ソナタ4番再建計画

発端

それは2003年12月初旬のある日に届いた、福島県在住のSさんからの一通のメールから始まりました。12月末に発表会があってソナタ4番を取り上げることにしているのだけれど、仕上がりが遅れていてあせっている、アシュケナージのCDしか持っていないので、ギレリスをコピーさせてもらえないか、という内容でした。

ギレリスのCDは輸入盤で、現在あまり出回っていなさそうで、内容も内容ですから、「20世紀のピアニスト」シリーズで晴れて国内版CDになったガブリーロフ、あるいはアムランを探すことを一旦お勧めしたのですが、両盤とも演奏会までには手に入りそうにない、ということでした。本来著作権法違反ですが、廃盤だ何だと簡単には入手できない状態にしておいて、著作権だけ主張されるのはおかしい気がして、それまで殆ど使っていなかったCD−RWの使い方を調べて、手持ち10種類の中から、ガブリーロフ、ギレリス以下プロの演奏7つをCD−Rにコピーしたのです。(コピーを推奨しているわけではありません、通報しないで下さいね。)

ここまでが余りにも簡単だったのに悪乗りして、自分の演奏録音のテープを再生してパソコンのラインインに突っ込んでwavファイル化して、同じCD−Rに焼いてみて、自作スピーカーで再生してみると、素人ならではの突撃演奏が思っていた以上に良い音で聴けます。

こりゃいいわ、というわけで、自家用に昔の仲間たちの演奏のCD−R化を始めました。スクリアービンのピアノソナタ4番の私の演奏は、1982年と1993年、11年を隔てて2つの録音があるのですが、全ての発端になったこの曲を家内に聞かせたところ、

「めちゃかっこいいー」「正月に親戚が来る時に弾いたら?」

と言います。どちらもその時点での精一杯の演奏で思い出深いのですが、演奏会直後から全然弾けなくなったのも共通しています。ちょいと練習してすぐに元に戻るようなシロモノではない、というのはこちらにさんざん書いたとおりなのですが、しかし1982年、1993年とくればそのまた11年後は来る2004年です。Sさんとのいきさつも何かの縁、これを機会に練習してみようか、と思い立ったのでした。(ここまで2003.12.30)

 

中断と突然の再開

このコーナーを書き始めたのが、2003年の暮れだったのでした。
「正月に親戚」の際には、勿論この難曲が間に合うはずも無く、ショパンのソナタ3番の第1楽章を弾いて、これがまた、自分的には非常に不出来で、それ以来この曲を弾かなくなったのでしたっけ。
それはともかく、引き続きスクリアービンを再建するはずだったのですが、2004年は実は事件続きで、それどころではなかったのでした。オペラ中心に淡々とサイトを更新していただけで、ピアノには手が付かない状態でした。。。。

で、再建計画は完全に計画倒れのまま、月日は過ぎました。

そんな中で、2003年10月(=最初の計画を立てる直前)に産まれた長男は無事に成長し、5才からピアノ教室に通わせるまでになりました。1年経って最初の発表会は2010年7月に先生宅でのホームコンサートと決まりました。長男はソロでブルグミュラーの「アラベスク」(ちょっと背伸びだけど頑張りました)、私との連弾で「天国と地獄序曲」で出演と決めたのですが、そこで私が悪戯心を起こしまして、

「先生、私と連弾やってくれませんか!」 と申し込んだら、「いいですよ!」 と二つ返事で引き受けてくださったので、ドビュッシー作曲「管弦楽のための夜想曲」より「祭り」(サマズィーユ編曲)をウン十年ぶりにやることになったのでした。うまくいけば冒頭頁で公開している演奏と差し替えてやろう、と目論んでいたのですが、合わせた回数の差が出て、前の録音の出来には及ばなかったので、冒頭頁で公開しているのはウン十年前の演奏のまま、なのですが、ご父兄方にはインパクトあったようです。

先生からは「次回の発表会はホールでやりますけど、私が裏方やりながらソロ演奏するのも大変なので、トリでソロ弾いてくださいよ。」と、言っていただき、最初はお世辞95%くらいかと思ったのですが、2週続けて言っていただいたので、敢えて真に受けることにしました。

で、またまた家内に相談しましたら、またまた即答で「あれが断然格好いいー!」と、ソナタ4番をご指名です。
(私) 「あれ、めちゃめちゃ難しいんだよ」
(家内)「しっかり練習した方がいいのなら、次回じゃなくて次々回以降に回してもいいけど」
(私) 「いや、老化で衰える一方だから早い方がいい」
(家内)「じゃあ次回でいいじゃない」
と背中を押してもらいました。

