鶏冠尾根   鶏冠山(とさかやま) 2,115m、
破不(破風)山(はふやま) 2,318m、 雁坂嶺(かりさかれい) 2,289m

・日 時  平成20年5月16日(金)〜18日(日)
16日  碧南13:15=笛吹の湯=20:00道の駅みとみ
17日  道の駅みとみ6:05〜6:50東沢徒渉〜7:15鶏冠谷〜8:00休憩(標高1500m)〜
    8:25休憩(標高1650m)〜9:25第一岩峰巻き道終点〜9:55第二岩峰〜10:45鶏冠山11:05〜
    12:15休憩〜13:00スパッツ着ける〜14:40木賊山〜14:50甲武信小屋
    ≪行動時間 8時間45分≫
18日  甲武信小屋6:00〜6:25木賊山〜7:55破不山〜9:15雁坂嶺〜9:50雁坂峠〜10:20休憩〜
    11:30車道〜12:20道の駅みとみ=笛吹の湯=19:00碧南
    ≪行動時間 6時間20分≫
≪合計行動時間 15時間5分≫
・山行記録
 今山行のメインである鶏冠山の登頂を果たし、後は楽勝!とばかりわたぼうたちは鶏冠尾根を登っていく。 ところが、木賊山の登りになると尾根は多量の残雪に埋もれるようになる。 予想以上の残雪に、わたぼうたちはテープマークを頼りに雪の斜面を進んでいく。 グサグサに腐った雪のため、しばしば股の付け根まで踏み抜いてしまうのも厄介である。
 暫くするとテープマークが突然途切れ、目を凝らして探しても次の目印がどうしても見当たらない。 尾根を外さなければ迷うことはないだろう…。わたぼうは目印探しを諦め、高い方に向かって適当に登っていくことにする。 幸いにも鶏冠尾根を埋め尽くしていた石楠花の薮は影を潜め、林床は何処でも歩けそうな雰囲気になっている。
 登るに連れ尾根の雪はどんどん深くなる。 わたぼうは雪の斜面にズボズボと穴を開けながら快調に登っていくが、同行のT君はかなりお疲れのようで遅れ気味になってくる。 その時である。パリパリパリ!ゴゴゴゴォー…何十発もの花火が一斉に弾けるような雷鳴が突然鳴り響く!。 うわぁ〜最悪だぁ!。わたぼうはみるみる蒼ざめる。
東沢の徒渉風景
氷のように冷たい流れに閉口する
 南アルプスの時と違い樹林帯のため落雷が直撃する可能性は低いが、 すぐにも土砂降りの雨が襲ってくるに違いない!。雷鳴は間断なく鳴り響き、間もなく雨粒がポツリポツリと落ち始める。 一刻も早く甲武信小屋に逃げ込みたいと焦るわたぼうであるが、いかんせんT君の足取りは重く……。

 初夏の香りがする季節になるが、高い山はまだ雪深いだろう。わたぼうは雪が少ない奥秩父の鶏冠山に登っておこうと思う。 山梨百名山の3大難関のうち笹山(黒河内岳)鋸岳にはもう登頂済みなので、鶏冠山さえ登っておけば、残りは金と暇の問題だけだ。 折角の遠征なので鶏冠尾根を稜線まで登り、雁坂峠から戻る周遊コースを計画する。
 今回はT君を誘ったので、幕営山行は止めにして甲武信小屋泊りにする。 甲武信小屋に予約を入れるときに鶏冠尾根を登る旨を伝えると、「ほぅ…鶏冠尾根、2000m以上は雪があるよ。」と、 妙な物言いをされるが、わたぼうは「登山道に踏み固まった雪があるからアイゼン持って来いよ。」位の意味しか捉えず、 準備を進める。
岩を縫って流れる廊下状の鶏冠谷
岩が濡れて滑り易く徒渉にひと苦労
 登山前日の午後に碧南を発ち、西沢渓谷へ向かう。 同行者ありで小屋泊まり、道があるコースを歩くとあって、わたぼうは端からハイキング気分である。 道の駅みとみを通り過ぎ、西沢渓谷駐車場の様子を伺いに行くと、道路の真ん中に牝鹿がいてビックリする。 狭い西沢渓谷駐車場はパスし、広くてトイレが綺麗な道の駅に引き返して車中泊する。

