「セミラーミデ」

簡単な粗筋と解説がこちらにあります。故・永竹由幸氏著「痛快!オペラ学」にある、「このオペラ・セリアに肩を並べるものは、モンテヴェルディの《ポッペアの戴冠》と、のちのジュゼッペ・ヴェルディの《オテッロ》くらいしか見当たりません。」とまでの賛辞に期待を膨らませ、

最初にアンダーソンがセミラーミデを歌っているのを見て、そこまでのものかな?と、やや期待外れと思い、
カバリエのを見てボケボケ画質ながら大いに認識を改め、そしてつい先日
ディドナートのを見てもう一段認識を改めて自作字幕を付け始めた、という経緯です。

 

手持ち音源

マリオッティ指揮バイエルン国立歌劇場、ディドナート、バルチェローナ、Esposito、ブラウンリー、アルベルギーニ

2017年2月26日ということは、丁度1ヶ月前の公演です。声が上手く取れている録音で、どの歌手も素晴らしく聞こえているのですが、その中でもディドナートが圧倒的です。「メゾがアルサーチェではなくてセミラーミデ歌うんだ、ふーん」と思いながら見始めたのですが、それどころではありませんでした。上記永竹さんの本にある「古代バビロニアの女王セミラーミデの陰謀と悲劇。ロッシーニの音楽は妖艶さや凛々しさ、そして不気味さを見事に描出します。」との記述が、初めて腹に落ちました。

ロッシーニが、そろそろ高音が厳しくなり始めた姉さん女房のコルブランに歌わせることを意識して書いたセミラーミデ役は、最高音でもHどまりですから、ディドナートなら全然問題ないのでしょう。というより、演出に恵まれなかったチェネレントラ(2種類)は言うに及ばず、最初に見て大いに感心したロジーナ(セヴィリアの理髪師)すら遥か置き去りにするようなディドナートの大当たり役であるように思いました。体格は立派な割りに声はかわいいバルチェローナと一緒に歌っても、音域では上に回るディドナートが迫力では圧倒しています。何も知らない息子と、妖怪オババの組み合わせなのですから、これが正解と思えてきます。

妖怪オババとしての迫力といい、真実を知ってから後の、何と言うか、透明感のある存在になっていく姿といい、歌も演技も言うところありません・・・最初の方のアルサーチェを待ちわびている場面で少し上がりにくくなっていたのなど、傷にもなっていません。エルミオーネ(ロッシーニ)とか、メデア(ケルビーニ)とか、マルティ(マクロプーロス事件:ヤナーチェク)とか、カバニハ(カーチャカバノヴァー:ヤナーチェク)とか、ディドナートに歌ってもらいたい役を次々思いついてしまいました。(ここまで概ね2017.03.26)

 バルチェローナは、歌は普通に一流、なのでしょう、ディドナートのように突き抜けた凄さはありませんが、舞台姿では、ちんちくりんのホーンには大差をつけて勝ります。
 Espositoは初めて見る人のような気がします。最新映像をせっせと追い求めなくなって久しいので分からないのですが、今をときめいている人なのでしょうか。そうであってもおかしくない歌唱と演技でした。

 ブラウンリーのイドレーノは、ブラウンリーとしてもイドレーノ役としても私の見た中ではベストです。異国の王子という設定がバレエ隊を連れての登場により視覚的に納得できるものになっています。もとより声は申し分ありません。
 視覚的に納得と言うと、アゼーマ役がさらに凄いです。ストーリー上はヒロイン役なのに声楽的には殆ど無視されていて、どの舞台でも扱いに困っている風の役になるのですが、美人歌手をあえて禿頭にした上に、とにかく凄まじい衣装で、視覚的に存在感をカバーした感じです。この二役については、演出が特にいい仕事をしたと思っています。

 アルベルギーニは、ダンディーニ(チェネレントラ)のイメージだったので、当初は少々違和感・・・チェネレントラならアリドーロで出る人がやる役なのでは?と勝手に思い込んでいたので。しかし、この人もいい声で歌っています。なんだか妙な演技をさせられる場面が、とくにこの人に多かったのですが、勿論これは歌手に対する苦情ではありません。