ちなみに、フォーレのノクターン6番とか、リストの「結婚」とかも弾いて家内に聞かせましたが、「華が足りない、発表会に来ている子供達が寝る」という理由で即却下でした。そうかもしれません。保険としてリスト「メフィストワルツ3番」(これも先生宅の書棚で見つけてコピーさせてもらって練習始めた)は残すものの、1年後の演奏会に向けて本気でソナタ4番の再建を考え始めたのでした。

それから2ヶ月余り、勿論完全には弾けないものの(この曲を本当に楽譜どおりに弾くのは全人類に不可能です)、過去2回に遜色ない程度には出来そうな自信がついてきたので、この頁も再開することにしたのでした。(ここまで2010.10.09)

 

第2楽章をゆっくり練習

かつてこの曲を演奏会で弾いた後は、2回とも急速に全然弾けない状態になりました。自分の実力に対して難しすぎるだけのこと、とも言えますが、後に残るような練習が出来ていなかった、という実感もありました。振り返ってみれば、遅いテンポでの練習が出来ていなかったのです。

BSで放送された番組で、違う曲ですが、アムランが「難しいところはまずゆっくり練習するんだ」と言っていました。昔から言い尽くされた言葉ではありますが、かのアムランが改めて強調していたということを改めて肝に銘じました。ただし、肝に銘じるだけで出来るなら前から出来ていたはずです。なぜ、以前は遅いテンポでの練習ができなかなったのかというと、特に1回目では「遅いテンポのままで弾き続けることができなかった」のです。

シンコペーションが多用されている第2楽章にテンポ感が追いつかず、すぐ速くなってしまっていたのです。特に問題となるのが展開部から出てくる4つ目が欠けた4連符で、これは本番のテンポでは4:3などと気にする暇も無く弾き飛ばしてしまうことになるところです。以前はそういうものだから、と4:3を合わせる努力すらしなかったのですが、そうなると遅いテンポで練習しようとしても4連符が出てくる度にテンポが不安定になり速くなっていった、ようです。たかが4:3ですから、この曲より後に譜読みした9番や10番、特に10番と比べれば大したことは無く、今なら数えられます。2回目に演奏会に出した時でも数えられたはず、と思うのですが、こちらは「我慢が足りないから弾き飛ばしてしまった」面が強かったような気がします。「急がば回れ」が分かっていませんでした。視力と共に反射神経も落ちる一方だと思うのですが、二流アマチュアの場合にはまだこんなところに「伸びしろ」があったりするのです。

とにかく、心を入れ替えて、第2楽章をテンポを保って練習することにしました。本当なら、付点四分音符=40以下から始めるのでしょうが、多分60以下では弾いていません、それでも譜読みを始めた時以来の遅いテンポになります。これでまず、昔ちゃんと譜読みしていなかったところも細かくチェックです。指使いも修正して覚えなおしています。

指示テンポは160です。これだと本当に速く、Prestissimo volando という表記に相応しいのですが、練習過程では一旦忘れるしかありません。これが120くらいだと、スピード感はまだありますが、表情記号としてはAllegroの範囲に入ってくるようなイメージになります。本番ではコーダ以外はこの範囲に入れたいところです。100を切れるくらいだと、イメージはAllegrettoになっていきます。弾むような曲想なので、幾らゆっくり弾いてもイメージはAndanteにもAdagioにもならずAllegrettoよりは下がらないのですが、そうすると適度なAllegrettoの範囲というものがあるだろうが、ということになって、まあ、それが88から100の範囲かと思います。このくらいのテンポで、Allegrettoのイメージで、できるだけミスタッチをしないように弾いています。そうすると、

提示部はさすがに大体弾けます。展開部にはいってすぐの両手の上昇音形は指使いを見直して安定しました。4連符が出てきて直後は、以前はテンポが定まらずに弾いていたのだな、と分かります。左手の幅の広いアルペジオは大体当たりますが、むしろ左手がシンコペーションをやっている中での右手の上昇音形の方が落ち着く必要があります。第1楽章主題が帰ってくるところのfffはひっぱたくしかないのですが、その伴奏音形をff、は私には殆ど無理で、mpにして第1楽章主題を強調することになると思います。その後暫く4連符が続いてから再現部に入るのですが、ここも昔はテンポが定まっていなかったのを実感します。

