俺はゴムの部品を作る会社に勤めている。
しかし、人に職業を聞かれ「ゴムの会社」と答えると
俺の友達はほとんどコ○ドームを連想するらしい。
中には「安くゆずって!!」とかぬかす奴もいる。
そこで、俺は誤解を正すため説明するのであるが、毎回同じ繰り返しで
いい加減疲れた。
故に、このページを作ってゴムについて語ろうと思う。
ま、そのうちコ○ドームにも触れるとは思うが…
その1
普通、ゴムっていうと何を連想するだろう?
輪ゴム、タイヤ、スーパーボール、ゴム手袋、コンドーム…
俺も転職してくる前はせいぜいこんな物しか浮かばなかった。
正直なところ、俺の会社では人様の目に直接触れる部品は少ない。
機械の中や隠れた所で使われてる部品が多いのだ。
ゴムとプラスチック。どちらも高分子という点で似てるような気もする。
でも、ゴム工場に入ってみると、はるかにプラスチックの方が作るのが楽に感じる。
ぱっと見で見ると、ゴムは柔らかく伸び縮みする。プラスチックは硬い物が多い。
この伸び縮みする性質(ゴム弾性という)が、ゴムの特徴であり、めんどくさい部分でもあるのだ。
プラスチックは熱可塑性樹脂であることが多い。「熱可塑性樹脂」っつうのは何かというと、
熱を加えると柔らかくなり、冷やすとそのまま固まる樹脂であるという事である。
だから、プラスチックを成型しようとすると、樹脂を温めてどろどろに溶かし、
型に流し込んでから冷やせばいい。
ジュースが入っているペットボトルなんかがいい例だ。
(ポリエチレンテレフタレートというプラスチックの頭文字でPET)
1個作るのにコンマ何秒の世界。ポンポン出来上がる。
一方、ゴムは加工前の状態では弾性が無い。つまり、伸びても縮まらないのだ。
そのため、熱を加えて化学反応させる必要がある。それも1回に5〜8分かかる。
タイヤだと約30分。ビルの免震ゴムに至っては24時間以上なんてのもある。
(ま、俺の会社はそんなでかいモンは作ってないけど)
プラスチックに比べて生産性が悪いのが問題であるが、このゴム弾性が必要な部品が
あるので、商売が成り立っていると言ってもいいと思う。
その2
加工後のゴムはなぜ伸び縮みするんだろう?
文明世界で初めてゴムを発見したのは、コロンブスだと言われている。
2度目のアメリカ渡航でハイチの原住民がゴムの固まりで遊んでいたのを
みつけたらしい。
その後、アマゾンの植民地からポルトガル王へ野生のゴムの固まりが献上され、
消しゴムとして使われたそうだ。それはインデアンラバーと命名された。
ラバーって言葉は「こするもの」という意味だそうで、これが英語のラバーの起源だと
言われている。
多少、一般の用途にゴムの木の樹液が使えるようになってきたが、
当時のゴムはもちろん加工法なんて知られてないから、伸びても縮まない。
べとべとの代物だったようだ。
なんとかもうちょっと使い勝手のいいモノが出来ないか。といろんな人がチャレンジした。
ゴムにいろんな物を混ぜてみたりした。
最初に成功した人の名前はチャールズ・グッドイヤー。あのアメリカのタイヤ会社の創始者となる。
でも、実は偶然だったそうだ。たまたま硫黄を混ぜたゴムの余りを寝る前にストーブに
貼りつけた。翌朝見てみるとぐにゃぐにゃしていた元のゴムが、伸び縮みする別の何かに
変わっていたのを発見した。(ちなみに、最初にタイヤメーカーを興したのはダンロップ氏だそうだ)
ゴムの高分子は硫黄を介在させると高分子の途中で硫黄と結合して複雑な網目構造に変化する。
結合前の高分子は引っ張るとずれるだけだが、網目構造のゴムは引っ張られてつぶれても
元の状態に戻ろうとする。これがゴムが伸び縮みする要因となる。
現在のゴムでは硫黄を使わずに網目構造をつくる方法・種類もある。
でも、硫黄を使うのがゴム屋の基本である。
ゴム屋ではゴムを加熱して成型することをこう呼ぶのだ。「加硫」(かりゅう)と…。
その3
ゴムの色ってどんな色?
