第28巻:ダンス&マーチ お勧め度:A

1枚目は、久しぶりに有名といえる曲が並んでいるのですが、1枚目のおしまいから2枚目にかけて14トラック中10トラックまでが世界初録音のマーチ集。マイナーマーチ集では1枚に収まらないし、それに「スケルツォとマーチ」を加えても2枚には足りないので、ワルツもポロネーズも一応済んで半端になって来た舞曲系の残りを強引にくっつけた?2枚組です。これまで1枚目ばかり聴いていたのですが、2枚目も聴いてみれば悪くない。アルバム構成もなにもあったものではないですが、総合Aは文句なしです。

冒頭が大曲「スケルツォとマーチ」(1851-1854)です。・・どのくらい有名な曲なのでしょう。その昔に素人(但し文句なしの一流素人)の演奏を聴いてぶっとんで以来知っていたものですから、個人的には有名曲のようなイメージがあるのですが、解説を読んだ印象では「忘れられかけた大曲」、そんなものですか。ホロヴィッツの生前未発表分としてリリースされたCD(CBS)を見ても「極めて稀にしか演奏されない」、どうもそんなもののようですね。ロ短調ソナタよりは短い(演奏時間12分)ですが、ロ短調ソナタに対しても卑下することなく巍然と立つ異形の大怪曲です。とてつもなく難しいようですが、広く知られて欲しい曲です。ロ短調ソナタ忌避者への処方にも向きそうに思います。

ハワードの解説によると、リストの弟子で、タウジッヒも弾きこなせず、一人ビューローだけが弾けたのみ、という演奏の難しさが忘れられかけた一因と思われる、単一楽章中に複数楽章の内容を織り込む点で、「演奏会用大独奏曲」(第3巻)とともに「ソナタ」(第9巻)の先駆をなし、またそのスケルツォ部分は一連の「メフィスト」の音楽(ファウスト交響曲、ワルツなど)の先駆をなす、なるほどハワードさんの言うとおりでしょう。しかしこの曲が好き、という人種は皆、しかるべく演奏された場合のこの曲の圧倒的演奏効果に惹かれているはずなのです。その点でハワードの演奏は、まあ優良可の良、というところでしょうか。ホロヴィッツのは大分楽譜から離れていて、刺激的ではありますが、その割に良くない(左手のオクターブを大幅に省略しているのは、わざと回避したか、それとも度忘れに襲われたのをアドリブで誤魔化した?と勘ぐってすらいます)ので、それよりはいいと思います。

次が「Petite Valse favorite」(1843)、意味は「お気に入りの小さなワルツ」、またまた第1巻のワルツの前身(のそのまた第2稿)、殆ど第1巻の最終形(Valse-inpromptu)と違いません。その次の「華麗なるマズルカ」(1850)も大した曲ではありません。

半音階的大ギャロップ」(1838)はヴィルトゥオーゾ時代のリストのリサイタル・・・ピアニストが一人で一夜を持たせる演奏会形式の発明者もリストということです・・・の最後を常に飾っていたという、それはそれは派手派手しい曲です。ハワードが適任とは全然思いませんが、頭を空っぽにして聴いてください。

次のイ短調の「ギャロップ」(1846)は忘れられていた作品ということですが、晩年のチャルダッシュを思わせるところがある佳作です。とはいえ、それならチャルダッシュを聴いた方が楽しい、とも言えます。「Festpolpnaise」(1876)、祝祭ポロネーズと訳してよいのでしょうか、作曲年代に似合わず、ショパンにも無いほどまでに形式ばったポロネーズで面白くありません。

次にハンガリーの舞曲チャルダッシュが3曲続きます。と、書いている私も、どういう律動を持てばチャルダッシュになるのか存じません。さて、単に「チャルダッシュ」(1882)と命名されたその先頭は、1分半の落ち着かない曲。Fisの音で解決しないまま、次につながるので、私は前振りの曲と思っています。

そのFisの連打で始まる「チャルダッシュ・オブスティネ」(1882)=執拗なチャルダッシュ、私はひそかにリストの最高傑作の一つだと思っています。わずか3分強ですが、第1巻の「メフィストワルツ」と「忘れられたワルツ」各2〜4番と同じく、「意味」をほおりだして「音楽」が走っています。後世に残る大作を作ろうとした時には空振りしてきた(オラトリオの方の「聖エリベザスの伝説」など、本人は力入れていたようですが・・・という出来)ケースも少なくなさそうなリストですが、そのまごう事なき天才性がむきだしのまま裸で走ってしまったような異形の作品と思っています。最後の終わり方がとってつけたようですが、よしとしましょう。「死のチャルダッシュ」(1881)が3曲中では一番規模が大きくて一番有名なようですが、ちょっと鈍重すぎませんか?

「メフィストポルカ」(1883)は一連の晩年メフィストファミリーの一員ですが、ポルカのためか、大人しくなっています。悪いというわけではないですが、やっぱりメフィストには哄笑してもらわねば。

そしていよいよ一連のマーチに入ります。何か祭典があると行進曲はつきものです。高校野球の入場行進で毎年流行りの曲を編曲して行進曲に仕立てるがごとく。リストの時代でも状況はご同様で、入場行進を実際にしないとしても曲の需要はあったわけで、そういうその場のための行進曲が作られては忘れられていきました。リストの作品の場合、不当にも忘れられかけたと思われる作品がいくつもあるのですが、ことマーチについては、リストのものに限らず消費されて忘れられる運命にあったのです。それをわざわざ掘り出していて聴いてみると、結構悪くないじゃないか、といっているわけです。(その意味で、「スケルツォとマーチ」は「一連のマーチ」には属しません。)

その中では、全般に2枚目のほうがいい。1枚目のフィルアップに回った「Festvorspiel」(1856)、「ハンガリーのスタイルによる英雄的行進曲」(1840)、「ハンガリー突撃行進曲」は一連のマーチの中でもつまらない部類と思います。がんばって2枚目にチャレンジしてください。といっている私も2枚目を聞きながら気持ちよくなってしまったことが何度かあり、説得力ゼロに近いですが。

冒頭の「ゲーテ祝祭行進曲」(1849,1857と1872に改定)は長いのですが、冒頭という地の利を得ていることによるかもしれませんが、なかなか良い方だと思います。そして最後がおなじみ「ラコッツィ行進曲」(1863)、これはオーケストラ版からのピアノ編曲バージョンだそうです。

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