聖岳東尾根 聖岳 3,013m

・日 時  平成20年9月9日(火)〜11日(木)
9日   碧南 7:30 = 13:35 畑薙第一ダム 15:00 = 16:00 椹島ロッジ
10日  椹島 4:35 〜 5:00 東尾根登山口(休憩) 〜 5:30 送電鉄塔 〜 6:50 東尾根1750m(休憩) 〜
    7:50 展望地(休憩) 〜 8:25 ジャンクションピーク 〜 8:45 倒木(休憩) 〜 9:25 休憩 〜
    9:50 白蓬ノ頭 10:10 〜 11:20 東聖岳(休憩) 〜 11:50 標高2880m峰 12:05 〜
    12:30 奥聖岳(休憩) 〜 12:55 聖岳 13:25 〜 14:30 聖平小屋
    ≪行動時間 9時間55分≫
11日  聖平 4:35 〜 5:00 休憩 〜 5:20 展望台(休憩) 〜 6:55 聖沢吊橋 〜
    7:40 聖沢登山口(休憩) 〜 8:20 椹島 10:00 = 11:00 畑薙第一ダム = 川根温泉 =
    19:00 碧南
    ≪行動時間 3時間45分≫
≪合計行動時間 13時間40分≫
・山行記録
 聖岳東尾根は3度目の再挑戦である。
最初は東尾根を下る計画を立て、昨年の9月に便ガ島から幕営装備で入山したものの、 天気の読み違えで無常の雨になり敗退…。 翌月に同じ計画で再挑戦したものの、今度は脚の故障で再び敗退している。
 3度目の挑戦に当たり、わたぼうは作戦を練り直す。 ネットで見た記録を参考に、「尾根を下る」、「幕営山行」という固定観念を改め、「尾根を登る」、「小屋泊り」の方針にする。 小屋泊まりにすることで、椹島の送迎バスに乗ることができるため、入山口を畑薙ダムに変更する。 何で今までこんなことに気が付かなかったのだろう…。
 東尾根を登るとあれば行動時間も自ずと長くなる。 わたぼうはまだ日が長い8月下旬に行こうと予定するが、今年は8月下旬から梅雨のような長雨が続き、 各地で時間雨量100ミリを越える豪雨で被害続出となる。わたぼうの住む街でも床上浸水の被害が出た程である。 わたぼうは昨年の轍を踏まないように天候回復をじっと待つ…。

登山口の鉄塔巡視路「28」の標識
手前の電柱支線が目印
(翌日、帰りの撮影)
 9月中旬になって漸く大陸から秋の高気圧がやって来る。 ただ、天気の良いのが平日のど真ん中なので、わたぼうは思いっきり休みを取ってリベンジ山行に出掛ける。 初日は椹島ロッジまでだから、15時発の送迎バスに間に合うように行くだけである。 快晴の空の下、わたぼうは静岡へと車を走らせる。
 ところが、途中の富士見峠から眺める南アルプスには黒雲がべったりと張り付き、 比較的標高が低い大無間山域でさえ雲の中である。天気予報では快晴と言ってたのに…、わたぼうは少なからず落胆する。 畑薙ダムに着いてみれば、さらに悪いことにビュービューと強風が吹きつけて来る。
 椹島ロッジは2食付8000円で、今夜の宿泊客は10数名と閑散としている。 空いていても単独行は詰め込まれるようで、わたぼうは山梨から来た男性と相部屋である。 朝食が5時なので、4時半には出発するつもりのわたぼうは弁当に代えてもらう。風呂に浸かると17時には夕食である。
鉄塔直上の滑って登り難い斜面
赤ペンキ目印を頼りに登る
林間はまだ薄暗い…
 夕食で隣り合ったベテラン夫婦と話をすると、これが標高2500m以上の山を登り尽くそうとしている強者である。 大唐松山や鎌田富士にも登ったという。 わたぼうは先月山頂直下で敗退した赤岩岳の登り方を尋ねてみるが、 やはりわたぼうの辿ったコースで正しいようで、 夫婦が登った時には山頂直下にフィックスロープがあったらしい。何か工夫して再挑戦しなければ…。
