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ほぼ週刊院長日誌
”MIYAZ@KI STYLE”

2004年2月26日 「タバコをめぐるナラティブ(物語り)」

 前回の院長日誌で予告しましたように、昨日(2月25日)は吉良町保健センターで開催された「禁煙教室」に、講師として参加いたしました。受講された喫煙者のみなさんは、受付をすませると、ただちに「スモーカライザー」という器械を使って、呼気(吐く息)中の一酸化炭素濃度(ヘビースモーカーほどその数値は高くなる)を測定。その後、10分間の禁煙教育ビデオの映写、45分間のわたしの話(禁煙漫談)、最後に参加者全員によるグループワークという、なかなかハードなプログラムをこなしていただきました。

 グループワークは、自己紹介を兼ねて、参加者のみなさんが最初に測定を受けた、自分の呼気中一酸化炭素濃度を公表するところから始まります。ついで、禁煙教室に参加した動機や、過去の喫煙および禁煙にまつわるエピソードを語ってもらいました。そして、最後に自分に適した禁煙の戦略を考えていただき、みんなの前で発表する、あるいは決意を表明をするというところで、第1回めの禁煙教室はめでたく終了。

 グループワークにはわたしも同席して、アドバイザーという立場で、みなさんのご質問などにお答えしました。宮崎医院で行っている「禁煙支援外来」では、禁煙希望のクライアントと、マンツーマンで対面してお話をうかがうというスタイルです。ところが、今回のように20名近い数のかたを相手にして、集団で禁煙カウンセリングをするのは、わたしにとっても初めての経験であり、大変勉強になりました。

 参加されたみなさんが語られる、タバコをめぐるお話は非常に興味深いもので、傾聴させていただきました。肺のご病気になり、手術まで受けられたのに、それでもタバコが止められず、退院前から病院のなかで吸ってしまったかた。夫は禁煙に成功したのに、自分だけは何度禁煙にチャレンジしても、どうしてもタバコが止められないと悩む主婦のかた。誤って火を消し忘れた吸いがらを投げ捨てて、自分の車のシートを燃やして火事になりそうになっても、またすぐにタバコに手がのびてしまうと苦笑いされるかた。喫煙や禁煙の経験を語ることは、すなわち、そのひとの生きかたを語ることにもなるようです。

 近年、「ナラティブ・ベイスト・メディスン(Narrative Based Medicine)」という概念が注目されています。「ナラティブ」とは「語り」、「物語り」という意味の英語ですが、「ナラティブ・ベイスト・メディスン」とは、患者さんと治療者の間で取り交わされる対話を、治療の重要な一部であるとみなし、患者さんが語る「病いの体験の物語り」に焦点をあてた医療のことをさします。禁煙を支援するカウンセリングを行ってみると、まさに「タバコをめぐる体験の物語り」の宝庫であり、「ナラティブ・ベイスト・メディスン」を実践する現場としては最適なのではないかと、わたしは思っています。

 ともかく、かなりのヘビースモーカーも含まれる参加者全員が、禁煙教室が行われた午後の1時から3時すぎまでの間は、1本のタバコも吸わずに禁煙できたことは喜ばしい事実です。禁煙支援の鉄則として、決して「無理強い」をしてはならないし、「どうしてもタバコを止めさせてやろう」などという「意気込み」も禁物であると言われています。インターネット「禁煙マラソン」の主宰者で、日本を代表する禁煙支援ドクターである高橋裕子先生は、「花のつぼみも時期がくれば開くように、機が熟せば、禁煙は自然に成るものである」ということを書いていらっしゃいます。(高橋先生の著書である「こちら禁煙外来」という本は、タバコをめぐるナラティブの宝庫です。タバコや禁煙に関心のあるかたはぜひご一読を!)わたしも参加者のみなさんが、いつの日か「禁煙」という大輪の花を咲かせることをお祈りして、支援を続けていきたいと思います。



<吉良町で初めて開催された「禁煙教室」>


2004年2月14日 「煙が目にしみる Smoke gets in your eyes」

 男性の62.5%が、女性の喫煙を好ましく思わず、喫煙する男性を好ましく思わない女性32.5%を上回るという調査結果が発表されました。この調査は、禁煙用のニコチンガム「ニコレット」を製造しているファイザー製薬が、バレンタイン・デーを前にして、インターネットなどで20-30代の男女を対象に行ったものです。また同じ調査によると、「結婚相手にタバコを吸わない人がよい」と回答したのは、男性70.0%、女性50.5%という結果が報告されています。喫煙する異性に対するマイナスの印象を回答したのは、男性のほうが圧倒的に多いというわけですね。

 ニュースのコーナーでもお知らせしましたように、2月25日(水)に吉良町総合保健福祉センターで開催される、初の「禁煙教室」の講師になってしまったわたしは、本番を前にして、タバコの害や禁煙について、猛勉強の日々を送っております。当院でも、ニコチンパッチ「ニコチネル」を利用した「禁煙外来」を行っていますが、「禁煙支援ドクター」としては、まだまだ新米ですので、このチャンスを生かして、もう一度最新の知識や情報を集めているところ。

 その情報収集中にみつけた「教材」を、ひとつご披露いたします。この下にある、2人の女性の顔写真を見てください。これは、22才の双子の姉妹が、喫煙した場合と、しなかった場合の、40才になった時を予測した写真なのです(米国「Action on Smoking and Health」ホームページより引用しました)。左がスモーカーであるクリスティーさん、右がタバコを吸わないケリーさん。クリスティーさんの写真を見ると、長期の喫煙の影響で、顔色が悪く、肌に張りがなくなり、しみやそばかすが増え、乾燥したしわの多い皮膚になっています。また、歯にはヤニがつき、歯肉の色も悪いのがわかります。右の双子の姉妹であるケリーさんの顔と比較すると、10年以上老化がすすんでいるようです。



