「魂食らい」
ミシェル・ペイヴァー/作 さくま ゆみこ/訳 酒井駒子/画
評論社/発行

なんだか遠い存在だった魂食らい達が急に近づいてきた。正面きって真っ向勝負に挑むことになるトラクの話であります。そして今回も寒い話だ。
6000年前の極寒の地方の文化で創られたトラクとレンの着る防寒着は、表紙にもある銀色のパルカ(パーカー)だが、素材はアザラシの皮でできている。フードの周には犬の毛が縫い付けてあって吐く息が凍らないらしい、他に野うさぎの皮でできたミトン(手袋)、ケワタガモの綿毛の下着は肌触りもよく汗も通すので凍えしらずだ。若いアザラシの皮では靴下を作り、靴は濡れを防ぐためにアザラシの毛を抜いて作ってある。全部本物の皮でできた防寒着はかなり暖かいと二人は語っている。


このような寒いところに来たのは、ウルフを何者かにさらわれたからでした。ウルフを救い出すために、トラクとレンはワタリガラス族族長のフィン=ケディンに無断で野営地を離れたのでした。
はじめは、防寒に対して備えも、また知識もない二人でしたが、途中アザラシ族のイヌクティクルに救われ、危機を脱出します。アザラシ族が住む極北では足を止めるだけでも命に関わるのです。
初めて出会う魂食らいたち、彼らが捜している生霊わたりが目の前にいるトラクだと気がつかない。魂食らいが放した悪霊を封じるため、彼らの戦いが終わらない。彼らに立ちはだかる大きな力に立ち向かえるのだろうか・・

トラクとレンは、お互いに助け合ったり、喧嘩をしたりしますが、本作でトラクの心が読めた気がします。レンの存在の大きさを認めているのです。孤独だった以前と違い、自分だけでは乗り越えられないものを感じているようです。レンが自分を置いて帰ってしまう事を心配している姿は少年らしいというか、人間らしいトラクの一部の姿だと感じて成長していくトラクを発見できるお話になっています。


ワタリガモ(雄)

2009年1月4日

※表紙掲載許可は評論社さまより得ています。