2008-03 FrontPage



− 崖急に 梅ことごとく 斜なり −


題記の句、 無粋の輩には、
「本当かいな?、だから何なんだ?」と、突っ込みたくなるような句だ。
この句は、明治の代表的俳人正岡子規が、梅の名所、水戸・偕楽園を訪れた時に詠んだもの。
約120年ほど昔の句である。

そもそも植物は、平地にあろうが斜面にあろうが、引力に逆らって真上に伸びるものではなかったのか。
杉山に生える杉が「ことごとく斜め」などとは、見たことも聞いたこともないし、、、
水戸生まれの私としては、ちょっと前から気になっていて、
いつか確認してみたいと思っていたのだが、ようやくその機会を得た。

そこで、「ことごとく斜め」の梅木の風景を探しつつ、偕楽園の南面を歩いてみたのだが、
斜面の「所どころ」ならともかく、「ことごとく」は意外となかなか見つからない。

ところがさて、やっと見つけたのは下の風景である。

水戸・偕楽園にて(2008.3.23)

ううむ、むべなるかな。

とはいえ、この斜面をもう少し奥へ進むと、支えなしでは自立できないものや、
すでに朽ち倒れたものなど、少々悲惨な風景もあった。
やはり、梅木にとって崖は、決して居心地のいい場所ではないのだろう。

・・・・

明治22(1889)年の4月、正岡子規は学友菊池謙二郎を尋ねて、友人と二人で水戸を訪れている。
上の句はこのときに詠まれたもの。
当時、鉄道は既に水戸まで通じていた(水戸線)が、子規たちは貧乏学生のことだ。
弥次喜多道中よろしく、水戸街道をたどる徒歩旅行だった。
ところが、事前の連絡が不十分だったのか、
子規たちが水戸に着いたとき、謙二郎は入れ違いに上京していて、生憎会うことはできなかった。

このときは4月上旬にも拘わらず、たまたま天候不順で水戸は寒かった。
そんな中、子規たちは寒さに震えながら那珂川下りをした。
(「水戸紀行」正岡子規)

子規はそれ以来肺病を悪化させ、十数年後には夭折する運命となる。



偕楽園南斜面に立つ句碑
(昭和28年建立)

2008.3.24-4.8