第6巻:オペラ編曲集(Liszt at the Opera)その1 お勧め度:C

編曲ものは是々非々などとぬかした私はオペラ編曲ものをあまり好んでいません・・・と、当初このページを公開した時には書いていたのですが、全57巻の紹介文を書き終えた今は大好きになってしまいました。全部で6巻12枚ある「オペラ編曲集」の中でも知名度の高い曲が集まっている巻です。

最初は全然受け付けなかったのです。リストを感じられず、時代がかった原曲の空気がうっとうしかったからです。そのうち、リストは編曲に個性を刻む気はなかった、というのが頭というより体で分かってくると、原曲の空気より単にピアノ音楽としてどう聞こえるか、という問題になってきて、すると現代では殆ど「忘れられた」とはいえ、かつては有名だった曲、この巻ですと「ファウスト・ワルツ」「イゾルデの愛の死」「ノルマの回想」等は中々いいな、と思えてきました。私自身ようやく19世紀の普通の聴衆の基準に少し近づけたわけです。といっても原曲の影が受け付けにくい曲もまだあります。

「かつて有名だった曲」では取り上げられ方も最近上向きになっているようだ、とはいいながら、オペラ編曲集全部コレクターズアイテムのようなものともいえます。個人的には今のところ「その4」(第42巻)の方が好きではありますが、最初に挑戦するなら、やはりこの「その1」だろう、のCです。勿論2枚組の中身はA〜Dクラスまで玉石混交です。

CD1:

1)ウェーバー「魔弾の射手」序曲(1846)、調子があまり良くなかったのか、ハワードさんなんだか多少危なっかしい・・と思ってます。おかげで落ち着かない。曲は良くも悪くもなし。 

2)「ドンファンの回想」(モーツァルト「ドンジョバンニ」より)(1841,1877)、原曲も編曲としても最も有名なものの一つですが、ちょっと長くないですか? 早く最後の楽しいシャンパンの歌が来ないかな、と待ちかねてしまう。

3)「ヴェルディ”アイーダ”よりフィナーレ」(1879)、非常にデリケートでピアノ編曲として非常に成功していると思います。

4)「チャイコフスキー”エフゲニー・オネーギン”よりポロネーズ」(1879)、第2巻のポロネーズ第2番を難しくしたような曲。こういう曲は原曲関係なしで楽しく聴けますが、そうしたらそうしたで、例えば同じく第2巻のポロネーズ第1番と比べたら見劣りすることになる。

5)「グリンカ”ルスランとリュドミラ”より行進曲」(1843,1875)、個性的な曲です。聴いて楽しいかというと、、、もっと楽しい曲ならいくらでもあるぞと思ってしまう。

6)「ヘンデル”アルミラ”よりサラバンドとシャコンヌ」(1879)、最初のコラールから美しい。本当は「”泣き、嘆き、憂い、恐れ”の主題による変奏曲」と同じカテゴリーでもいい曲のようです。S番号ではそうなってますし。でもそう見てしまうと分が悪いか? それでもそこそこ高い評価にはなります。

7)ベルリオーズ「ベンヴェヌート・チェリーニ」の2つの動機による「祝福と誓い」(1852)、第5巻に続き、ベルリオーズというだけでうまく行っているような気がします。

8)「グノー”ファウスト”のワルツ」(1861)、CD1の最後を飾るこの一枚最高のお勧め。理屈抜きで楽しく、最後はグロテスク寸前なまでにド派手なコーダ、ここをハワードさんとしては珍しくぶちかましてくれていて気持ちいい。リストオリジナルのワルツの中ではメフィストの1番が比較対象にぴったりですが、なかなか甲乙つけがたい。

 

CD2:

1)ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」より「イゾルデの愛の死」(1867)、これは演奏も含め全面的にいいです。

2)「ラメンムーアのルチアの回想」、3)「ラメンムーアのルチアの葬送行進曲とカヴァティーナ」(以上ドニゼッティ「ラメンムーアのルチア」より)(1835-36)、長すぎるという理由で出版社に分割させられたそうですが、、、1つずつ聴いても長くて単調です。集中して聴こうとしても続かない。

4)「HALLOH! - JAGDCHOR UND STEYRER AUS DER OPER TONY (from Duke Ernst of Saxe-Coburg-Gotha's Tony, oder Die Vergeltung 」(1849)、誰も原曲にも作曲者にも興味を示すまい、ということであえて下手に訳す危険は冒しません。作曲者はヴィクトリア女王のいとこにあたる人とかで、原曲は月並み調のオペラの類型的クライマックス、なのでしょうが、リストの編曲がぶんぶんいっていて、これは十中八九原曲より断然凄そうです。

5)6)「”アフリカの女”の肖像」(マイヤベーア「アフリカの女」より)(1865)、部分的には素晴らしい所が多々あるのですが、2トラックしめて19分近くではこっちがもちません。「ルチア」よりはいいと思いますが。

7)8)9)10)「AUBERのテーマにより3つの小品」(after 1846?)、3つの小品の前にイントロがついて4トラックで実は原曲は不明、それはともかく、このCD2を頭から聞いていると、大抵このあたりはもうぼんやりして、早く「ノルマ」が来ないかな、という気分。改めて聴きなおしても、まあまあきれいな曲ですが、それだけです。

11)「ノルマの回想」(ベッリーニのオペラ「ノルマ」より)(1841)、CD2はCD1に比べて見劣りして、ひたすら冒頭と最後だけでもっている気がします。原曲の知名度なら同ランクの「ルチア」とどこが違うのか分かりませんが、「ノルマ」ならわくわくするのです。私何と原曲を全く知りませんが、それこそあちこちの美味しいメロディをつなげたのでしょう。それらが皆実に美味しくてうれしくなってしまう。この演奏、おしまい近くの有名な難所も淡々と過ぎていくので一部マニアには物足りないといわれていますが、これでいいじゃないですか。

TOPへ リストの部屋へ 第5巻へ 第7巻へ