 今回の夫婦の目的地は白蓬ノ頭で、聖岳から往復するそうである。聖平小屋での無事の再会を期して部屋に戻る。 荒川三山から聖、光岳方面へと幕営大縦走する相部屋の単独行と話をして過ごすが、 親切な単独行は早出のわたぼうに合わせて早めの就寝に付き合ってくれる。

 翌朝、わたぼうが3時半に起き出してゴソゴソしていると、単独行も付き合って起きてくれる。 部屋の外は寒く、冷え込んだ朝になっている(外の温度計は8度だった)。 弁当を荷物にしたくないので、減ってもいないお腹に無理矢理詰め込んでから、4時半に単独行に別れを告げて部屋を後にする。 外はまだ真っ暗で、夜空一面に星が瞬いている。心配だった空模様は今のところ大丈夫なようだ。
標高1750mで東尾根に乗る
 ヘッドランプを灯し、牛首峠に上がるショートカットの山道に突入するが、直ぐに道が判らなくなって引き返す。 仕方がないので林道伝いに大回りで聖沢方面へと向かう。 東尾根の登山口は椹島と聖沢登山口のちょうど中間点辺り、中電の鉄塔巡視路「28」である。 入口には鉄塔巡視路を示す「28」の小さな黄色の標識があり、脇には虎カバーを付けた電柱の支線があるから判りやすい。
 ちょうど5時に登山口に着くが、まだかなり薄暗い。 真っ暗な樹林の中でまた道が判らなくなる恐れがあり、わたぼうは虫除けスプレーを振りかけながら明るくなるのを待つ…。 10分後、目に見えて明るくなってきたので、東尾根への一歩を踏み出すことにする。 登山口は標高1150m、聖岳まで標高差1850mの登りのスタートである。
 高らかに鈴の音を響かせながら薄暗い樹林に踏み込めば、いきなり大型獣がガサガサと逃げ出していく。 樹林の中はヘッドランプが欠かせない暗さであるが、斜面に大きくジグザグに付けられた道は明瞭で迷う心配はなさそうだ。 ただ、ジグザグの曲り角の延長には必ず獣道があり、うっかりしていると誘い込まれて引き返す羽目になる。 案外、道の状態が良いのも動物が踏み付けてくれるおかげかも知れないが…。
標高2000m付近の潅木帯
 傾斜が緩い道を黙々と20分登ると28番鉄塔に到着する。 鉄塔の右手の尾根状地形に赤ペンキの目印があり、暫くは荒れた踏み跡を直登していく。 傾斜が急な上に丸っぽい岩と砂ザレのミックスで滑り易く、非常に疲れる登りである。 こんなのが続いたら体力が持たないぞ…と、心配していると、踏み跡は再び斜面を大きくジグザグに登っていくようになる。
 6時20分頃、背後の山を超えて陽が射し始める。 樹間から垣間見える空には雲ひとつ無く、昨日と違って快晴になっているようだ。 標高1550m辺りで一旦尾根に乗るが、再び尾根を絡んでジグザグに登り、標高1650m辺りで再度尾根を登る。 樹木に付けられた赤ペンキの目印が頻繁に現れて迷うようなことはない。土留めがあったりして、道の状態もまずまずだ。
 登山口から1時間40分、標高1750mで東尾根に乗り、最初の休憩を取る。 わたぼうの高度計は1680mを示しているが、尾根の向きの変化と平坦な地形から間違いないだろう。 天気が良く気圧が高いため、高度の表示が低めになるのは仕方がない(ちゃんと調整してくれば良いのだが…)。 乾燥した陽気に喉が渇くため、わたぼうは水をガブガブと飲み干す。 念のため水を3リットル以上担いで来ており、荷は重いが安心できる。
ジャンクションピークの標識