例えば、輪ゴムはあめ色をしている。ゴムボールはいろんな色がある。
タイヤは黒い。そういえば、黒くない車のタイヤは見たことがない。
ゴムのポリマーそのものは輪ゴムのようなあめ色をしている事が多い。
でも、あめ色のタイヤは無い。
もし、輪ゴムのようなゴムでタイヤを作ったと考えると…
よく伸び縮みはするけどぼよんぼよんして気持ち悪そう。
しかも輪ゴムってしばらく放置しとくとボロボロになる事がある。
タイヤがそんなに早くボロボロになったら使い物にならない。
ここにゴムとプラスチックの決定的な違いがまた一つある。
ゴムはプラスチックと違って混ぜ物が多いのである。
プラスチックは基本的に高分子に顔料が入っている程度。(中には複雑な物もあるが…)
一方ゴムはポリマーと同量か場合によっては2倍以上、充填材や薬品が入っている。
ゴムの高分子そのものは、加硫によって伸び縮みする構造を作る。でも、それだけでは結構弱い。
だもんで、充填材でゴムの強度を補う。ゴムに対する補強効果が大きい材料がカーボンブラック。
カーボン(日本語でいうと炭素)。つまり、すすであり、鉛筆の芯の材料。色は黒。
これをゴムに混ぜ込むとゴムの力を強くする事ができる。しかし、ゴムは黒くなる。
もちろん、黒くしたくないゴムのためにいろいろな補強剤が開発されてきてはいる。
でもカーボンブラックほどのコストと効果を両立させる材料はまだ存在しない。
だから、世の中にはやはり黒いタイヤが走り回っているのだ。
その4
ゴム製品は熱を加えて反応させて作る、と以前書いた。
一番、イメージしやすいものはなんだろう…と考えたら良い例があった。
タイヤキである。
タイヤキは型の両面に生地を流し込み、アンコを乗せて張り合わせる。
しばらく熱すると表面はタイの形になる。
ゴムの成型も簡単に言うとあんなようなもんだ。
もちろん、中にはアンコは入ってないし、かける圧力もはるかに違うが…
加硫する前のゴム(これを生ゴムという)を型に入れ、熱板プレスで熱と圧力をかける。
温度は大体160℃〜200℃くらい。時間はまちまち。
そして、取り出すと製品(バリ付き)の出来上がり。
固まる前のゴムは柔らかいので、型にちょっとでも隙間があるとそこに潜り込んでいく。
タイヤキでも生地がたっぷりのやつは魚の形の外側に生地がはみ出るでしょ?それがバリ。
このバリを取り除いて、初めて製品の形になる。
ゴムを成型するにおいて、バリをうまくコントロールすることは大事な要素だ。
バリが出ないように、ゴムの逃げ道を完全に塞ぐと、同時に空気の逃げ道も塞いでしまう。
ゴムの成型時に逃げ場のない空気があると、その部分のゴムは空気を抱き込んでしまう。
空気もゴムと一緒にプレスされているわけだから、型から取り出すと空気は膨張して、ゴムも
そこだけ膨らんでしまう…不良品である。
だから、ある程度のバリは必要なのだが、これもとりにくいバリでは仕上げが大変だ。
さらにバリはゴミになってしまうので、あまり出さないに越したことはない。
いろいろ難しいのである。
結局、製品がうまく作れて、バリを適当な量で効果的に張らせ、仕上げしやすいような型を
最初に作る。これが肝心。そして、作りやすいゴムを設計する事も大事。
その辺がゴム屋の腕の見せ所なのである。
つづく…