第29巻:ジプシーの歌(ハンガリー狂詩曲の原形) お勧め度:C

長くなるのではしょった英文タイトルをちゃんと訳すと、「ハンガリーまたはジプシーの歌と狂詩曲」、ハンガリー狂詩曲集の原形、2枚組全22曲です。これがかなり面白い。ハンガリー狂詩曲の第3番から第15番までの素材は大体揃うようです。勿論毎度おなじみ「ラコッツィ行進曲」もあります(第13曲ですが第10曲にも顔を出す)。

ハンガリー狂詩曲自体が一曲の中に複数のエピソードを含む曲ですが、このCDでは、その耳に覚えのあるエピソードが次々ランダム再生されるような感じです。原形といいながら細部は既に出来上がっていて、最終形と違うところでも未熟さを感じることは無く、もう一つのアドリブ=ハンガリー狂詩曲集自体、巨大なアドリブともいえます=と聞こえます。もしかしたら個々の曲にまとめ上げる段階で、最終形の方が統一と変化をよりうまく与えているかもしれませんが。

というわけで、コレクターズアイテムですが、結構面白い、ただし丸々ハンガリー狂詩曲と同じ世界に居て、それ以上のものではない、と迷って結局積極的お勧めは控えました。でも個人的には第21巻より好んでいるような気もする・・・気にしないことにしましょう。なおハワードの出来は第57巻の最終形よりずっといいと思います。珍版だと燃えるのか、単に調子の問題かは分かりません。

ハンガリー狂詩曲集を聞く前に買ってしまう人は普通いないと思いますが、その場合でも十分楽しめるアルバムではあります。最終形もそうですが、気楽に単純にピアノの音を聞いて、「う〜気持ちいい!」となっていただきたい、と思っています。

「ハンガリー狂詩曲集」につながらなかった曲も基本的に同じ水準を保っています。ので、個別の感想は書きにくいのですが、中でも特に怪しいのは曲集中最大、15分以上要する第20曲、「ルーマニア狂詩曲」でしょう。これが一部で紛らわしくもハンガリー狂詩曲第20番と呼ばれることもあるそうです。第9曲もかなりいい曲と思います。第1曲から第11曲までが1839年から1840年にかけて、第12曲から第22曲が1846年の作曲です。

 

第30巻:オペラ編曲集その3(リゴレット、ローエングリン他) お勧め度:D

予定に相違して、オペラ編曲集の1も2もお勧め度Cにしましたが、ここらでDにしてしまいましょう。1枚目はヴェルディが中心、これが合わない。これだけ数があるところを見ると、リスト様がヴェルディと合わないわけではなさそうで、ヴェルディと私が合わないのでしょう。かく言う私、オペラは長年モーツァルトとヤナーチェクしか聴かなかったのを、近年ようやく「カルメン」「トゥーランドット」あたりに手が伸び始めたところ、ヴェルディはまだ全然駄目です。ワーグナーも最初から最後までとなると「マイスタージンガー」が何とか、だけかなぁ・・・

CD1はウェーバーの「オベロン序曲」(1843)、第6巻の同じく冒頭を飾った「魔弾の射手序曲」で感じた違和感をここでも感じます。どうもハワードが急に下手になったように聞こえて面白くない。

フィガロとドンジョヴァンニの主題による幻想曲」(1842)は、ハワードが補筆完成させた、勿論世界初録音。21分を超えます。リスト=ブゾーニの「フィガロファンタジー」はこのリストの草稿からドンジョヴァンニの部分を取り去ったようなもの、らしいです。そのブゾーニ編でも長すぎると思っているくらいですから・・・・。「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」ではまだ動きがあるからいいですが、「恋とはどんなものかしら」が延々と長い。ジョヴァンニのメヌエットは付け足しみたいで、ブゾーニが引っこ抜いた気持ちがわかるような気がします。

続く3トラックがCD1のメインのはずなのです。全て Paraphrase de Concert と題された、ヴェルディに材料を求めた自由な編曲です。「エルナーニ・パラフレーズ」(1859)、なかなか豪華に始まりますが、その先が単調なように思います。同じ所をうろうろしているみたい。「トロヴァトーレのミゼレーレ」(1859)、これは悪い曲ではないですが、地味です。オペラ編曲の王道ではありません。

リゴレット・パラフレーズ」(1859)、リストのオペラ編曲の中でも最も有名な曲の一つ、のはずなのですが、私には全然ピンと来ません。とにかく花が無い。楽しくも格好良くも無い。なぜ「女心の歌」を入れなかったのでしょう。なぜこの曲がオペラファンタジーの最有名曲になったのでしょう。不思議です。

シモン・ボッカネグラの回想」(1882)はリスト最後のオペラファンタジー、ヴェルディのこのオペラの改作版(1881)に強い印象を受けたリストが取り組んだ編曲、と聞くと、有り難く思えますが、名作とは呼びがたいと思います。

ドニゼッティの有名な「ランメルムーアのルチア」と無名な「Parisina」という二つのオペラに材料を求めた「”ルチア”と”Parisina”の動機によるワルツ」(1842,1850)を、リストは当初 Valse melancoloque 及び Valse de bravoure (何れも第1巻)とまとめて Caprices-valses として出版しており、オリジナル曲であるかどうかなぞリストが気にもしていなかったことの傍証になっています。ヴェルディが苦手な私としては、ここに来てほっとしますが、第1巻に回った2曲のほうが好きです。

CD2はマイヤベーアのオペラによる「悪魔ロベールの回想」から始まります。世界初録音のカヴァティーナが1846年、Valse Infernale(地獄のワルツ)が1846年の編曲です。いいですねぇ、マイヤベーア。「水戸黄門」「遠山の金さん」的安心感があります。リストの編曲もハワードの演奏も第17巻に続いて好調です。

グノーのロメオとジュリエットによる「Les Adieux」(別れ)(1841)、最後の方で一瞬激しくなる以外は静かな曲。大名作ではなくとも佳作でしょう。世界初録音です。

[Schwanengesang und March aus Hunyadi Laszlo」(1847)の原作者 Erkel (1810-1893)はリストの同時代人ではリストの次に有名だったハンガリーの作曲家ということです。どうもモソーニ原曲(第17巻)といい、ハンガリーの他の作曲家の作品の編曲はハンガリー狂詩曲の出来そこないに聞こえてしまいます。後半はそれほどでもないのですが、どちらにしても大した出来とはいえません。これも世界初録音。

ワーグナーの「ローエングリン」による4トラックがCD2のメインのはずなのですが、今ひとつと思っています。第2幕からの「Elsas Brautzug zum Munster」(1852)は「エルザの結婚の行進」と訳すようですが、第3幕のかの結婚行進曲とは別物、これはまあまあ、というところ。

まとめて出されている「Aus Richard Wagners Lohengrin」(1854、1861改作)の方が期待はずれです。まず有名な「第3幕への前奏曲」、とてつもなく難しいそうですが、ピアノ編曲に向いていないようで、私としては原曲をわりあい好きなだけ不満がつのります。ハワードのせいでも無さそうな気がします。続いてなお一層有名な「結婚行進曲」、寂しい、花が無い。第1幕からの「エルザの夢」がこの中ではまだいいです。第3幕からの「ローエングリンの非難」もうまくいっていない編曲に聞こえます。

リエンツィの動機による幻想小品」(1859)は、時代がかった原作がマイヤベーアと近いところにいるのでしょう、むしろうまく行っている方だと思いますが、「悪魔のロベール」と比べても所々隙が見えるように思います。

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