冬道との分岐点
 緩急を繰り返しながら東尾根を登っていく。標高1950m辺りは尾根の北側斜面を登るが、基本的に大きく尾根を外すことは無い。 下草がない針葉樹林を登ったり、潅木が密に生えた切開きを登ったりする。 潅木地帯では踏み跡に栂の幼木が育ち始めている所があり、木がもっと育つと踏み跡が判り難くなってしまうだろう。
 標高2150m辺りで切り開かれた展望地があり、わたぼうは小休止する。 青空を背景に赤石岳の山頂部が映えている。標高2200m付近は尾根の南側を登ることが多くなる。 目印の赤ペンキは、樹木が成長するに連れ、樹皮が剥けて落ちてしまったり、色が薄くなって判別し難くなっているものも多い。 わたぼうは念のため目印が少ないところに赤テープを足しておく。
 突然、わたぼうの眼の前に「椹島」の小さな標識が現れる。 数メートル先には「ジャンクションピーク」の標識が木に括り付けられている。 漸く出会所小屋跡から登る冬道との合流点である。 西側には「白蓬ノ頭」、南側には「出会所小屋跡」の標識があり、東尾根の標識はこれで全部だった。 ジャンクションピークの先には微小鞍部があり、僅かながらもピークになっているようだ。
ラジオラリアの巨岩を縫って登る
 下草の少ない尾根を辿ると、標高2350m付近で倒木が踏み跡を縦に塞ぐようにズッポリと倒れている。 巻くのは簡単で、巻き終えたところで休憩する。わたぼうはここでも巻き道に目印を足しておく。 次第に尾根が広がり、林床には下草やシダ植物が茂って踏み跡を覆っているような所もある。 踏み跡も尾根上を左右に振るように進むので注意が必要だ。
 赤いラジオラリアの巨岩が現れ、その間を縫うようにして登って行くようになる。 ラジオラリアは海底に積もった放散虫のガラス質の殻が固まった岩で非常に硬いようだ。 登り始めて4時間以上が経ち、わたぼうの足は乳酸に蝕まれて次第にペースダウンする。 踏み跡は斜面をトラバース気味に北へ向かうようになり、トリカブト一色のお花畑と樹林を交互に抜けていく。
 待望の白蓬ノ頭には9時50分に到着する。登山口から4時間40分の我慢の登りだった。 赤いラジオラリアが露出した白蓬ノ頭は、絶好の展望地である。 北に大きく赤石岳が、東には笊ガ岳と布引山の鞍部から富士山が、西にはこれから行く東尾根が続いている。 黒と白の縞模様が「赤」石岳で、赤い岩の頂が「白」蓬ノ頭とは…何故?。 空腹のわたぼうはパンを齧って東尾根の後半に備える。
白蓬ノ頭直下のトラバース道
トリカブトのお花畑と樹林を交互に抜ける
 白蓬ノ頭からは戻るように南西への踏み跡を辿る。展望が良いのは山頂だけで、まだまだ樹林帯が続く。 林床は平坦で下草が少なく、何処でも歩けるから踏み跡を外し易い場所である。 わたぼうは赤ペンキ目印を忠実に追って樹林帯を進んでいく。 踏み跡は谷地形を越えて(倒木があって判り難くなっている。)、二重山稜の北側の尾根に取り付く。
 北側の尾根を斜上すると途中から目印がまったく見当たらなくなってしまう。 わたぼうは不安になって右往左往するが、あれだけ沢山あったマーキングが何処にもない。 仕方がないので尾根の南側斜面に沿って付いている踏み跡を辿っていくと、ハイマツ帯の入口で超立派な切開きに行き当たる。 何故にここの区間だけ目印が無いのか…?。 わたぼうは椹島で会ったベテラン夫婦のために、少し引き返して赤テープの目印を足しておく。