 以上、全歌手が素晴らしい歌唱を披露しているのですが、その中でもディドナートが圧倒的存在感を放っていました。「メデア」あたりと比べると、主役の独演状態からは遠い作品のはずなのですが、テオドッシウがメデアを歌ったのに負けない存在感です。カーテンコールで、最初に舞台にただ一人ディドナートが現れたのも当然、と思えました。

 オペラの指揮者の良し悪しはよく分からないながら、マリオッティの指揮も素晴らしかったような気がしています。
 良いと思うところと変なところと、どちらも色々あった演出ですが、差し引きでは大幅プラスでしょう。大詰めの明るすぎる合唱の場面で、合唱隊は舞台に出さず、セミラーミデとニーニャ親子の悲劇の幕切れという演技だけにしたところも、感服しました。

自作字幕の方は、イタリア語は今日完成しました。英語と日本語も7割方できてますから、来週くらいには完成できそうです。(ここまで2017.04.16)・・・一応完成しましたが、最終チェック中ということにしておきます。(ここまで2017.04.23)

自作字幕公開しました→こちら
ネット上にスペイン語訳付きリブレットはあるので、そちらから伊語字幕をまず作りました。伊語歌詞/英語訳詞つきボーカルスコアは、伊語歌詞のタイミング確認のみに使い、英語訳詞は殆ど見ずに済ませました。英語字幕は、メトのDVDのものが丸々と、ミュンヘン公演の際に放送されたらしい字幕が最初1時間分ほど欠けた形で operashare にありました。テキストデータとして使える前者をベースにして、それが意訳過ぎると思ったら、後者を参考にしました。日本語字幕は以上のあれこれをみて、作りました。3つとも字幕タイミングは共通にしています。Rare Opera でもないので英語頁での紹介は見送りました。(ここまで2017.04.29)

Nationaltheater Munchen 26-02-2017

Gioachino Rossini: Semiramide
Melodramma tragico in zwei Akten
Libretto von Gaetano Rossi nach Semiramis von Voltaire
In italienischer Sprache (Neuproduktion)

Musikalische Leitung, Michele Mariotti
Inszenierung, David Alden

Semiramide, Joyce DiDonato
Assur, Alex Esposito
Arsace, Daniela Barcellona
Idreno, Lawrence Brownlee
Azema, Elsa Benoit
Oroe, Simone Alberghini
Mitrane, Galeano Salas
L'ombra di Nino, Igor Tsarkov

Buhne, Paul Steinberg
Kostume, Buki Shiff
Video, Robert Pflanz
Choreographie, Beate Vollack
Licht, Michael Bauer
Regiemitarbeit, Frauke Meyer
Dramaturgie, Daniel Menne
Chor, Stellario Fagone

 

コンロン指揮メトロポリタンオペラ、アンダーソン、ホーン、レイミー、オルセン

最初に購入して見たのがこれ。2005.02.19に書いた感想がこうなっていました。今は、「アンダーソンのこの役への不向き感」がもっと強くなっています。

amazonで「日本のプレーヤーでは再生できません」と書いてあっても実際は問題ないのが多いのですが、これはリージョンコード1でした。リージョンフリーのプレーヤーで無いと再生できません。
ロッシーニのオペラ・セリアの頂点、並び立つものは「ポッペアの戴冠」「オテロ」のみ、という過激な賛辞に期待が膨らんだのですが、私の好みでは「オテロ」と並べるのはどうかな、と思います。歌心にあふれた大傑作だと思うのですが、3時間半はとにかく長い。テノールの出番全部カットくらいで丁度良かった?
ホーンはオバサンだと思ってみればオバサンにしか見えないのですが、少年と思ってみると少年に見えるところがお見事です。レイミーも絶好調で、この二人は見ても聞いてもすこぶる気持ちいい。アンダーソンはいかにもアングロサクソンという容姿と月並みな演技で、セミラーミデの怪しさ不気味さの表出となると合っていませんが、歌は安定しています。ストーリー上は不要?のオルセンもしっかり歌っています。

 

