<キャスト>

  シンデレラ …… 越前リョーマ
  継母  …… 竜崎スミレ
  姉 …… 乾貞治、手塚国光
  魔法使い …… 不二周助
  ネズミ(御者、馬) …… 桃城武、海堂薫、菊丸英二
  王子  …… 千石清純
  家来  …… 南 健太郎、東方雅美、壇 太一



 昔々、ある所に、リョーマという、ちょっと生意気ですがそれはそれは可愛らしい女の子がいました。小さい頃は両親と共に楽しく幸せに暮らしていましたが、不幸なことに母親は早くに亡くなってしまい、父親が後添えとして迎えた女性には、二人の娘がいました。この女性、つまりリョーマの新しい母親は、とても厳しいスパルタな人で、二人の姉たちもそれぞれに一癖も二癖もあるクセモノ揃いだったのです。
 それでも、父親が生きているうちはまだよかったのですが、父親もまた病気で死んでしまってからは、継母も姉たちも我が物顔で振舞うようになりました。家事一切はリョーマにやらせて、自分たちはそれぞれ好きなことをやっているのです。少しでも口ごたえをしようものなら(実際、リョーマは何度も「ヤダ」とか「アンタがやったら?」とか言っていたのです)、継母は頬をグニグニつねるし、二人の姉はグランドを走らせたりヘンなジュースを飲ませたりと、身の毛もよだつような恐ろしい罰が待っているのでした。
 負けん気だけは人一倍強かったリョーマは、時々派手な仕返しをしました。暖炉の掃除をする振りをして、灰を家中に撒き散らし、3人のドレスや食べ物などを台無しにしてやったのです。
 そんなことを何度かするうちに、3人はリョーマのことを「シンデレラ(灰かぶり)」と呼ぶようになりました。

「シンデレラ! 朝ご飯はまだなのかい? もう10時じゃないか」
「シンデレラ、お前まだ宿題も終わっていないだろう。トイレ掃除もしていないぞ。罰としてグランド20周だ!」
「シンデレラ、新作のジュースを作ってみたんだが、味を見てくれ。…なに、イヤだ? これを飲めば掃除も洗濯も好きになれる特製ジュースなんだが…おや、急にテキパキ働き始めたな、」
 こんな具合で、朝から晩までストレスが溜まりっぱなしの可哀想なシンデレラなのでした。

 そんなある日、一通の招待状が舞い込みました。
「おやまあ、王子様からの招待状だよ! 何でも、国中の女の子を招いてダンスパーティーを開くそうだ。その中から気に入った女の子と結婚するんだとさ」
「ほほう…、それは面白いイベントだな」
「王子の考えそうなことだ。そんなパーティーで結婚相手を選ぶなんて軽率なことを…」
「彼は自分のことを常々ラッキーだと言っているから、その運を試そうというワケか。いい人に巡り会える可能性は…この国の結婚適齢期の女性が1万人いるとして、そのうちパーティーに行けるのはまあ8割ぐらいだろうから……」
 上の姉は眼鏡を光らせながら何やらブツブツ意味不明なことを呟いています。それを軽く流してリョーマは言いました。
「ねえ、国中の女の子を招いてるんなら、俺も行っていいんスよね」
「おやシンデレラ、お前行きたいのかい?」継母は意外そうに言います。
「つーか暇だし。退屈なんスよ」
「おかしいな。やることは山のようにあるはずだが。そんなに退屈ならもっと課題を増やそう」
 下の姉が自分では親切のつもりで言うと、
「退屈凌ぎに俺の新作ジュースを試飲するというのはどうだ?」と上の姉。
「課題もジュースもパス。とにかく俺、そのパーティー行くから」
「おーやそうかい。着ていくドレスがあるのかい?」継母が皮肉たっぷりに、「ウチにあるドレスは全部、お前が灰を降らせて目茶目茶にしちゃったからねぇ」
「…………」ぐっと詰まるリョーマ。
「あっはっはっはっは。ま、行きたいならそのボロ雑巾みたいな服でお行きよ。あたしは別に構わないよ」
 勝ち誇ったように高笑いをする継母を、「にゃろう…」と上目遣いに睨んで唇を噛むリョーマでした。