 切開きを登っていけば次第に尾根は痩せ、前方に東聖岳や2880m峰が見渡せるようになる。 もう尾根の切開きを辿るだけである…無風快晴の下、わたぼうは森林限界を超えた稜線漫歩を存分に楽しむ。 ただ、途中から切開きは踏み跡程度になり、 短パンのわたぼうはハイマツの横枝で怪我しないように注意深く進まなければならなくなる。
白蓬ノ頭西の二重山稜の北側尾根
目印皆無で尾根南の踏み跡に沿って登る
 2880m峰の肩のような東聖岳で小休止し、2880m峰でも休憩を取る。 疲れたせいもあるが、貸切の稜線をさっさと通り過ぎるのが勿体ないと思う気持ちが強い。 奥聖岳へはネットで見たとおり、稜線南側のガレの上部をトラバースして小ルンゼを登る。 ガレのトラバースはまったく問題ない程度で、小ルンゼの登りのほうが急で要注意だ。
 奥聖岳に12時30分に到着。遂にわたぼうは東尾根のリベンジを成し遂げる!。登山口から7時間20分の登高であった。 やっぱり尾根は登るに限る…わたぼうは東尾根を眺めては満足感に浸る。 奥聖岳から聖岳に場所を移し、完登を祝して山頂で暫しゴロ寝を決め込む。3度目の聖岳は無風快晴の大展望だ。
 聖平小屋まで一気に下って宿泊を申し込んでいると、奇遇にも椹島で会ったベテラン夫婦が丁度到着し、 握手を以って東尾根登高の成功を祝ってくれる。 聖平小屋は素泊まり料金が3500円で、寝具(寝袋)が1000円、夕食が2000円、朝食が1000円と加算方式である。 わたぼうは早朝出発に備えて朝食をパスし、シュラフ、マットは持参して来たため素泊まり+夕食で5500円である。
漸く森林限界…ハイマツの切開きを登る
東聖岳(中央)と2880m峰(左)
2880m峰の右奥に奥聖岳
 平日でも天気が良いせいか小屋はそこそこ混み合っているが、快適に寝るスペースは十分にある。 ただ、小屋は板の間の上に薄いマットと御座が敷いてあるだけなので、快適に過ごすためには個人用マットが欲しい所だ。 わたぼうは夕食までビールを飲みながら日向ぼっこをして幸せなひとときを過ごす。 夕食を腹一杯食べた後は疲れもあって一気に沈没してしまう。

 ぐっすり眠って3時50分の目覚ましで起床する。 外は放射冷却で2、3度まで冷え込み、隣の人は寒かったと言っているが、わたぼうは自前のシュラフでぬくぬくだった。 小屋は4時に明かりが点り、4時半には朝食と、南アルプスらしい早さである。 椹島発10時の送迎バスに乗るため、わたぼうは朝食は抜きに4時半過ぎには小屋を出発する。 椹島までコースタイムで5時間、多分余裕で間に合うだろう。
 真っ暗闇の中、わたぼうはヘッドランプの灯りを頼りに登山道を下っていく。 沢沿いの平坦地なので時折判り難いところもあるが、目を凝らし、勘を働かせてコースを探る。
3度目の聖岳は快晴でした
背景は赤石岳
4つ目の橋を渡ると登りになる。身体が温まってきたので、わたぼうは何時ものTシャツ、短パン姿になって高巻き道を進む。
 展望台に着く頃には完全に明るくなっており、ヘッドランプを仕舞う。 廊下状になった聖沢が遥か足元に見渡せ、足がすくむ思いである。 高巻き道は細かいアップダウンや桟道があって歩き辛く、コースタイムを縮めることが出来ずにわたぼうは少々焦るが、 尾根を一気に下り始めると調子が出てくる。聖平小屋から3時間5分、7時40分には聖沢登山口の林道に降り立つ。 もうバスの時間には楽勝である。
 椹島には8時20分に到着する。 バスの時間まで1時間半もあり、わたぼうは受付を済ませてからキャンプ場のベンチで日向ぼっこを楽しむ。 昨日に引き続き、今日も快晴模様である…。赤石温泉でざっと汗を流してから、大井川鉄道沿いに戻る。 川根温泉で再度じっくりと汗を流してから家路に就く。