば十分だった。

しばらくこの状態で乗っていた。アルバイトに精を出しハイリフトの金を貯めた。金ができた頃、どのブランドにしようか悩んだものだ。まず考えたのが大胆にもホーシング逆付け。ご存知の方もいると思うが、ハイラックスなんかは最初からリーフスプリングがホーシング(車軸)の上側を通っている。これに対してランクルはホーシングの下側を通っている。これをハイラックスと同様に上側にしてしまおうということだ。単純にホーシングの太さ分だけ車高は上がるわけだ。部品はほとんどいらず、手間賃だけだ。この手の改造をしてくれる業者は幾つかあったが、その中でも東京のとあるショップにTELしてみた。「車検のことをお考えですか?」もちろん車検が通らなければ公道を走行できないことぐらい理解していた。構造変更までやってくれるもんだと思っていたが、そう甘くは無かった。このショップではそこまで面倒見てくれないとのことだった。今でこそ、多くのショップで構造変更まで見てくれる業者が多いが、当時は少なかったというか見つけられなかった。とういうことでホーシング逆付けは断念。まっとうにハイキャンバーリーフスプリングに交換する方向で検討した。僕が住んでいた清水にも4駆ショップはあったが、なぜか選んだのは大阪のカミタイヤ。TELで予約し、アルバイト先の友人と学校をサボって行った。高速代金をケチるため、大阪まで下道で行った。そのため、夜中に出発し朝方ショップの開店時刻前にショップに到着した。交換作業をお願いして大阪の町をフラフラ。ショップに戻ると目に飛び込んだハイリフトのランクルは紛れも無い我が愛車。4インチアップのリーフサスと2インチアップのロングシャックル、モンローのSSFスポーツで、〆て20万円程度だったと思う。リフト量は6インチ(約15cm)だ。

この車、エンジンは3Bというもので、排気量は3400ccだ。トルクは太いが馬力は98馬力。箱根の山越えはきつい。高速も同様だ。音がやかましく、80kmぐらいからの加速はかなりの時間を要する。これを克服すべく加給気の検討。当時この車用に出ていたのはプロストのターボキット。28万円もする。これにインタークーラを追加すると40万円にもなる。この金額では手の出しようが無く、あきらめた。何しろ車両代金の滞納が重なっていたし...。

そうこうしているうちに、タイヤが坊主になってきた。購入したときに付いていたアルミホイールに飽きていたんで、これも交換することを検討。タイヤはブリジストンマッドデュラー。アルミはラグナに決めた。親父に「知り合い業者に見積もりをもらっといて」って頼んだら、あ〜らビックリ。数日後に親父の工場に届いていた。僕は見積もり頼んだだけなのに...。まあいいか。

いよいよ手放すときになって、どうやらサイドに塗装したラインが車両価格を下げてしまうことになるとの話しを聞いた。このころはこのようなドレスアップが仇となるらしい。しかたがないので、ラインを消すことにした。消すと言ってもラインだけを消す事ができるわけではないので、サンドペーパーで落とした上に、ボディー色の白を塗装し直した。下の写真が手放す直前の写真となる。今までのラインがなくなった事で、やっぱりつまらない車になってしまった。