昔、吉浜村の高平という所に、長者が住んでいました。
長者には、たいそう美しい娘がいて、目の中に入れても
痛くないほどかわいがっていました。

娘はだんだん成人して、ますます美しくなり、あちらこちらから
お嫁さんに欲しいと申し込まれましたが、どうしても
お嫁にいくのはいやと、首を横にふっていました。
蛇抜け伝説
 
     
 
 長者が糸を追って竜田の川渕までくると、急に糸が乱れ、
からまっていて、一匹の大蛇が喉に針を突き立て苦しんでいました。
長者はそれを見て、嘆き悲しみました。

 そして、ふたたび姿をみせるなよと、のどの針を抜いてやると、
大蛇は衣が浦の海の上を渡って、対岸の生路村の方へいきました。
そしてふたたび姿を見せることはありませんでした。

 「蛇抜け」と呼ばれるようになった所には、海をいつまでも
みつめる娘と、娘を見守るように立つ長者の姿が、やがて
光りはじめた朝日に染まって、いつまでも立ち尽くしておりました。

                           おしまい   娘は言われたとおり、若者に尋ねましたが、優しく微笑むだけで
答えませんでした。娘の口から若者の住む所も聞き出せない長者は、
ある日、木綿針に糸を通し、若者の着物の
すそにぬいつけておくようにと、娘にいいつけました。

 夜明け近く、娘の部屋から若者が帰ると、長者はひとすじの木綿糸の
行方をつけて行きました。糸は、娘の部屋の欄間をとおって軒先に出て、
月の光に照らされて、明るい野道に伸びていました。