再現部は最初から忙しく、その5小節目からを「左手軽業」、9小節目からを「両手軽業」と、かつて書きましたが、今弾くと休符が入らない「左手軽業」の方が厳しいです。アルペジオですが、とにかく幅が広すぎます。「両手軽業」では再現部の10小節目と12小節目のそれぞれ2つ目を音をどちらの手で取るか、が問題で、楽譜の指示は左手、この場合は左手がその次の音まで2オクターブ以上吹っ飛ぶことになるので、私は右手なのですが、そうすると右手のポジションがギクシャクした動きを強いられます。ここは両方試して右のままに決めました。

と、再現部までAllegrettoのイメージを保って弾くよう心がけているのですが、コーダに突入すると、そこからは自動的にPrestoに近いイメージになるのです。なにせコーダ手前までは8分音符の単音のアルペジオを何とか当てる状態なのに、コーダでは32分音符のオクターブ跳躍すらあるのです。これを含めた左手の大跳躍までテンポを保つのは諦めて、連打の部分だけでもテンポを保つようにする、早い話が減速するのですが、それでも音符の数が圧倒的に多くなるので、イメージは急加速です。こんな風に聞こえる演奏を聞いたことがない、ということはプロも一人残らずコーダの入りでテンポを大きく変えているのですが、そこで緊張感が途切れてしまうかどうか、が演奏全体に対する印象を大きく左右しているのでしょう。

第1楽章は最近でも殆ど練習していません。演奏会で弾いた2回とも譜面を出して弾いていました。次回はそのあたりを書いてみましょう。(ここまで2010.10.17)

 

第2楽章をますますゆっくり練習

第1楽章のことを書くつもりだったのですが、従来同様全然練習していないのです。何故練習しないのかを書くにしても、ちゃんと練習を軌道に乗せてからにしようと思うので、第2楽章の近況報告にしておきます。

メトロノームが手元に無いので、テンポは時計の秒針で測ってたりするのですが、ともかく、Andanteでも弾けるようになったように思います。テンポは60を余裕で切る位。ここまでゆっくりにしても、何時の日か120以上のテンポで弾いててやるぞ、という気合を載せて弾けるようになったように思います。

ゆっくり練習を徹底している効果で、提示部のみならず、展開部も大体弾けると言えそうになってきましたが、かわるがわる暗譜の怪しい箇所が浮上してきたりします。#6つの譜面ですので、譜面を画像として暗記、は将来的にも全くできそうに無く、音と指の記憶に頼るのですが、そうするとシンコペーションが左右それぞれどう入るのだったっけ?とか、勢いだけで覚えていたところが綻んで、記憶の空白ができてしまいます。こういうところもテンポを変えて弾く中で顕在化しているような気がします。

60くらいで弾いても、再現部以降を全部当てられることはまず無いのですが、しかし、「当たりっこない箇所」は無くなりつつあります。当てられるはず、と思って弾くので、後ろめたさ無く練習できます・・・ちょっと伝わりにくい気分かもしれませんね・・・。この調子で気長にやります。(ここまで2010.11.21)

 

メトロノーム購入&ちょっとだけ公開

名古屋・栄に家内と出掛けた際にカワイを冷やかしに行って、ふと思い出してメトロノームを購入しました。電子式のちっちゃい奴です。ついでにショールーム内試弾室のSK−6で第2楽章を弾いてみました。浅い・軽い・鳴る・部屋が狭い、と4拍子揃って、出だしから大きな音でびっくりするのですが、叩いていくとどんどんデカイ音がして、またまたびっくりしてしまいます。横で聞いていた家内は「圧倒された」そうです。但し、楽器に載せられてしまい、普段より随分速くなってしまいました。

さて、自宅にてメトロノームをつけて練習してみます。自分自身の「88のつもり」は大体合ってましたが、部分的に速くなる箇所があるのを別のところで辻褄合わせをしていたのも分かりました。それと出だしが難しい。第1楽章を練習したくない理由の一つが、第1楽章から突入すると、第2楽章を行け行けドンドンで始める以外どうすればいいのかよくわからない、というところもあったように思うのですが、第2楽章の頭からメトロノームに合わせて入る、というだけでも中々上手く入れません。第1楽章から accel で attacca で突入、というところは余程腰を据えて練習しないといけない箇所なのだ、ということだけ再認識して、後回しにしようとしています。

メトロノームをつける時は最近は88にしています。但し88だと既にコーダは余裕がなくなります。メトロノームを最後までつけたまま、というのは、うまく行っても100までかな、という感じです。左手の16分音符や32分音符のところはメトロノーム通りには行かないとしてそれ以外は120くらい、というのが最終目標でしょうか。
なお、こんなことはやらない方がいいと分かってはいるのですが、試しに一度だけ160もやってみました。展開部に入ったところでポジション移動すら追いつかず、断念しました。

