第31巻:シューベルト編曲集その1(ウィーンの夜会他) お勧め度:C

シューベルト編曲集です。3巻に分かれていますが、そもそもハワードの解説が9枚ひと組のつもりで書かれています。無条件に全部揃えるつもりなら何でもないのですが、お勧め度つき紹介というのは取捨選択の勧めなのでありまして、で、3組のなかからお勧めを当然選ぶわけです。ところが、解説はその1から順に読まないと具合が悪くなっています。

音楽を聴くつもりなら3巻中最下位がこの「その1」なのですが、解説はこれが表看板という感じでしっかり書いてあります。個人的には「その2」の「白鳥の歌」ばかり聴いていますが、シューベルトの編曲集で「アヴェマリア」と「魔王」を欠いては一般向きには若干お勧めしにくいところがあります。「その3」は上記2曲は勿論、「白鳥の歌」もあるし、「セレナーデ」「菩提樹」、全部揃う・・・のですが、ここに収めてあるのは全部別稿だよ、という解説を読んでしまうと、本稿とやらを聴きたかったのに!となりそうです。

というわけで、第31巻の曲目に入る前に、解説に書いてあることを抄意訳します。(この巻に限らず、ハワードの解説は自動翻訳機にかけたら無茶苦茶になりそうな美文調で、この抄訳でも特に最後の所は自信ありません。)

少年リストはウィーンでベートーベンには会ったもののシューベルトには会っておらず、当時のリストとシューベルトとの接点は、ディアベリワルツ変奏曲プロジェクトに共に参加したくらいだった。しかし間もなくピアニストリストは「さすらい人幻想曲」他の独奏作品、室内楽作品を取り上げるようになった。改宗したリストのシューベルトへの情熱は衰えることなく、編曲物は50年にわたり作られることになった。(以下、リストがどのくらい頑張ったか、の長い詳細説明は略して)シューベルトへの情熱の最大の証は歌曲及び連弾曲の膨大な編曲である。

シューベルトのような作曲家が生前、あるいは死後長きに渡って、無名に留まっていたというのは今となっては想像するのも難しい。19世紀初頭にはリートは本質的にローカルなものと思われていた。他ならぬリストの編曲がこの音楽をコンサートホールに持ち込んだのである。

ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウも「ドイツの歌を世界的に普及させたのは、今日さんざん軽蔑されている (much scorned) ピアノソロへの編曲をやったリストである」と書いている。もはやシューベルトのオリジナルが忘れられる心配は無いのだから、もう一度リストの膨大な編曲に目を向けてもいいだろう。

この3巻9枚では、現時点知られているシューベルト編曲ものの全バージョン違いを収めている。バージョン違いが多数あり、中には研究者にも知られてないものがあったりして、ほんの数小節だけの違いのものまで取り上げるのは大変なのだが、リストのシューベルトへの情熱に報いるべく敢行した。

リスト擁護派のピアニストではなくて、かのフィッシャー=ディースカウの意見となれば、文句無く受け入れていただけると思います。さて、第31巻本体に入りましょう。なお、私シューベルトファンでもありますが、この3枚組中で元曲を知っていたのは「軍隊行進曲」「アヴェマリア」「セレナーデ」「魔王」の超有名曲4曲だけだったことを予めお断りしておきます。

CD1は丸々「ウィーンの夜会」(1852)、全9曲です。この曲はシューベルトのワルツとレントラー、全35曲から取ってきたメロディーをつなぎあわせた接続曲、だそうです。とにかくこの編曲には元曲のメロディーが明瞭に残っているそうです。出来栄えは・・悪くない、というところでしょう。シューベルトの小市民的なところは大いに親しみやすいのですが、「夜会」の華やかさを演出してしかも俗っぽさに堕する手前で踏みとどまる点で、ロッシーニに原曲を求めた「音楽の夜会」(第21巻)の方を評価します。この1枚は、Bにするのは躊躇するCというところ。

CD2は「ハンガリーのメロディ」(1838-1839)から始まります。原曲は連弾曲「ハンガリー風ディヴェルティメント」D818。全3楽章なんと50分弱、の割に印象薄いです。第1楽章と第3楽章は、シューベルトの4楽章の方のイ短調ソナタに通じるような「お経調」です。第2楽章「ハンガリー行進曲」はこの後もいやというほど出てきますが、それがさらに印象を損ねます。

シューベルトの4楽章のイ短調ソナタはシューマン以来絶賛することになってますから、これを好きな方には向いていると思います。個人的意見ですが、シューベルトのD番号で800番台は実は不調の時期ではないかと思っています。最悪が4楽章の方のイ短調ソナタ、ついで「ロザムンデ」四重奏曲、ハ長調ソナタ、ニ長調ソナタ、というあたりは、少し前の「未完成」「さすらい人幻想曲」、800番台も終わり近くのト長調のソナタと四重奏曲、どちらと比べても見劣りする、と思いませんか? で、この原曲も見劣り組ではないかと勝手に思っています。

Die Rose」(第1稿、1833)でようやく歌曲が出てきます。薔薇、なのでしょうが、少なくとも有名な「野薔薇」ではありません。ここに来るとほっとします。歌曲編曲としての水準くらい、ということは前の3トラックより大分いいです。「Der Gonderfahrer」(1883)はどうやらゴンドラ乗り?、これは少し落ちるかな?

CD2の残りは、「ウィーンの夜会」の第6曲(1869)と「ハンガリー行進曲」(1879)の”Sophie Menter のための編曲”版が続きます。あまり違わないので、詳しくはCD現物と解説にあたってください。この1枚だけならDにしかねないところです。

CD3は行進曲が並びます。最初3曲が連弾曲からの1846年の編曲、「大葬送行進曲」はD819の第5曲が原曲、抑制系のしっとりした葬送行進曲、しかし18分半はいかにも長すぎる。次が単に「大行進曲」、D819の第3曲とD859が原曲、やっぱり14分弱は長い。「性格的大行進曲」はD886の2曲を中心にD819の第1,2曲が出て来るそうで。それだけつないで12分半なら退屈をまぬがれるかわりに、散漫になります。

次が有名な「軍隊行進曲」(1870)ですが、弟子のタウジッヒの編曲が有名なったのでリスト先生はご自分のを引っ込めちゃったらしく、おかげでこれが世界初録音。穏当な編曲です。耳に馴染みがあることもあって、前の3曲よりずっと良く聞こえます。次が「ハンガリー行進曲」のルッカ版(1840)、あれれ、解説が全然無い。

ようやくまともな世界にたどり着きました。ただし、ここの3トラックは何れも第1稿で、後の版の方が主流となっています。「アヴェマリア」(1837)、いいですね。長いコーダは若干趣味悪い。「セレナーデ」(1837)、「魔王」(1837)、何れもいいですね。後の版と余り変わらない気がします。CD3は最後で取り返したとはいえ、別で聴けばいいというところもあって、やっぱりお勧め度Cというところ、です。

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