第7巻:詩的で宗教的な調べ お勧め度:A

メインの「詩的で宗教的な調べ」が1枚目の後半から2枚目の前半にまたがっていて、前後にも主に中期の宗教的テーマによる小品を集めた2枚組。全般に押し付けがましくてうっとうしい、という感想になっても仕方がないと思いつつ、2枚目後半も無視して、Bにとどめておこうか大分迷ったお勧め度Aです。私自身は宗教とは無縁の人生を送っていますが、こういう宗教的作品はむしろ好きです。

冒頭がこの2枚組に7つも入っている「アヴェマリア」(しかし一番有名なのは7曲のどれでもなくて、シューベルトの歌曲の編曲でしょう、これは第31巻と第33巻)のうちの1862年と1868年作曲の2曲、ひたすら美しい。・・・もう少し気の利いたコメント書けないものかね?・・・ついで「祈り」の初期バージョン、「Hymne du matin」、「Hymne de la nuit」(hymne は”賛歌”ですが・・・後の曲を「夜の賛歌」と訳していいのかしら?)と1847年作曲の世界初録音が続きますが、皆美しい。この3曲、実は「詩的で宗教的な調べ」の1847年の草稿の第1〜3曲で、続きの第4〜11曲は第47巻に収録されています。

トラック6が単独曲の「詩的で宗教的な調べ」、何ともややこしいのですが、上記1847年のシリーズ、及び後年の最終形としての10曲セットと同名です。題名の由来は何れもラマルティーヌの詩集です。基本的に7/4で書かれているというのは解説読むまで気がつきませんでした。1833年作曲の初期作品としては注目すべきアヴァンギャルドだ、とハワードさん書いてますが、そういうこと抜きにして聴いてしまうと、まとまりと言うか、つながりが今ひとつ良くない。例えば詩の朗読の伴奏曲だったとしたら、この準備不足の場面転換も分かるような気がします。解決しない終結は何なのでしょうか?

一枚目のトラック7から本体の「詩的で宗教的な調べ」。なかなか全曲をまとめたCDがない、というのも知名度にばらつきがある1845年から1852年作曲の10曲です。規模のばらつきも大きい。有名なのが第3曲と第7曲、余り演奏されないのが第2,5,8曲らしいですが、私はこのCD買うまで有名2曲しか聴いていませんでした。また続けて聴いたからどうなるものでも無さそうで、その点でも曲集としての知名度が上がらなかったのは分からないでもない。しかし「巡礼の年」の「第1年」よりはっきり上、「第2年」と比べても引けを取らない中期の名作集だと思っています。

第1曲「祈り」、「加護」という訳し方もあるようです。美しき宗教的作品の1つの典型と思います。初期バージョンを変えたというより伸ばした曲で、その分うっとうしさも増えたかもしれません。第2曲「アヴェマリア」はここにある7曲中一番魅力の乏しいのが入ってしまった、と思ったらこの曲だけが1840年作曲なんですね。

第3曲「孤独の中の神の祝福」最も有名で最も長い曲。ゆっくりですが、重音を弾くのにかなり手を伸ばさなければならない曲で、その点ではハワードの演奏すら完全な滑らかさとは言えません。穏やかな流れの中で高揚と静寂を作るこの曲は名曲の名に恥じないものがあります。

第4曲「死についての瞑想」、単独曲の「詩的で宗教的な調べ」の焼き直し、やっぱりつながりが悪い曲のまま。第5曲「主の祈り」、短い曲です。コメントに困る。第6曲「目覚める子達の賛歌」、これはいい。ハワードで聴いてから練習しています。いずれ人前で弾いてもいいかもしれない。「愛の夢第3番」より控えめな上品な曲で、ついでにいうと弾くにも簡単です。

第7曲「葬送曲」から2枚目に入ります。この曲はホロヴィッツ(2つありますがRCAの方)の爆演を聴いてしまうと他のは物足りなくなりますが、ハワードは彼なりに健闘していて、ここでは有名曲そっけないの法則の例外になっています。この曲をショパンの死と結びつける伝承がありますが、作曲時期も合わないし、リスト自身ハンガリー独立運動の死者に捧げた、と言っており、結論の出た話になっています。これも自分で弾こうとしたことがありますが、高速オクターブのクライマックスは到底弾けたとは言えません。

第8曲「パレストリーナによるミゼレーレ」不思議な曲ですから有名にならないのは分かりますが、魅力はあります。こんな曲作っている間に後期につながる道ができたのかな,と思います。第9曲(アンダンテ・ラクリモーソ)無題ですが、スターバトマーテル=悲しみの聖母、でも良かったような短調の美しい曲。第10曲「愛の賛歌」落ち着いた、しっとりとした賛歌です。

トラック5から20まで、世界初録音6つを含み、小品が約50分続くのですが、さすがにこれだけ続くと金太郎飴的印象はぬぐえません。ここではアルバム構成も何もあったものではありません。同じフィルアップでもCD1の前半の方が好きです。トラック7の「アヴェマリア」(1862)はオルゴールのような精妙な響き、トラック10,11(第1稿1870年と第2稿1872年)の「アヴェマリア」はどこかで聴いたような、と思ったらワーグナーの「ジークフリート牧歌」でしたね。トラック15の「アヴェマリア」(1881)はさすがに少し怪しい雰囲気を出しています。あとは、、、実際にCDにあたってみて下さい!

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