こういう調子でメトロノーム有り無しの練習を交互にしていたところで、昔の仲間の新年会があったので、第2楽章だけ披露してきました。ピアノはベーゼンドルファーの92鍵、SK−6以上に軽くて浅かったのですが、鳴りは程々で部屋も広いので、鳴り過ぎ感はそれほどでもありませんでした。が、昔の仲間の前ということですぐ調子に乗ってしまって、出だしのテンポにも注意したはずなのに途中から100以上にまで上がってしまい、再現部は外れまくりました。コーダにインテンポに突入!というコンセプトはまあまあうけたのではないかとは思いますが、まだまだ修行が必要です。(ここまで2011.01.10)

 

提示部もやっぱり難しい

まだまだ修行が必要、と思い、なお練習を続けたのですが、行き詰まり感がしてきました。易しいと思っていた第2楽章提示部でもテンポを上げようとするとミスタッチが減りません。そもそも出だしのテンポが定まりません。スランプ脱出のため、ピアノ弾きの感覚だけの話になってしまいますが、頭の中の「対策」を色々試みました。

まず、テンポが定まらないのはリズムが定まってないから、と「判明」しました。第2楽章は12/8拍子の頭から、8分音符2個+8分休符1個で始まりますが、このリズムが元々不安定で、1つ目が不完全小節の最後の音、2つ目が次の小節の1拍目、と受け取られる可能性があります。さらなる問題は弾いている当人までもがその感覚に引きずられるかもしれないところにあります。

高速を意識し過ぎると、こういった休符付きの2連音符は間隔を短くしがちです。その方がシャープに聞こえますが、実態は自分で忙しくしている割にテンポを上げられない状態、になります。提示部でも再現部と同じく、2連音符でオクターブの10度跳躍があります。再現部では音符の数が多いので2連音符であっても自ずとリズムが決まりますが、提示部では周りの音が少ない分、2連音符を必要以上にシャープに弾いてしまい、ミスってしまう、と考えました。対策として、強拍からのものでも強拍に繋がるものでも「2連音符はむしろゆっくり弾く」ことを心がけるようにしました。さらには、「付点四分音符ではなく付点二分音符で数える」というのも加えました。

こうするとシャープさは後退して優しさが出てきます。これはこれで良いかも、と思いました。それを積極的に活かすために、「提示部では叩かない」も心がけるようにしました。楽譜を見ても提示部にはf までしかありません。fffff は展開部の第1楽章主題再現部分で初めて出てきますが、再現部も同じく f どまり、そしてコーダは最後まで全部fff という指示です。提示部と再現部は叩きすぎないでむしろp 側でダイナミクスを確保するようにしました。

これだけやると、余裕が違ってきます。シャープさが後退してモッサリになってもいいや、と開き直るだけでも命中率は上がるものです。行き詰まり感を乗り越えて一段階上が見えてきました=練習の成果を安定したテンポアップに繋げられるようになってきました。久しぶりにメトロノームで確認すると、巡航速度が付点二分音符で54、付点四分音符の108相当です。このテンポでもコーダは限界に近いですから、将来60(120)まで上げられるならその方がいいけれど、54(108)のままでも悪くないかも、と思っています。

 

第1楽章練習開始

第2楽章冒頭が安定してきたので、ようやく第1楽章の練習に着手する気になってきました。思い起こせば、過去2回この曲を演奏会で弾いていますが、一度も第1楽章を暗譜したことがありません。2度目でも第1楽章のコピーを3ページ分譜面台に広げて弾いたのでした(1回目は普通に譜めくりしてもらったような気がします)。3頁目の8分音符連続は、ゆっくり練習して指使いを確定させれば何とかなるでしょう。第2楽章とのつなぎは、poco accel で加速しすぎず、第2楽章のテンポまで上げたらそこで維持する、という感じで上手く行きそうです。

この第1楽章を弾いていると時間が勿体無いような気になってしまうのは過去2回同様否めないのですが、ここ最近は第1楽章から通しで弾くようにしています。全曲の見通しがついてきたので、プロの演奏を改めて色々聞いてみることにしました。すると・・・身の程知らずだとも思うのですが、殆どが「余り参考にしたくない」演奏であるような気がしてきました・・・(ここまで2011.04.24)

 

