愛知県碧南市 大浜八景「湊橋夏月」の情景を偲ぶ人あり いつの日か叶う夢

碧南市 失われた海を探して

引き揚げられた石

高木晃敬の写真は「湊橋夏月」を納得させる 湊橋岸辺にある石に願い

堀川左岸に放置される石

<光輪寺第10世・高木晃敬の残した写真は「美しき湊橋の情景」を後世に伝えてくれた。コンクリートしか知らない世代には夢の世界。港橋岸辺に引き上げられた石垣に昔の風情を偲ぶ人の想いを垣間見る。物語る貝殻と職人の腕。きっと大浜八景「湊橋夏月」の情景は戻ってくる> 棚尾・光輪寺10世の住職であった「高木晃敬(たかぎこうきょう)」は、幻灯機を用いて法話を行うという先進的な考えを持っていた人物。 彼が明治23年(1890)から25年(1892)にかけて撮影した名所・旧跡の写真は、今や碧南市の歴史を知る上で重要な財産となっている。 独特の円形フォーマットを持つ写真は、郷土史に興味のある方なら一度は目にしたことがあるはず。 彼の作品で「大浜湊橋風景」を撮影したものがある。 緩やかな弧を描く湊橋、夕暮れ時か大浜郵便局の軒先には雪洞の連なりが灯る。そして人の手により形成された石垣の羅列がなんとも暖かみを伝える。 時は巡って今はどうか? 湊橋は、コンクリの無粋な橋となり、両岸の石垣もまた味気ないコンクリの壁に塗りつぶされた。 何年か前から、湊橋近くの岸辺に石垣と橋土台の一部であったとみられる石が置かれている。 付着する貝から海中に長い間沈んでいたようだ。石には昔の職人が工作した跡が見られ、高木晃敬撮影の写真にあった石垣を思い浮かばせる。 何のために石を海中より引き揚げ、この場所に置いたのか?それはかつての風景を偲ぶ想い。 大浜八景のひとつに讃えられた「湊橋夏月」の情景は、きっと大浜に帰ってくる。<※注意:引き上げられた石は2008年の大浜堀川沿岸整備により消息不明>

大浜妻薬師堂脇の路地

<大浜・妻薬師堂にある3つの橋標だけを見て湊橋を語るなかれ。投棄される予定だった石を貰い受ける。妻薬師堂生け垣の下、長さ6メートル42センチの石積み。貝殻の付着は橋の土台であった印。木造時代の湊橋に寄せる想いが詰まった9つの石。妻薬師堂に見る湊橋のエピソード> かつては黄金の大黒像が発見され、センセーショナルな衝撃を与えた大浜・妻薬師堂。 由緒も建立年も不明な謎の寺院である。周りを囲んで念仏踊りが行われたという「赤灯籠形の六地蔵」、昔は称名寺の所有で元禄2年(1689)再建の記録がある「十王堂」といった存在が妻薬師堂の謎を、さらに複雑にさせている。 この妻薬師堂の敷地に明治38年(1905)の湊橋の橋標をはじめ、3点展示されている。 「美奈ふはし」と「湊橋」と刻まれた橋標は、大正15年(1926)に撮影された写真にしっかりと文字まで確認でき、堀川左岸の旧大浜警察署側に設置されていたことが分かる。 これらの橋標は大浜観光のガイドブックにも掲載されて有名だが、実はまだ知られざる湊橋の遺物がある。 妻薬師堂の生け垣を「米金商店」側の路地から見て欲しい。 生け垣の真下に9つの石を用い、長さ6メートル42センチに渡る2段の石積みが見えるはず。 3つの石には、穴や金属の跡。また1つの石には貝殻が付着している。 これらの痕跡は何を表すのか? 石積みの正体は、かつて湊橋の土台だった石たち。 木造からコンクリート造へと橋の付け替え工事が行われ、投棄される予定だった石を「捨てるには忍びない」と妻薬師堂世話人の方が貰い受けてきた。 美しい湊橋の風情を忘れ得ぬ人々のエピソードである。

ヘボト自画像ヘボトの「潮の香りは記憶を呼び覚ます」

懐かしい清涼飲料水の看板

「わたしや立つ鳥 波に聞け」

「昔は道のすぐそこまで海だった。いまじゃ分からんかもしれんが」と、話すのは大浜・妻薬師堂の縁側で日向ぼっこをするご老人。 私が昔の大浜に興味があると知るや、手を引いて「ここはこうだった。ここは…」と矢継ぎ早に教え、その抑揚溢れる話しぶりに圧倒されてしまう。 大浜港近くの民家路地に古いホーロー看板を見つけた。時代性を感じさせる清涼飲料水のデザイン。 聞けば、昔ここに船員相手の食料品店があったという。 「観光地化されていない大浜が好き」と語ってくれた人がいた。 大浜港界隈は「北川魚市」として大浜八景に讃えられた場所である。 「沖のかごめに潮どき聞けば わたしや立つ鳥 波に聞け」とは、大浜の船頭たちに歌われてきた舟歌。 「口は悪いが、心持ちはさっぱりとしている」と評された港町・大浜の人情をよく表している。 潮の香り漂う大浜港界隈を舟歌のメロディを口ずさみ歩いてみよう。

< text • photo by heboto >


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