 朝起きると昨夜の曇り空から一転して快晴模様である。わたぼうは日中の暖かさを予想して短パンで歩き出す。 今日のコースなら14時までには甲武信小屋に着けるんじゃないかと、相変らずハイキング気分である。 国道に出ると可愛そうに昨夜見た牝鹿が車に撥ねられて死んでいる。夜中は大型車ばかり走ってたからなぁ…。
 東沢を吊橋で渡って一段登ると、「警告:東沢は通行禁止」の看板がある東沢登山道の入口だ。 ここで鶏冠山を往復するという単独行の若者が早足でわたぼうたちを追い抜いていく。 東沢登山道は程なく河原に下り、わたぼうたちは渡渉場所を探すが、東沢は水量が多くて飛び石伝いでは渡れそうもない。 仕方なく裸足になって渡渉するが、雪融けの水は冷たく足が凍ってしまいそうだァ〜〜。
ミツバツツジ咲く鶏冠尾根下部の道
 東沢左岸の河原を少し進むと川岸が岩壁になり、左岸台地に上がる明瞭な踏み跡を辿る。 踏み跡は間もなく険悪な様相の鶏冠谷に吸い込まれていく。 対岸に鶏冠山登山道の標識が見えるが、谷の岩は滑りそうで渡れず、わたぼうたちは少し遡ってから渡る。 無事に渡れたは良いが、今度は谷沿いに登山口まで下れずに困る。右岸の急斜面を木に掴まりながら何とか登山口まで下る。
 流石に鶏冠山、出だしから難所続きであるが、尾根に取り付くと一般登山道と変わらぬ良い道になる。 ミツバツツジや石楠花の花が咲く中を一本調子の登りが続き、第1岩峰直下から攀じ登るような急登が現れ出す。 ストックが邪魔になり、わたぼうたちはザックに仕舞い込む。 道は第1岩峰を巻くように左手にトラバースしていくようになる。
 わたぼうたちの行く手に酷い惨状が現れる。今年は雪が多かったのか、至る所で倒木がトラバース道を塞いでいるのだ。 先人達が踏み越えた跡が有るので何とか越えることができるが、酷い場所では道が完全に倒木で埋まってしまい、 迂回路も転落すればただでは済まない様な急斜面を木に掴まって登る。このままでは鶏冠山登山は非常に危険だろう。
第1岩峰のトラバース道は
倒木が折り重なってグチャグチャ
 嫌なトラバース道が終わり、わたぼうたちはホッとひと息、再び急な尾根道を登っていく。 次の難関は第2岩峰であるが、楽々直登が可能である。 大絶景の第2岩峰で景色に見惚れていると、朝わたぼうたちを追い抜いた単独行の若者が鶏冠山から戻って来る。 いやぁ早い!…でも、ザイルを担いでいるぞ…聞けば、下るときにザイルが欲しい岩場があるそうな。 わたぼうたちは一寸不安になる…。
 少し進むとザイルで下ったという岩場が尾根を塞いでいる。ただ、手掛かりや足掛かりがあるため、頑張れば登れてしまう。 もうこれで終わりかと思っていると、再び岩場が登場する。 さっきの岩場より短いものの、手掛かり足掛かりが少なく非常に手強い。 T君は「足が攣る〜!」と叫びながらも正面突破、わたぼうは手前にある立木を利用して何とか難関を突破する。
 続く第3岩峰は右手に下り、巻き道を辿って稜線に戻る。 わたぼうたちは稜線を北上して次の登りに掛かるが、途中で鶏冠山山頂を通り過ぎてしまったことに気付き、 荷物をデポして来た道を引き返す。巻き道の分岐から南へ行くと間もなく山梨百名山の標柱がある鶏冠山山頂である。 危うく通り過ぎてしまう所だった。ふぅ〜危ない危ない…。 (帰ってから正しい鶏冠山山頂は巻き道分岐の北側ピークであると知った。)
第2岩峰から第3岩峰への岩尾根
難所が2箇所待ち構えている
 鶏冠山(第3岩峰ピーク)は大絶景、遥か眼下に東沢が流れ、その向こうに国師ガ岳の大きな山体が鎮座している。 早朝は雲ひとつなかった空だが、今はすっかり曇り空になっている。 それでも薄日が差して風も無いので暖かく、わたぼうたちは満足感に浸って暫し休憩する。 あと、標高差350mを登れば今日の行程は終わりである。もう楽勝ムードが漂う。
 わたぼうたちはザックのデポ地点に戻って鶏冠尾根を北上し始める。 鶏冠山までと比べれば踏み跡は薄くなるが、道形ははっきりとしているし、テープマークも豊富にあって迷うことは無い。 ただ、尾根に繁茂する石楠花を掻き分けながら登らねばならず、半袖の腕や短パンの足が傷だらけになる。
 わたぼうは第3岩峰の標識ピークが地図上の鶏冠山と思っていたため、本当の鶏冠山山頂を2177mピークと勘違いし、 地図上に無いアップダウンや長い行程に??…になる。それでも、正面に見える木賊山目掛けて尾根上を歩くだけなので気は楽だ。 途中にある展望の良いピークが今にして思えば、2177mピークだったのか?。
石楠花を掻き分けて木賊山に登る
足元はグサグサに腐った残雪
 次の2190mピークの下りから残雪が現れ始める。グサグサに腐った雪で、下に隠れた石楠花の薮に嵌まりまくりになる。 雪の上を歩いた痕跡が全く見られず、ひょっとすると今シーズン鶏冠尾根を辿るのはわたぼうたちが初めてなのだろうか…。 わたぼうたちはスパッツを付け、慎重に目印を追いかけながら木賊山への長い登りを進む。
 標高2300m位でわたぼうたちは目印を見失い、尾根を適当に登り始める。 歩き難い雪道の上、T君の足取りが重くなり、14時小屋到着は絶望的で、15時も過ぎてしまうかもしれない。 さらに追い討ちをかけるように頭上で雷がゴウゴウ鳴り始める。 土砂降りにならないかとわたぼうはハラハラするが、ラッキーなことに雷は徐々に東に遠ざかっていくようだ。 わたぼうは心底ホッとする。
 山頂部の平坦地に差し掛かり、わたぼうは小ピークを山頂だと思って進むが、未だずっと先にピークが見えてガッカリする。 石楠花が隠れた残雪に嵌まりまくりの小鞍部を越えて林床をさらに進めば、今度こそ人が歩いているのが見える。 やったー!遂に主稜線縦走路に到着だ。木賊山山頂は縦走路を西に直ぐのところで、標識は「木」の字しか見えない雪深さだ。
ルート不明の木賊山直下の残雪帯
雷が鳴って蒼くなっている
 木賊山からひと下りで甲武信小屋に到着する。今日の行動はこれで終わりと思うとわたぼうは嬉しくなる。 小屋に入るといきなり、小屋番の親父さんからわたぼうの短パン姿を見咎められる。 まぁ、外は1m以上も雪が積もっているのだから当然だろう…。 わたぼうにしてみれば、言われて初めて自分が短パンだったことに気付いた位(寒くなかったの)である。
 またもやラッキーなことに小屋に入ると同時に激しく雨が降ってくる。それもアラレやヒョウ混じりの雷雨である。 わたぼうたちは甲武信岳登頂をパスし、服を着替えてビール片手に薪ストーブの前に陣取る。 至福のひとときを過ごしていると、カッパで身を包んだ登山者が次々と到着する。 薪ストーブの上はみるみる干し物で一杯になる。
 一緒に薪ストーブを囲んでいるグループが途中で抜いてきた単独行のことを心配している。 口から泡を吹くくらい疲れ切っている様子なのに、まだ登ろうとしていたらしい。 ただ、幕営用具を持っているようなので、甲武信小屋まで着かなくても何とかはなりそうだということである。 小屋の親父さんも大変心配している様子だ。
鶏冠尾根通行止の分岐標識
1m程の残雪に埋もれている
 17時半からの食事は定番のカレーライス、食事の後はビデオの上映会だ。 わたぼうはビデオをパスして再び薪ストーブの前に陣取る。 隣の蒼ざめた顔色の単独行と話をすると、東沢を登ってきて18時に小屋に着いたばかりらしい。 暗くなる直前で遭難一歩手前(人のことは言えないが…)の状況だったようだ。 世の中いろんな人がいるニャ〜。(わたぼうは既に酔っ払っている。)