プロの演奏を聞いてみると

手持ちCDとyoutubeとでかなりの数を聞くことができます。youtubeでは「scriabin sonata 4」で検索するとゾロゾロ出てきます。
その一部を聞いた範囲では、ベストはやはりガブリーロフ(20世紀のピアニストシリーズCDに収録)だと思います。第2楽章主部が最高速でしかも安定しています。コーダも最高速の部類なのですが、残念ながら主部のテンポとの不連続感があります。
アムラン(youtubeあり)も速いのですが、主部で「間」がそこここに入ってしまい推進力を少し損ないます。それ以上に肝心のコーダがありがちなテンポとリズムの処理なのが残念です。アルカンの「コンチェルト」を弾く時の気合でコーダに臨んでくれれば大分違う結果が得られたのではないかと思うのですが。
Attwood(youtube)も速く、乾いた音でアムランとは印象が違いますが、主部のテンポとリズムの扱いでは近いものがあります。コーダの入りは気合十分で、このまま爆走してくれれば一押しにもしたのですが、徐々にありたきりに近いところに落ち着いてしまうのが残念です。
主部はこれらの演奏ほどに速くなくとも、コーダに気合十分で突入してくれればいいのに、と思うのですが、主部の遅い演奏はコーダはもっと遅くなってしまいます。オグドン(CD)なんか、ほぼ半分のテンポまで落ちていたよう気がします。
youtubeのコメントでは絶賛の嵐であっても、幾らなんでもいただけないと思うのが作曲者の娘婿にあたるソフロニツキ(youtubeあり)の演奏です。8分の12拍子ですから4拍子に数えられるはずの第2楽章で、この演奏では拍子も何もあったものではありません。ちなみに、第2楽章を通じて加減速に関する作曲者の指示は一切ありません。
作曲者に縁があったということなら、この曲の演奏で作曲者が一押しにしたという(出典はこちら)、フェインベルク(youtube)の方が遙かに安定し清潔感があります。コーダはこれもありがちな処理になってはいますが、こちらなら絶賛の嵐も納得できるというものです。

その他、全部ではありませんが沢山聞いてみました。どれ一つとして、テンポを落とさず4拍子のリズムを外さずにコーダに突入する演奏がない、というのはどうしたことでしょうか。勿論指示テンポどおり完全に弾ききるのは生身の人間には不可能なのですが、ガブリーロフやアムランならもう少しやりようがあったろうに、とも思いますし、打ち込み作品までが生身の人間の限界に付き合っていては打ち込みで作る意味が半減するのではないか、と思ってしまうのです。

 

録音してみた

今の私が理想とするコーダに多少とも近いものすら見つからない、というところで、突然ですが、自分で録音してアップロードしてみようか、と大それたことを考えてみたわけです。音楽用デジタル録音機で定評があるのがローランドのR-09HRのようですが、ぐっとお安くサンヨーのICR-PS004M(S)にしてみました。

で、早速録音してみました。画面が小さすぎるところにやや難ありですが、録音レベル調整作業も含め、操作は簡単です。最初はピアノマスクも大屋根も全閉のままで、第1楽章は楽譜を見ながら、第2楽章はテンポ54(108)でいいからコーダまでできるだけ維持、多少リズムがモッサリしてもいい、というつもりで弾いてみたら・・・テイク1はその通りの録音になりました。しかし、第1楽章はいかにも不安定です。第2楽章は遅すぎでモッサリしすぎです。これでは自分の以前の録音より面白くありません。音質も少しこもっています。

家内が子供達を映画館に連れて行ってくれた間に録音と再生を繰り返しながら、どう弾くか考え直しました。ピアノマスク全開で大屋根は半開にして音のこもりは少しよくなります。第1楽章は練習不足なりにもう少しなんとかせねばなりません。第2楽章の主部は練習段階はともかく、他人に聞かせるとなるとテンポ60(120)が努力目標ではなく必達目標のようです。しかしコーダは、メトロノミックな正確さを無視して大跳躍ではテンポの貸し借りをやるとしても、私が自分のピアノを弾く限り120を越えると連打をfff で弾けません(もう少し軽いピアノなら弾けるかもしれませんが)。提示部は120を少し越えるくらいで弾いて、どちらかというと速くなりがちな展開部も抑えて、展開部の入りでは落とせるものなら120以下まで落として、コーダに入る直前で108付近まで落とす、という方針に達して得た結果がこちらになります。調律がかなり悪いのは我慢してください。(ここまで2011.05.01)

 