<22才の双子の40才時を予測した写真。左が喫煙した場合です!>

 もし、わたしが中学生や高校生の女生徒を前にして、禁煙のはなしをする機会が訪れたならば、必ずやこの写真を講演の冒頭で大写しにして見せたいと思います。小難しいデータや理屈を並べ立てるよりも、この1枚の写真が「喫煙は女性の若さと美しさを台なしにする」という事実を、若い女性たちに伝えてくれることでしょう。世の男性たちは、動物的なカンにより、このような事実をなかば本能的に察知しているから、女性の喫煙に対してきびしい態度をとるのでしょうか?

 わたしがお話する吉良町の禁煙教室は、まだまだ空席多数の様子です。このような衝撃的映像もまじえた禁煙漫談をお聞きになりたいかたは、2月25日午後1時に総合保健福祉センター2階第2,3研修室までおいでください。(申し込みとお問い合わせは、電話0563-32-3001 保健センター 保健師 堀さんまでどうぞ)


2004年2月7日 「かぜのひきかた」

 2月に入って立春の声を聞いても、全国的にインフルエンザの患者さんが増加しており、比較的大きな流行であった昨シーズンのピーク時並になっていると、ニュースが伝えています。当院でも相変わらず、ワクチン未接種のかたを中心として、インフルエンザの発生は続いている状況です。レセプト(診療報酬明細書)を点検する際に調べてみると、本年1月に宮崎医院でインフルエンザと診断され、治療を受けられた患者さんの数は79名でした。

 38℃以上の急激な発熱、悪寒、筋肉痛・関節痛、強い倦怠感など、インフルエンザに特徴的な症状を訴えて来院されたかたは、1月だけでも127名にのぼりました。その患者さんたちを対象として、インフルエンザ抗原迅速診断キットによる検査を実施しています。迅速診断キットは便利ですが、明らかに典型的なインフルエンザ症状があるのにもかかわらず、検査では陰性であったり、あまり激しい症状はないけれど、高熱があるので念のためと思って検査したら、しっかりと陽性に出たりするので、臨床医としては悩んでしまう場合もあります。

 特に発熱から6-12時間以内に来院された患者さんでは、検査が陽性に出にくい印象です。また、初診時は検査が陰性のために、インフルエンザの治療薬を処方しなかった患者さんが、1〜2日後に症状が悪化されて再診となり、もう一度検査をやり直してみると、今度は強陽性になっていることも数例ありました。したがって、迅速診断キットが陰性であっても、患者さんの症状や、発症からの時間経過、ワクチン接種歴、家庭・学校・職場でのインフルエンザ患者との接触の有無などを総合的に判断して、インフルエンザの診断と、その治療薬である「タミフル」を処方するかどうかの決定を行っているのが現状です。

 昨年、町の開業医から千葉大学医学部総合診療部の教授に転職されて話題となった生坂政臣先生は、その著書のなかで「かぜのような、ありふれた日常病こそ、1例1例丁寧な診察を積み重ねていかないと真の力にはならない。軽症のかぜでも丁寧にたくさん診ておけば、かぜ類似の症状を呈する重篤な疾患に遭遇したときに、何か違う、という勘が働くもので、見逃しによるミスを防ぐことができる」という意味のことを書かれていますが(「見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール」医学書院刊)、まさに肝に銘じるべき至言です。

 先ごろアップした「ぷち健康講座」のなかでも論じていますが、かぜの診療は奥が深く、様々な問題点を含んでいます。迅速診断キットを積極的に導入してみると、インフルエンザの患者さんだけを取りあげても、本当に多彩なバリエーションがあることが実感できました。また、ほとんど1年中「自分はかぜをひいている」と主張される患者さんもありますが、このような場合はせき、のどの痛み、鼻汁などの上気道炎の症状はなく、ただ「何となくぞくぞくする」とか、「何となく熱っぽい」という訴えだけです。「年中かぜひき」という患者さんのなかには、身体症状が前面に出た「うつ病」が隠れている場合があり注意が必要です。

 わたしは、この「何となくかぜっぽい」という患者さんたちを診察するとき、先年惜しまれて亡くなった辻 征夫(つじ ゆきお)さんの詩を思い出して、「こころぼそい」という感情を、「かぜ」という病気に託して医者に伝えようとしているのだと解釈することにしています。うーん、やはり「かぜ」の診療はむずかしい。それでは、みなさまにも、辻さんの「かぜのひきかた」をご紹介しましょう。

かぜのひきかた

辻 征夫

こころぼそい ときは
こころが とおく
うすくたなびいていて

びふうにも
みだれて
きえて
しまいそうになっている

こころぼそい ひとはだから
まどをしめて あたたかく
していて
これはかぜを
ひいているひととおなじだから
ひとは かるく
かぜかい?
とたずねる

それはかぜではないのだが
とにかくかぜではないのだが
こころぼそい ときの
こころぼそい ひとは
ひとにあらがう
げんきもなく

かぜです

つぶやいてしまう

すると ごらん
さびしさと
かなしさがいっしゅんに
さようして

こころぼそい
ひとのにくたいは
すでにたかいねつをはっしている
りっぱに きちんと
かぜをひいたのである

(詩集「かぜのひきかた」 書肆山田・刊 より)




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