 さて、パーティー当日。
 継母と姉二人(主に継母だけ)は、朝からエステだの美容院だの大騒ぎで着飾っています。
「どうだい、あたしのこのセクシー・ダイナマイト・バディーで王子もクラクラだよ!」
「……別の意味でクラクラになる可能性120%だな……」
「……」
「何か言ったかい?」
「いえ別に、」
「オヤお前たち、眼鏡ぐらい外したらどうなんだい? せっかくの美人が台無しじゃないか」
「いえ結構です」眉間に皺を寄せて言うのは下の姉です。
「眼鏡はともかく、お前はもう少し表情を柔らかくした方がいい」
「姉さんに言われたくないな、」
「まあいいよ、どうせお前たちが選ばれることなんてないからねぇ」継母は満足そうに言うと、「ところでシンデレラ、お前は行かないのかい?」
 見ると、リョーマは一張羅のボロボロの服を着て、不機嫌そうに突っ立っています。
「……別にいいッス」
 リョーマはプイッと横を向いて唇を尖らせました。
「おやそうかい。じゃ、掃除を頼んだよ」
「行って来るぞ、シンデレラ」
「油断せず戸締りをしっかりしておけ」

 3人が行ってしまうと、リョーマは溜め息をつきました。
「ちぇっ、つまんないの」
「どうしたんだい?」
 突然すぐ近くで声がして、リョーマが吃驚して振り向くと、そこには華奢で綺麗な少年が穏やかな笑みを浮かべて立っていました。
「アンタ誰、」
「クス…、ボクは魔法使い。君を助けに来たよ。ダンスパーティーに行きたいんでしょ?」
「……だったら何? アンタが魔法とやらで行かせてくれるわけ?」
「もしキミが望むならね、」
 どうする? クス、と笑ってその少年は首を傾げました。サラサラした色素の薄い髪がその仕草につれて流れて揺れました。
「……行く」
 何だか不本意そうに、リョーマは俯いて呟きました。誰かの手を借りるのがイヤだったのです。
「じゃ、かぼちゃとネズミを探してきて」
「何それ、」
「いいから。早くしないとパーティー終わっちゃうけど、いいのかな?」
 少年はニコニコしながらさらりと言います。
「魔法使いなら、魔法で出せばいいのに。なんで俺が……」
 リョーマはブツブツ言いながらもカボチャを一つとネズミを3匹、探し出して捕まえました。
「さすが、仕事が速いね、」
「これくらい朝飯前だね」リョーマは不機嫌そうな顔を、それでもちょっと赤くしています。
「じゃ、ここからは僕の仕事だね、」
 少年が杖を振ると、あら不思議。カボチャは立派な馬車に、ネズミたちは2頭の馬と御者に姿を変えたのです。
 すると、馬が喧嘩を始めました。
「わっ! なんだこりゃ! お、俺、馬だ! おいマムシ、おめぇも馬だぜ?」
「るせぇな、見りゃ分かる。ギャーギャー喚くんじゃねえっ」
「んだと! 普通ビックリすんだろ! 馬になったんだぜ? てめぇだって驚いてるくせによ…、」
「別に、」
「嘘つけ! さっき目ぇ見開いてキョロキョロしてたじゃねえか」
「してねえっ」
「してた! 俺ぁこの目で見たんだぜ。無理はいけねえな、いけねえよ」
「っだとこの……」
 マジで乱闘が始まりそうになって、御者が見かねて止めに入りました。
「こらこら〜、桃も海堂も止めろってー! 喧嘩なんかしてる場合じゃないにゃ〜。これから仕事だよ〜ん」
「……エージ先輩はいいッスよね、御者だもんなー。なんで俺らばっか…、」
「(フシュ〜〜……)」
「あはは、残念無念、まった来週〜!」
「さあ、話がまとまった所で、今度はキミの番だね、シンデレラ」
「……アレでまとまったんスか」
 リョーマの疑わしそうな様子にお構いなく、少年はまた杖を一振り。するとどうでしょう。ボロ雑巾のような服は素晴らしいドレスに、ボサボサの髪は最新流行のスタイルに、そして足には美しいガラスの靴がキラキラ輝いています。
「おおー、すげーじゃねえか、越前! 見違えるぜー!」
「おチビかっわい〜! いっつもそうやってればいいのに〜!」
「…………」
「あっ、オイ、こいつ赤くなってるぜ〜!」桃城が海堂をからかいました。「もしかして惚れちゃったんじゃねえの? このこの〜!」
 その瞬間、怒った海堂にケリを入れられ、「うげっ、痛ぇーっ」と悲鳴を上げる桃城でした……。
「ホラホラ、桃も海堂も遊んでないで、ほら仕事仕事!」
 なんとか馬車が体裁を整え、リョーマが乗り込むと、少年が言いました。
「シンデレラ、一つ大切なことを言うからよく聞いて。この魔法は、日付が変わると無効になっちゃうからね。12時の鐘が鳴り終わる前に帰ってこなきゃいけないよ。でないと馬車もドレスも、全部元に戻っちゃうからね。いいかい?」
「うぃっす、」リョーマは頷いてから、少し俯いて、「、……サンキュっス」と呟きました。
 それが聞こえたのか聞こえなかったのか、少年はクスッと笑って、
「楽しんで来るといいよ」
 こうして、リョーマを乗せた馬車は何とか出発したのです。