(少し脱線)スクリアービンのテンポ指示について

某所にて少々話題に上ったので、手元にある全音の楽譜でスクリアービンのテンポ指示を確認してみました。

この第4ソナタは第1楽章が Andante M.M.=63 第2楽章が Prestissimo volando M.M.=160 です。そして、第1楽章には rubato や rit. や最後の poco accel といったテンポ変動の指示があります。一方、第2楽章の途中にはテンポ指示は文字通り一つもありません。rattenendo というのが2頁目に出てくるのを何かの減速指示なのかな、と以前は勝手に想像していたのですが、この意味は「控えめに」であり、cresc.の頂点(それも f に過ぎません)の手前で盛り上げすぎないようにする指示なのでした。

Prestoで一気に走る性格では第2ソナタの第2楽章が一番近そうですが、こちらは途中にrit. と a tempo があります。ben marcato il canto も遅くする指示に準じるかもしれません。第3ソナタの終楽章も Presto ですが、ブロックでテンポを変える Meno mosso と Tempo I と Maestoso があります(但し二度目の Meno mosso の後の Tempo I は欠落しています)。さらに途中にも accel や rit. の指示がいくつかあります(但し a tempo は書いてありません)。

次のソナタである第5番は、単一楽章ということもありブロックごとのテンポ変化指示が細かく入ります。さらに、そのブロック内でも accel, rubato, rall., a tempo 等が神経質に大量に書き込まれています。

こう見てみると、第4ソナタ第2楽章のテンポ変化指示なし、というのは前後の作品と比べて際立っていることが分かります。やはりこの楽章はインテンポで弾くのが本当なのではないでしょうか。勿論、作曲者自身が良しとしたのであれば、フェインベルクの弾き方も一つの解決法だと思いますが、楽譜に書いていない大減速を、それこそ猫も杓子も、という感じで真似しなくとも良かろうに、と思うのです。かくいう私自身、インテンポに近づける(=少しは減速するつもり)という方針で弾いてみたら、第2楽章を通して120より少し速いくらいのところを維持してしまった、という次第なのですが。

ある程度弾ける人でないとインテンポだとどうなるのか想像することも困難な曲です。素人の目茶目茶演奏ですが、それでもギレリスのように途中ワープはしませんし、Muench(←ざっと聞いた中の最悪)よりは大概何処を取ってもマシと思いますので、インテンポでどうなるのかを普通の人が想像するのに多少ともお役に立てるのでは、と思っています。もしこれをきっかけに、腕に自信のある方が160インテンポに挑戦して聞かせてくれる、なんてことになれば、それが一番嬉しいのですが。

さらにおまけ。ギレリスは途中ワープの他にもう一箇所やや大きく乱れますが、それらがなければ最高だったかも、と思っています。コーダの前で加速して、コーダにはその半分のテンポで入っているのですが、高揚感の連続性は保たれていて、かなり好きな演奏です。なぜこの大崩壊録音だけ残して録音し直してくれなかったのでしょう。
私の妄想ですが、この演奏会がトラウマになってしまったのではないでしょうか。途中の乱れはあったものの再現部の難所を越えてほっとした瞬間に頭が真っ白になって、なんとか第2主題再現までワープして完全停止は免れたものの、自分自身を誤魔化せるはずもなく、この曲のことを考えようとするだけでプロとして決してあってはならない苦い思い出が蘇ってしまう、そういうトラウマになってしまったのではないでしょうか。
以上何の根拠も無い妄想ですが、それにしても録音し直してくれなかったのは残念でした。(ここまで2011.05.08)

 

第1楽章を初めて暗譜

この曲に初めて取り掛かってからウン十年、なのですが、ようやく初めて第1楽章を暗譜できました。出来てしまえば、何で以前ここまでやっておかなかったのか、と思えてしまいます。楽譜を出さずに座ってそのまま弾けるので、自ずと弾く回数が増えて、それなりに考えて弾けるようにもなります。公開している録音は第1楽章が一番マシなテイクだったので、今聞いてもそんなに変ではありませんが、しかし当時は第1楽章は音を拾うのに必死で、実は殆ど何も考えてはいなかったのでした。

第2楽章では、特筆すべきことはないものの、再びゆっくり目の練習を心がけています。一番意識しているのはやはり第1楽章から入るところになります。第2楽章だけでメトロノームをつける時は最近は 50(100) です。これでも十分ゆっくりになってきました。(ここまで2011.05.22)

 

 

