第49巻:シューベルト&ウェーバー編曲集 お勧め度:D

第31〜33巻の3巻9枚の他にまだ有ったか、のシューベルトですが、この1枚では1曲を除き、ピアノ独奏曲が原曲で、前の3巻とは趣が違います。ヴィルトゥオーゾ生活から引退して20年も経っても、あるいは引退したからこそ、かもしれませんが、世界一の大ピアニストとしてビッグネームでありつづけたので、リストの名前を楽譜に載せるのはむしろ出版社側が望むところとなり、リスト校訂と銘打った楽譜(と言っても自筆譜の照合といった現代的意味での校訂は一切しなかったようです)が大量に出されることになりました。ベートーベンのソナタの場合は指使いの指示を与える程度のものだったのに対し、シューベルトのピアノ曲の一部に対しては、もう少し色々やったわけですが、むしろこの方が19世紀らしいと言えそうです。その色々やった曲を録音したのがこのCDの前半、従って基本的にはシューベルトの音楽なのです。

さすらい人幻想曲」(1868)の原曲が部分的に異様に難しいというのは弾いてみればすぐ分かるところです。そこでリスト先生は難しすぎる所には手抜きの方法を、一方で余裕あるところでは更に効果を上げる方法を、オリジナル楽譜に対する ossia variante =こう弾いても良いかもね、として、それもオリジナルとは区別して印刷させたわけです。その ossia variante ばかり拾って弾いたのがトラック1〜4、原曲から細かいところが多数変わっていて、その大半は趣味悪く聞こえますが、リストの趣味が悪いと即断せずに、その背景を踏まえるべきでしょう。「即興曲」D889の第2、3曲(1868)も同様です。後者で分散和音を左手に任せて右手がアルペジオで旋律を取るところは中々いいと思います。

以上3曲、第13巻のバッハのオルガン曲のピアノ編曲に近いところがありますが、バッハの場合はオルガン曲をピアノで演奏可能にするという積極的な意味が認められるのに対し、こちらではやらずもがなとも思えるし、リスト先生自身こうしろと言っているわけでもなし、資料としての価値以上のものは認めがたいのです。

シューベルトの歌曲の編曲、「Die Rose」(中間段階稿、1837)は徹底録音3巻9枚組で洩れていた稿です。いい曲ですが、第31巻及び第33巻の2つの稿を特に上回るものではありません。

後半はウェーバーものです。「祝祭序曲」(1846)の原曲は管弦楽、「コンチェルトシュトゥック」(1868)の原曲はピアノ+管弦楽、従って普通の意味の編曲になります。「華麗なるポロネーズ」(1851)の原曲はピアノ曲で、これをリストがピアノ+管弦楽に編曲した際についでに(?)ピアノ独奏用も自分の版を作っちゃったらしいです。何れも原曲を知らないのですが(!)、これらの編曲をさほど面白いとは思いません。

 

 

50巻:オペラ編曲集その5(主に異稿) お勧め度:C

曲目としては第42巻とかなり重なります。どちらかというと早い時期の録音の方が演奏の状態がいいと思われるこの大全集の後半にあって、目立ってハワードさん好調だった第42巻の方で聴いた方がいいと思いますので、積極的には勧めませんが、決して悪くはないです。個人的にはハワードでリストを聴くCDとして、「パガニーニ練習曲」の第47巻よりずっと楽しい。リストを聴き続けているうちに、オペラファンタジーに対する私の感覚が、この紹介シリーズを始めた頃と大きく変わってきているのは否めません。いずれ「その1」から「その3」も聴き直してみましょう。この2枚組、何故か世界初録音の印が一つもついていませんが、本当かな?

