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ぐるぐるしながら、輪っかをつないで、生きていくこと

水野 勝仁 
Masanori Mizuno
インターフェイス研究/名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程

「真実の探求は、実は問題の周りをめぐることだと思える」(1)

Q:「ChainCycle」のゆくえは?
A:う〜ん、どうなっていくのでしょうか?「Chain」にはなりたくないし.....。
「Cycle」になっていく作品はつくりたくないし.....。いま思うと僕の嫌いな単語を並べた、タイトルみたいです。
でもタイトルにした以上、何かしら必要な素敵な言葉だと思ってるかもしれません。なかなかそれからは抜け出せないですね。(2)

天井から吊るされたカラフルなチェーンにぐるぐる巻きにされた飛行機の模型や、プラスチックの板に突き刺さった戦艦の模型、網に捕獲されているたくさんの車の模型、どれもこれも本当は動くものたちなのに、どれも動かなくなっている。止まっている。会場で流されている映像では、きれいな女性が森の中を、だれかに追われているかのようにうしろを振り返りながら走っている。でも、逃げ切れたのかどうかもわからなくて、彼女は同じ所をぐるぐると走り続けているだけ、その映像を投影しているプロジェクター近くの棒にチェーンでつながれたプラスチックの犬のオモチャが、ぐるぐると円を描いて歩いている。そして、女性の映像にその犬の影が、周期的に落ちている。また、別の壁には、逃げている女性を写した写真があって、そこでの女性はうしろを振り返りながら走る一瞬の姿で止まっている。

ぐるぐると回り続ける

僕は逃げる女性の映像に影が落ちるリズムがとても心地よくて、しかも、その影が犬のオモチャ。影が落ちるからといって、何かから逃げているような女性が、その影のおかげで助かるわけでもなく、彼女は延々と同じ所をループしている。何かが影響しあっているようで、実は影響していない?深くは影響しないけど、とてもゆるく影響しているような。途切れること無く穏やかに続いていくような関係。そのゆるい結びつきの中で、飛行機も、車も、戦艦も、女性も、犬も、なんか、すべてがどこにも行けない状態になっているのだけれど、それでも、いいじゃないかなというのが、この展覧会の印象、どこにも行けないということが、悲しげなものではなく、なんとなくいい感じで、そこにあるような、僕たちは、心のなかでうっすらと、どこにも行けないことを感じているけど、その中で生きていて、それはそれで良かったりする。楽しいってことも、悲しいってことも、すべてはぐるぐると回っていて、その中で、僕たちは、どこにも辿り着くことなく、ただぐるぐるしているんだ。それでいいんだと思うわけです。

ぐるぐると回り続けることを肯定する

でも、なんでぐるぐる回り続けることをいいなと思ってしまうのでしょうか?コミュニケーション学者、ヴィレム・フルッサーが、逐次進行的認識から旋回的認識へということを言っています。ひとつの視点ではなく、より多くの視点をとること。なぜ、旋回的認識かというと、カメラやコンピュータ等の装置から生み出されるイメージに囲まれた私たちは、「テクノイマジネーション」のレベルで暮らしているからだとされます。私たちはカメラで写真を撮りながら、より多くの視点を探しているというわけです。そこでは、無理矢理ひとつの視点から世界を見るのではなく、世界を巡ってぐるぐる周りながら、より多くの視点を共有していくことが重要になってくるのです。
 と、フルッサーの考えを「Chain Cycle」が表現していると言いたいわけではないのです。今回の展覧会について考えていたときに、確かにフルッサーの考えが思い浮かんだのですが、さらに考えていくと『テクノコードの誕生』と訳された彼のテキストの元々のタイトルが『人間関係の転換?』という意味のドイツ語[Umbruch der menschichen Beziehungen?]だと「訳者あとがき」に書かれていたのを思い出したのです。展覧会会場の色とりどりの鎖や飛行機、自動車、戦艦の模型、そして、オモチャの犬、延々と何かから逃げているきれいな女性、これらはすべてが、フルッサーのテキストが『人間関係の転換?』というタイトルで、今を生きている人のための本であることを強く感じさせてくれたのです。文字だけを追っていると、ふと忘れてしまいがちになる自分たちが今生きていて、感じていることに近づくために、ぐるぐる回り続けることを肯定するという新しいチャンネルを「Chain Cycle」は開いてくれたのだと思います。生きていることを考えるためのひとつの輪っかが、今まで僕がぐるぐると考えてきた輪っかとつながるような感じです。ぐるぐるしながら、輪っかをつないで、生きていくこと。「Chain Cycle」って、とても素敵な言葉だと思います。

(1) ヴィレム・フルッサー『テクノコードの誕生:コミュニケーション学序説』 村上淳一訳、東京大学出版会、1997
(2) 馬場暁子「Chain Diary 展覧会の手引き」(「岡川卓詩氏への三つの質問」)


Nagoya University annual bulletin of 「clas」/2008年 掲載

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