あやうく再建崩壊

毎日真面目に練習していたのですが、突然病気になってしまいました。7月9日(土)の夜、尻と太ももの境目辺りにプツプツできているのに気が付いたのが発端、翌明け方には全身の痒みで目が覚めてしまいました。日曜日一日は、何と凄い蕁麻疹よ、と思いながらも耐えて、月曜日に近所の皮膚科に行ったところ、「蕁麻疹というのは長くとも数時間で跡形も無く消えるのをいうのであり、こういう長引くのは蕁麻疹様紅班というのだ、飲み薬をだすから直ったと思っても1週間飲み続けるように。」とのことだったので、飲めばすぐ直るのか、と思いきや、すぐ再燃してしまいました。全身の皮膚の表面の発疹が一巡したら今度は皮下から盛り上がるような腫れも併発して、腸管まで機能停止したような感じになり、水曜日には総合病院に直行し、その場で即入院となりました。それから24時間持続点滴で抗生剤でどこかにあるらしい炎症を抑えつつ、副腎皮質ホルモンでジャブジャブの状態にして症状を抑える治療が始まり、副腎皮質ホルモンの点滴は途中で量を減らしつつ丸9日間継続となりました。入院中究極の「暇」だったのですが、なにせ点滴が刺さりっぱなしなので、殆ど何も出来ません。ひたすら横になっていて筋力を落とし続けていました。

なんとか最初に言われた予想入院期間2週間よりは早く、11日で退院しましたが、入院前の衰弱期も含めて2週間ピアノを触っていません。加えて足も腕も筋肉が目に見えて落ちています。恐々弾いてみましたが、まあまあ弾けました。多少タッチが重く感じられましたが許容範囲です。腕の筋肉が落ちたのは、右手の4番目の無い4連符の音形を弾くところで少々障りが出ています。再現部の難所の方がむしろ弾ける、というところからして、元々きっちり練習できていないところが露呈した、ということかもしれません。

長いような短いような2週間ですが、その2週間のブランクの後でピアノを弾いて、自分で音楽を作れる楽しさを再発見したように思います。こういう感覚はできれば大切にしたい、と退院翌日の今日は思っているのですが、毎日弾き出したらまた忘れてしまうのかもしれません。(ここまで2011.07.24)

 

 

プログラム決定!

プログラムが決まりました。
  日時:2011年11月20日(日) 13:00〜 (開場は10時くらいから”なし崩し”開場だそうです)
  場所:
刈谷市総合文化センター 大ホール
      JR・名鉄の刈谷駅南口すぐ(歩道橋直結)
第一部がピアノソロでその最後、14番になります。第2部が連弾等で27番まであります。私のソロ以外は純然たる街の普通のピアノ教室の発表会です(ので私のソロ以外は公開しません! 先生は街のピアノ教師の水準を大きく抜けた方ですが、その先生は生徒の連弾のセカンド以外では今回出演されません)。
出演者の予想演奏時間の集計がまだですが、出番は2時から2時半くらい、でしょうか。1541席の大ホールなので、私の演奏を冷やかしに来てくださる奇特な方がもしいらっしゃれば、出入りは自由に出来ます。ピアノはスタインウェイDになるはずです。

さて、最近の出来は、4月に録音したのより多少とも良くなっているのではないか、と思っています。7月以降では、もう少し右手に神経を注ぐように注意しています。第2楽章を通して視線はほぼ左手に釘付け(9割以上?)になっているのに気がついて、視線は向けられないとしても神経だけでも右手に向けるようにしました。そうやってみると、再び第1楽章からの入りが気になりました。第1主題のメロディラインを意識するようにしていますが、結構外したり抜けたりするのが聞こえてしまいます。「提示部もやっぱり難しい」なのですが、少なくともテンポだけは安定してきたつもりです。半分以上はコーダを弾きたくて選んだ曲ですが、そのコーダに至るまでにぶち壊さないようにしたいものです。(ここまで2011.11.06)

 

演奏会無事終了

リハーサルで弾いてみて、残響の長さに多少びっくり、但しびっくりしたとしてもペダルの踏み方を調整できる余裕は殆どありません。自宅のピアノよりは少し軽くて浅く、自分に返ってくる音の大きさが程々でコントロールはやり易いと感じました。本番では、多少早くなったかな、とは思いましたが、概ね気持ちよく弾けました。

で、翌日、自分達で録ったビデオでまず聞いてみました。自分で予期していなかった何箇所かで「走って」しまっていたのを認識して、最初はややショックだったのですが、慣れてきました。過去2回よりは大分良いのは間違いありません。ただし自動設定の録音レベルなので結果としてダイナミックレンジが随分圧縮されてしまっているようです。コーダではそれはそれはデカい音で弾いていたはずなのです。

それよりも、長男のバルトークが凄かった。「ルーマニア民族舞曲集」より第1,2,3,6曲、です。この録音だけ聞いていると、オクターブも届かない、ペダルも届かない、8歳児の演奏とは到底思えません(ええ、親バカなんですけど)。演奏会前日にも演奏会翌日にも全然こんな風には弾けていなかったので、実に奇跡的な演奏を本番でやってのけた、ということらしいです。