ロペス=コボス指揮スコティッシュ室内o.、カバリエ、ホーン、レイミー、アライザ

その次が、HouseOfOperaで購入したこれ。画質は、普通の基準で言うなら、かなり悪いです。2006.10.28に書いた以下の感想に付け加えるところは特にありません。(このあたり2017.04.16)

アンダーソンの雰囲気と演技力に疑問が深まって手を出してみました。セミラーミデ登場の瞬間、歌いだす前で既に「勝負あった」。妖怪オババに見えなくてはセミラーミデには成れないのです。歌い始めるとカバリエの一本芯の通った歌が差をさらに広げます。 ホーンもこちらの方が歌も動きも自然に見えます。レイミーの存在感がやや薄くなるのは出来が悪いのではなく、単に周りが充実したから、でしょう。この主役陣ならば、ロッシーニの最高傑作の一つというのも納得がいきます。 アゼーマ姫が歌も台詞も全部カット(少し出るだけの黙役)で、イドレーノの存在が一段と浮いてしまうので無理からぬところもありますが、アライザは「演技なしの歌いっぱなし」に過ぎる気がします。オケはそんなに上手くなさそうですが、キビキビした指揮もいいです。
エクサン・プロヴァンスの上演です。男声陣の衣装が、裃というか、三方か凱旋門を身にまとっているような妙なもので最初は驚きましたが、あまり広くない舞台に象徴性の強い演出には好感が持てます。メトのが余りにも娯楽大作的に豪華過ぎて雰囲気を壊している気がしてきました。たまに乱れますが、画質はHauseOfOperaとしてはマシな方で、音質はさらにマシです(DVDAA293)。字幕無しなので全く初めての方には厳しいでしょうが・・。

 

Hindoyan指揮ロレーヌオペラ

ディドナートのに発狂してから、手持在庫を漁ってみると、セミラーミデ役で、デヴィーアとか、リチャレッリとかの全曲動画が出てきました。全部は見ていられないので、主にセミラーミデが真相を知らされる前後を見てみましたが、概ねカバリエの路線で、それならカバリエの方がいいな、という感じでした。リチャレッリのは画質が特に悪く、デヴィーアのもそれよりマシなだけ、ディドナートがセミラーミデ役に求められる水準を一段上げてしまった今となってからふり返るのも何ですので、詳しい紹介は控えることにしました。

というところで、この5月のホヤホヤの収録がナンシーから来ました。目玉はカウンターテナーによるアルサーチェです。これはこれであり、でしょう。全体に、セミラーミデという古典劇を、芝居小屋サイズに一旦小さくして、その小さくした歌芝居を演じている、風であり、ミュンヘンの大スケールの舞台とは大分違います。小さいスケールの中で歌手はそれぞれ好演しているとは思います。主役をアルサーチェに譲ったようにも見えるセミラーミデ役も、ディドナートを思い出さない限りは好演、だったでしょう。
ただし、オーロエと亡霊を衣装も変えないまま二役、というのは、いくらなんでも賛成できません。亡霊出現もオーロエの策謀だった、という演出なのかと思って見直しましたが、そうでもなさそうで、そうなると、亡霊がただオーロエに見えてしまうだけ、になってしまいました。(ここまで2017.05.20)
なお、衣装は、大体は現代風なのですが、時々訳の分からない格好で出てきます。あと、アゼーマの取り扱いは全くの無策、です。(2017.05.28にこっそり追記)

Opera national de Lorraine, 07+09.05.2017
Gioachino Rossini: "Semiramide"

Orchestre symphonique et lyrique de Nancy
Chef d'orchestre Domingo Hindoyan
Metteur en scene Nicola Raab

Choeur de l’Opera national de Lorraine (direction Merion Powell)
Choeur de l’Opera-Theatre de Metz Metropole (direction Nathalie Marmeuse)

Semiramide : Salome Jicia
Arsace : Franco Fagioli
Assur : Nahuel Di Pierro
Idreno : Matthew Grills
Oroe / L'ombre de Nino : Fabrizio Beggi
Azema : Inna Jeskova
Mitrane : Ju In Yoon

Costumes Julia Muer
Lumiere Bernd Purkrabek
Decors Madeleine Boyd

 

 

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