「田村はまだか」
朝倉かすみ/著 光文社/発行

中日新聞の書評で見つけた本であります。書評がなければ永遠に出会いそうもない本だ。
小学校の同窓会の3次会に揃った40歳の面子は男3人女2人であった。その5人が待つのが「田村」だ。普段子どもが主人公の本ばかり読んでいるせいか、この本に出てくる大人に感情移入する部分が多すぎる。
 2年前に私自身が経験したのだが、子ども会のソフトチームの当番に行く楽しみの一つがチームメイトの少年の存在であった。28歳年下だ。愛とか恋ではないと思うが、少年と同じ年の甥っ子がチームのエースでありながら、私の心のエースは彼であった。つらくていいことなんてまったくないソフトの役員当番の苦痛を彼の存在が癒してくれた記憶が第三話の「グッバイ・ベイビー」と重なり、読みながらため息が出た。
 加持千夏は男子校の保健室の先生だった。保健室にたびたび訪れる19歳年下の生徒が自分に視界にはいるようになる。気がつけば彼を追う彼女の目、触れるほど側にいても触れることはしない。そこが男と女の違いだろうか、例えばこれが男性の先生と女子生徒であったら男は触りそうである。
彼が学校を去るとき、彼女の目から涙が零れ落ちる。ここで泣かせたところが作者の技だよな、泣いてすがるタイプじゃないのは分かってます。加持千夏があそこで泣いてすがり出したら読者がトーンダウンだ。また泣かなかったら物語が締まらない。
最後まで「田村」を待ち続ける40歳の大人達を自分の同窓会と照らし合わせて読んでみよう。

2008年6月3日