会場の設備での収録分もあるのですが、入手が遅くなりそうなので、上記の録画分を暫定公開しました。トップ頁からのリンクのみとなっています。 (ここまで2011.11.26

会場設備による録音と録画を入手しました。映像の方は服の色しか分からないくらいの超ロングなので採用しがたいのですが、録音は断然勝ります。これで聞くと何故か「走った」箇所も比較的気になりません。
というわけで、私のスクリアービンと長男のバルトーク(親バカの自信作です)を、家内の撮影した映像に会場設備による録音を手管を駆使して重ねた状態で、youtubeの一般公開としてアップロードしなおしましたので、よろしければ聞いてみてください。
(ここまで2011.12.11

 

 

宴の後に・・・「凧の切れた糸」を再び繋いで

発表会から4週間が経ちました。発表会演奏に対する心境の変化は上に書いたとおり、ですが、「ソナタ4番」という曲に対しては、1週間くらいは、今までと同じようにピアノに向かって弾いてはいるのだけれど発表会という目標を失っていた、「凧の切れた糸」状態でした。当面の目標を見失った状態で、非日常的高揚に至るこの曲をどう弾けばよいのか良く分からなったのです。そこではっきり思い出したのが、過去2回弾いた後のことです。こういう気分で弾く気を失い、弾けなくもなっていったのだな、と思い出せました。

何の機会に口をついて出てきたのかは忘れましたが、家内の発明した名(迷?)言です。
 「糸の切れた凧」より想起されるイメージが明確だと思いませんか? ちょっと情けないけれど。

この最後の節を発表会後2週間くらいで書いていたなら、副題は「凧の切れた糸」だったのですが、幸か不幸か、ホール収録録音の入手が遅くなっている間に心境が変わってきました。過去2回と一番違うのが、第1楽章を暗譜できていること、のような気がします。演奏会本番も終わったのにわざわざ楽譜見る気にもなれず、そうなると第2楽章から弾くしかなく、目標のある時には気にならなかったその不自然さに醒めてしまったら気づいてしまった、という過去の経緯に対し、今回は第1楽章から弾けるので大丈夫なのです。弾くからには、発表会録音の反省を踏まえて、より地に足のついた弾き方を目指しています。

昨年からは、過去2回以上に仕上げて発表会に出す、のが「再建計画」の目標になっていたのですが、ずっと前から変わらずに大好きな曲です。もっと長期的に再建できれば、もっとうれしいのです。回顧的に弾く曲ではないという信念は「スクリアービン入門講座」を書いた17年前から全く変わりなく、従って演奏会の思い出に浸りながら弾くのは最大級に似合わない曲だと思っていますが、その非日常的高揚を少しだけ日常的幸福感に近づければ、長く弾き続けられそうに思います。

・・・あとは、老化との戦い、だと勝ち目が無いので、老化との折り合い、をどうつけるか、になるのでしょう・・・

(いったんおしまい・・・ここまで2011.12.18)

 

 

「虫干し」

さて、「いったんおしまい」から3年が経過しました。丸1年後に昔の仲間と集まった時には十分豪快に弾けていたように思います。しかし時が経つにつれ、回顧的には弾けないこの曲を練習する機会はどうしても少なくなり、そうなると過去2回よりは時間がかかったもののやっぱり劣化してしまいました。というところで、先日昔の仲間と集まった際にはこの曲を弾かずに、スケ4とか、練習途上のプロコフィエフの7番3楽章とか弾いたのですが・・・私の名刺代わりの曲になるのはスクリアービンの4番しかないのかな、などと思ったりもしたのでした。

まあ、全然弾けないと自覚しているところから再再々スタートしてみようかな、と思って、この頁も読んでみて、試しにメトロノーム90をつけてみました。第一印象は「よくこんな遅いテンポで練習していたな」だったのですが、少し弾いているうちに、「このテンポで弾けるようにならないと速く弾くのはもっと無理」という、当たり前の、4年以上前に悟っていたはずの、認識に立ち返りました。

「弾けている状態を維持したい」と思っているうちは、回顧調との戦いが尽きないのですが、「また上手くなってやる!」と意識が切り替われば、「非日常的高揚に至るこの曲」に取り組むのは気分的にはずっと簡単になります。プロコフィエフの7番3楽章も伸び悩んでいる今日この頃、またこの曲を何とかしようとし始めています。(2015.03.02)

 

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