 桃と海堂が速さを張り合うので、馬車は飛ぶように速くお城に着きました。
 リョーマが会場に現れると、その場がどよめきました。
「うわお、すっげー可愛いだーね!」
「フン、まあまあじゃないの。……でも見たことのない子だな。どこのお姫様だろう?」
「んふっ、でもキミの美貌だってなかなかのものですよ、木更津君」
「キショイこと抜かしてんじゃねーよ! だから俺はこういうとこは苦手だって言ったんだ」

 ざわざわしている一同の中を、王子は真っ直ぐにリョーマに近づきました。
 オレンジ色の髪をしてニコニコ人懐っこい笑顔の王子は、屈託のない調子で、
「やあ、初めまして、可愛いお嬢さん。俺、王子の千石。キミは?」
 継母たちにバレたらヤバイ、と思ったリョーマは、咄嗟に偽名を名乗りました。
「……テニ子だけど」
「じゃあテニ子ちゃん、一曲お相手を」
 王子はおどけたようにユーモラスな中にも優雅な物腰でリョーマの手を取りました。
 王子はすっかりリョーマのことが気に入ったようで、その後はずっとリョーマと踊っていました。二人ともテニスが好きだと知って、話も(一方的に)盛り上がりました。
「うーん、俺ってホント、ラッキー! キミみたいな子と会えて、しかもテニスも好きなんて、もう運命感じちゃうよね〜」
「……あっそ、」リョーマはしかし素っ気なく、「アンタ強いの?」
「ん? 強いんじゃない? 何なら今度一緒にやろうか」
「止めといた方がいいんじゃない。プライド傷つくと思うけど」
 王子は楽しそうに笑って、
「キミってほんと、面白いね〜。うん、好きだな俺、そういうの」
 そんな風にして(王子が)おしゃべりに夢中になっているうちに、時間はどんどん過ぎていたのです。ハッと気付いたときには、もう12時の鐘が鳴り始めていました。
「あっ、ヤバっ! 俺もう帰らなくちゃ」
 さすがのリョーマも大慌てで、挨拶もそこそこに脱兎のごとく走り出しました。
「あっ! おーい、テニ子ちゃーん!! 今度いつ…っ」
 王子が慌てて叫んだ時には、もうリョーマの姿はありませんでした。
「あっ、でも俺ってラッキー! こんな所にテニ子ちゃんの手がかり発見!」
 階段の途中に落ちていたガラスの靴を見つけ、王子は嬉しそうに笑うのでした。

「ええっ、この靴の持ち主を探せって言うのか?! 手がかりは『テニ子』っていう名前だけ?」
「偽名ですって宣言してるような名前だよな……気づけよ千石…、」
 王子から話を聞いた南と東方は呆れ果てました。
「もっとよく話聞いてよ〜、手がかりはそれだけじゃないってば。あのね、テニ子ちゃんは、もうもっのすごーっく可愛いの! んでちょっとクールなとこがまたしびれるんだー」
 にへにへだらしなく鼻の下をのばしている王子に、溜め息をついて顔を見合わせる二人。
「とにかく! 俺はあのテニ子ちゃん以外の子とは結婚しないからね。見つからなきゃ、一生独身でいるよ。テニ子ちゃんに操を立ててね」
(操って……お前に既にそんなものねえっての)
(コイツが一生独身って……ある意味めちゃめちゃ迷惑かも。世の中の女性たちにとって)
「せっ、千石先輩っ! そこまでそのテニ子さんのことを…!! 感動です! 僕めちゃくちゃ感動したです! 南先輩、東方先輩、何とかしてテニ子さんを探し出しましょう!」
「壇くん、キミは分かってくれるのかい」
「もちろんです! 千石先輩、待っててください! テニ子さんは必ず探し出してみせますですっ」
 手を取り合い、目をウルウルにして盛り上がる二人に、南と東方はげんなりして肩を落とすのでした。壇にあるのはやる気だけで、実際に面倒なことを色々やらなければならないのは自分たちだからです。


