金平狸

金平狸は、碁が好きで、近所のお寺へ行っては、和尚と碁を打ちました。いつも和尚を負かしていました。
 だから和尚は、金平狸を負かしたくてたまりません。どうしたら金平狸を負かす事ができるか考えに考えました。
 名案がうかんでまいりました。小僧さんを呼んで、こういいつけました。

 「こんど金平が来て、碁を始めたら、すぐとなりの部屋で、てんぷらを始めてくれ」
 例によって、金平狸が、のそのそやってまいりました。もちろん碁です。ぱちん、ぱちん、和尚を相手に打ち始めました。
 碁を二面打って二面ともまけた和尚が、つるつるの頭をなでている頃でした。
 「弱いな」
 金平狸が言いました。
 「もう一局いこうか」
 「いこう」
 今日こそは、と、胸にいちもつある和尚です。いつもとは違います。必死の必死、盤面に目をこらしてやります。
 金平狸は、盤面から外へ心が走っております。というのは、うまそうなてんぷらの匂いと、チリチリ、ジュウジュウ言う油の煮える音に、気が気でありません。

 えたりかしこしと、和尚の石は、金平の石をつめて行きます。金平狸はもうやめたくて、それよりてんぷらの方へとんで行きたくて、そのあまり布石にみが入らず、とうとう二面とも金平狸の負けでした。
 「どうした、金平さん、しっかりせいよ。おやおや、ああんた、尻尾まで出しているじゃないかい」
 「まいった、まいった」
 
まいった金平狸が帰りかけると、
 「今日はお土産を持って行け、わざわざ作らせたのだから」
 和尚がてんぷらを、たくさん包んでやりました。
 それ以来、金平狸は、お寺へ来なくなったということです。

 この金平狸は、またソロバンの名手だったそうです。
 氏神さまの近くへ店を出した婆さんがさっぱりソロバンができず、指を折ったり豆粒を使ったり、算用になんぎしていると、すぐ金平狸がやってきて、助けたそうです。

 また、神主が、松山の城下へ出て行って、日がくれたりすると、金平狸が、定紋入りの提灯をさげて途中まで迎えに来たともいわれております。かんしんな狸もいるとみえます。

 この金平狸は、伊予郡、荏原村、大宮八幡の森にすんでいたということです。

(合田正良著 伊豫路の傳説 狸の巻 より)


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