CD1はマイヤベーア原作の「”ユグノー教徒”の回想」(1836、第1稿)から、第42巻の第3稿(1842)が約16分の曲ですがこちらは23分を超えます。もはやマイヤベーア=リスト大好き人間に成り果てた私の耳には、第3稿ではばっさりカットされたアンダンテ部分すらいとおしい。演奏の出来は第42巻の方を取りたいですが、差し引きの優劣は微妙と思っています。

Auber 原作の「”フィアンセ”のチロル風大幻想曲」(1842、第3稿)の一部なら第42巻の「チロルのメロディ」として出てきています。第2稿はこの稿と実質同一と言うことでこの大全集には収録されていません。冒頭からしばらく芸も花も無い曲ですが、1/3を過ぎたあたりから楽想は貧弱なままでも音がやたらと増えてくると、それなりの面白さはあります。ワーグナーの”タンホイザー”による「ヴァルトブルク城への客人の入場」(1852,1875)は、第30巻の「ローエングリン」とのセットとして出版されました。トラック2の曲と比べると原曲の出来が大分違うようで、だてに有名にはなっていないことを認識させられます。無理しない編曲で親しみやすい反面、ピアノの音を楽しむ要素は乏しいとも思います。ちょっとハワードさんドタバタしてます。

再びAuber原作で、「オペラ”ポルティシの唖娘”よりブラヴーラ風タランテラ」(1846、第1稿)、トラック2よりは大分ましな曲で、異稿がやはり第42巻にあります。第42巻では、ドッコイショながら楽しげだったはずですが、ここで聴くと、モタモタが目立ちます。それぞれを並べて聴き直して同じ感想になる自信も無いですが。CD1の最後はアレヴィ(1799-1862)原作の「”ユダヤの女”の回想」(1835)、この初版楽譜の表紙が、天駆けるペガサスに足一本でぶらさがりつつ竪琴をかきならす男(横顔の感じはリストには似ていない)のイラストだというのをたまたま知っております。でも、その表紙に相応しい、派手派手技巧見せびらかし曲最右翼かというと、もっと上が色々あります。色々な意味でまあまあのオペラファンタジーではないでしょうか? ついでに言うと、ハワードさんの出来も。

CD2冒頭の「オペラ”ニオベ”の主題による大幻想曲」(1835-1836)の方が余程その表紙に相応しいと思います。Pacini(1796-1867)原作によるこの曲は1837年のパリでのタールベルクとのピアノ対決、西洋音楽史上最も有名な”世界タイトルマッチ”、の場でリストが弾いた曲です。どちらかというと楽想は貧弱な方だと思うのですが、冒頭から快速に飛ばして聞かせます。ワーグナーの”ローエングリン”より「祝典劇(第3幕前奏曲)と結婚行進曲」(1854、第1稿)、異稿は第30巻です。第30巻では気に入らなかった祝典劇の部分は、この巻ではそれほどでもありません。結婚行進曲の方はやはりもう少し花が欲しいと思ってしまいます。

ベルリーニ原作による「オペラ”夢遊病の女”の主題による幻想曲」(1839、第2稿)の第3稿も第42巻にあります。第1稿と第3稿が似ていて、この第2稿が比較的違っているらしいです。楽しく聞き流している分には稿違い気になりませんが、やはり第42巻のほうがさらに良かったような気がします。ロッシーニ原作「オペラ”ウィリアム・テル”より序曲」(1838)の原曲は余りにも有名です。編曲も、「嵐」の部分などベートーベンの「田園」に迫る出来栄えで十分楽しめるのですが、一番有名な最後の部分では同音連打の切れが今一つ。1830年代のフランスの楽器ならともかく、現代のスタインウェイで弾くのは大変なのだ、とハワードさん言い訳しています。

最後がドニゼッティの原作による「”ルクテツィア・ボルジア”の動機による幻想曲」(1840)、これの第2稿にあたるものも第42巻にあります。CD2中では一番楽しい。ピアノがよく鳴っています。第42巻もこの巻も、録音日は5日ずつしか取っていません。そして第42巻の最後の録音日の翌日がこの巻の最初の録音日なのですが、多分どれかの稿違いをこの連続する2日間で録音したのでしょう。ブックレットには書いてありませんが、この「ルクレツィア・ボルジア」だったのではないか?と勝手に思っています。

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