 さて、こちらはリョーマの家。
 既に国中にお触れが出て、王子がガラスの靴がピッタリの足の持ち主を探していることは分かっています。
「…しかし大変なことだな、国中の娘たちを一軒一軒回って靴を履かせているんだろう?」
「どうもそうらしい。それだけ王子がその娘にご執心ということだ」
 二人の姉たちはさほど興味もなさそうに話しています。
「ウチにもそろそろ来る頃だよ。足を磨いておかなくちゃねぇ」
 対照的に母親は妙に浮かれています。
「お母さん、何をそんなにはしゃいでいるんです。どうせ靴を履くまでもなく俺たちには合いませんよ」
「何言ってるんだい! 人の靴だって履けることもあるじゃないか。少しでも可能性があるなら、あたしゃそれに賭けるよ!」
「……可能性は限りなくゼロに近いと思いますが」上の娘は冷静に分析します。「皮や布と違ってガラスですからね。伸びたり縮んだりする余地は0.1ミリたりともありませんよ」
「それに、たとえ1億分の1の確率で足が入ったとしても、お母さんでは一目で別人だとバレます」
 下の娘もきっぱりと言い切りました。
「…っっ!! な、なんだって、この親不孝モンが!」
 もう少しで親子喧嘩が始まりそうな所で、ピンポーン、と玄関チャイムが鳴りました。
「こんにちは。王子の使いです。この靴を履いてみていただきたい」
「ハイハイ、どうぞどうぞ。待ってたんじゃよ、じゃあ早速履いてみようかねぇ」
 母親が足を出そうとすると、南はにっこり笑って、
「いえいえ、お母さんは結構です。そちらの娘さん方にお願いします」
「…………」
「……履かせてももらえないか…。現実とは、かくも残酷なものか」上の娘が呟きます。
「俺たちも結構。合わないことは分かりきっています」下の娘が言うと、
「そうですか? …まあ、そうでしょうね、」南はあっさり引き下がって、「皆さんがこのように言ってくださると本当に助かるのですが…」
 はあ、と溜め息をつきつつ、ガラスの靴に目を落としました。
「だが、おかしいな。この家で最後なのに、誰もこの靴に合う人がいないぞ」
 東方が首をひねったとき、隅に立っているリョーマが目に入りました。
「あ、そこのお嬢さん。あなたも履いてみてください」
「え、俺っスか」
「そうです。あなたです」
 履いてみると、(当然ですが)リョーマにピッタリ合うではありませんか。
「おおお! おめでとうございます! あなたこそ、王子の結婚相手です」
「はぁ? 結婚って…」
「王子はあなた様のことが大層お気に召され、あなた様以外の方とは結婚しないと言っておられます。どうか私たちと一緒にお城へ…」
「ヤダ」
「……は?」
「勝手に決められても困るんスけど。そんなのひと言も聞いてないし」
「シンデレラ、何を勿体ないことを言ってるんだい? 王女様になれるんだよ!」
「そんなの興味ないし」
「だけどお前……」
「シンデレラ、相手は仮にも王子だ。行った方がいい」
 姉たちも口々に説得しましたが、リョーマは頑として首を縦には振りません。
 その頑固さに、とうとう南と東方も諦めて、お城へ帰ってしまいました。

「シンデレラ、どうしてお城へ行かなかったんだ。常々、こんな暮らしはイヤだといっていたじゃないか」
「……別に。あの王子と結婚するくらいなら、この家にいたほうがマシ」
「……そうか、」
 表情にこそ出しませんでしたが、内心ではリョーマが残ってくれてちょっと嬉しい姉たちでした。
「まあ、王女の母ってのも悪くなかったけどね。シンデレラがいてくれれば家事もしなくてすむしねぇ」
 母親もまんざらでもなさそうです。
 こうして、リョーマは家族4人で末永く幸せに暮らしました。

 ところで、振られた気の毒な王子は、
「えええーっ! ヤダって? どうしてだよー、テニ子ちゃん〜〜」
としばらくは落ち込んでいましたが、すぐに立ち直って、今度はクラブ通いを始めたということです。
「先輩…、テニ子ちゃんに操を立てて一生独身……って言ってたのに……」
 人(特に王子)の言うことは信用できない、ということを学び、また一つ大人に近づいた壇でした。




−おしまい−





越前: ちょっとコレおかしくないッスか。
手塚: 同感だ。なぜ俺たちが女役なんだ。
千石: キミたちはそれでもまだ似合ってるよね〜。問題は乾くん。
乾 : 心外だな。手塚が似合ってて俺が似合ってないということか?
手塚: 俺も心外だ。……お前は似合ってると言われたいのか、乾。
桃城: 部長たちはいいじゃないッスか! 出番も多いし。…俺らなんかネズミっスよ?
越前: ネズミはともかく馬はピッタリかも。「牛飲馬食」とかって言うし。(ボソ)
千石: 俺なんか王子なのに可哀想だよ〜〜!(泣)