 夜中まで周期的に激しい雨が降ったが、明るくなると晴れている。 わたぼうたちはまたまたラッキーとばかり6時に小屋を後にするが、もう既に曇ってしまっている。 猫の目のようにコロコロ変わる天気である。ノーアイゼンで歩き出すが、朝の雪は硬く、直ぐにアイゼンを付ける。 再び木賊山を越えて間もなく、雪に埋もれた鶏冠尾根通行止の標識がある。昨日はもっと木賊山山頂寄りに出たんだっけ…。
 木賊山からどんどん下ると雪が少なくなってくる。わたぼうたちはアイゼンを外して進み、笹平の避難小屋に着く。 まだ、疲れてないので破風山まで頑張って登ることにする。再び雪が深くなると破風山山頂に到着する。 「破風山」「破不山」の両方の標識があり、どちらでも良いようだ。 そもそも語源になった屋根の妻の部分も「破風」「破不」どちらでも良いから当たり前か…。
雁坂峠の下り、峠沢右岸沿いの道
やたらと倒木が多くやっかい
 次の雁坂嶺には、少し下ってからダラダラと緩やかに登れば到着する。 後は下りばかり、わたぼうたちは雁坂峠で稜線を離れ、昔ながらの峠道を順調に下っていく。 稜線はガスガスだったのに、山腹は薄日が差し込んでいる。 わたぼうは暑くなってまたもやTシャツ、短パン姿になって歩いていく。
 峠沢の右岸沿いになると鶏冠山のトラバース道のように至る所で倒木が道を塞ぎ、河原や山腹を巻いて行かねばならなくなる。 よっぽど春先の雪が多かったのだろうか…。左岸に渡ると非常に良い道になり、暫くして車道に降り立つ。 しかし、長かったのはここからで、道の駅まで1時間近くも車道歩きを強いられる。笛吹の湯で汗を流して碧南に帰る。

 後日、ネットでニュースを見ていると、驚いたことにわたぼうたちが下山した翌日に木賊山で男性の滑落死体が発見されている。 わたぼうが真っ先に思い付いたのが、口から泡が吹くほど疲れ切っていた単独行のことである…。 通常であれば木賊山で滑落しそうな場所は殆んど無く、疲れた足がもつれて転落したのだろうか…。真偽の程は判らない。