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田中 由紀子  Yukiko Tanaka

美術批評/ライター

作品に視線を向けた瞬間、目に飛び込んでくるのは、いまが盛りと咲き誇る花々とそれらに引き寄せられる鮮やかなチョウ、眩しく光る宝石、群れをなす艶やかな熱帯魚。おびただしい数のそれらで、宇宙戦艦ヤマトやキングコングと言った誰もが見覚えのあるモチーフが、隙間なく覆われている。
今回の新作に先んじる《アトムのいる風景》(2011年)で空を飛ぶ鉄腕アトムも《決戦のある風景》(2011年)でバルタン星人にスペシウム光線を浴びせるウルトラマンも、私たちが子供のころから馴染みのある正義のヒーローだ。とはいえ、21世紀の科学技術の結晶であるアトムは、原子力をエネルギー源に稼働するロボットだし、ウルトラマンが地球を守り、バルタン星人が地球を侵略する根拠はいったいどこにあったのだろうか(そもそもどちらも異星人だし、ウルトラマンはほかの侵略者を排除した後に、地球を我がものにしようと企んでいるかもしれない)。
 根拠が曖昧な正義や悪が氾濫するのは、アニメやテレビ番組の世界だけではない。つい昨日まで安全で安心だと信じられていたものの危険性が、ある日突然、露呈したりする。世の中は正義と悪といった、そんな簡単な二項対立では成り立たない。華やかに彩られたヒーローたちは、彼らの胡散臭さを花やチョウでカムフラージュしているようでもある。
 そうはいうものの、見る者の目を奪うこれらの花やチョウは、インターネット上にあふれる膨大な画像から採取され、その美しさとは裏腹に、ゴミ同然のものだという。ということは、華やかに見える正義のヒーローも、見方を変えればゴミまみれということになろうか。
 私たちの既成概念や常識の多くは、テレビやインターネットなどのメディアによって形成されている。メディアから発信されるイメージの曖昧さやズレを、メディアそのものを素材に顕在化させる本シリーズは、メディアをとおしたイメージの脆さを露呈させることで私たちの思い込みを揺さぶり、世界に対する新たな視点を与えてくれるにちがいない。

「この山、この平」展覧会テキスト/2011年

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